難病ALS女性を安楽死で医師2人を逮捕... もし獣医師がペットの安楽死を依頼されたら?
全身の筋肉が衰える難病「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)の患者から依頼を受け、薬物を投与して殺害したとして2人の医師が逮捕されました。このニュースは、動物の命に携わっている筆者には、ショックでした。人の患者さんとお医者さん、そして法律が絡む話なので、そのことについての議論は専門家にお任せします。ここでは、飼い主がペットを「安楽死」させたくなったら、獣医師が「安楽死」を依頼されたらどうするのか?を一緒に考えていきましょう。
ALSの当事者や生活を支える人たちを直接、存じているわけではありません。ALSという病気は、筋肉が萎縮している疾患なので、だんだんと24時間、介護が必要ですね。その点、ペットも飼い主の世話がないと自分で食べたり、飲んだりすることができない病気もあります。
ペットショップで購入したけれど気にいらないから、餌や水をあたえなかった
このようなケースは、「愛護動物虐待罪」に当たる可能性があります。
「愛護動物虐待罪」とはざっくり説明すると、以下です。
・みだりに、餌をあげない、水をあげない。
・健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束することにより衰弱させること。
・排せつ物の堆積した施設または他の愛護動物の死体が放置された施設で飼育すること。
・虐待をした。
などです。
動物のケースの安楽死とは何か?
安楽死(ペットの場合)とは、回復の見込みがない、苦痛の激しい末期の傷病に対して、飼い主と獣医師の意思に基づき、薬物を投与するなどして人為的に死を迎えさせることです。具体的な例で見ていきましょう。
・ペットが癌になり治療をしてあげたいけれど、いまの医学ではなおる見込みがないし、治療費が払えないので、安楽死してほしい。
犬や猫が長寿になり、癌の子も増えていますが、このような問題は難しいですね。
弁護士の知り合いに相談したところ、法律的には、ペットに痛みや苦痛などもあれば安楽死やむなしとなる可能性もあり得るそうです。 経済的負担もあれば、さらに安楽死やむなしという理由になるかもしれません。
しかし、私は法律家ではなく獣医師ですので、個人的な見解を述べますと、現実問題として、獣医師は積極的に安楽死をしてくれない、と思います。
これは、あくまでも筆者個人的な意見ですが、動物の命を救うために、獣医師になったので、飼い主に安楽死を依頼されても断ります。ペットが癌になったとき、飼い主は、混乱したり不安になります。愛犬や愛猫たちに、痛い思いをさせているのではないか、と思いを馳せるわけですから。飼い主は、ペットたちは話してくれないので、余計にわからなくなります。筆者は、長い間、臨床をしていますので、飼い主が冷静な判断ができるように話し合います。
動物の命は、かけがえのないものです。その代わりに積極的な治療はしませんが、経済的なことも話し合いながら、痛みのコントロールをして、少しでもペットに苦痛を感じないようにします。飼い主にできること、たとえば、ペットが水を飲み難くなると、ガーゼで口を拭いてもらうとか、寝がえりが打てなくなれば、床ずれができないようにしてもらうとかを提案します。そのようなことを提案しながら、ペットが安らかな時間を迎えられるように務めます。
・飼いたいけれど、近所の人にけがを負わせた、死亡させた犬なので、安楽死してほしい。
筆者は獣医師ということもありますし、個人的には、犬には罪がなく、飼い方、環境が悪いと思います。このような不幸な事件は、犬の特性(獰猛性があるか?)を理解して飼育してほしい、と考えます。現実問題、亡くなったり、けがをしたりする人がいるわけですから、その辺りも考慮してしないといけませんね。行政と相談して、犬の適性と飼い主の環境をチェックして、どうするか判断するのでしょう。犬を再教育をして、そして運動などを十分行い、人に危害を与えないようにしてもらいたいです。できるだけ、安楽死させずに更生させる道を私は望みます。
・飼い主が引っ越しで高齢の犬で飼ってくれる人がいないので、安楽死してほしい。
普通に行政にそのような犬を持っていっても引き取りも拒否されるパターンです。まずは里親を探すように、要求されます。手を尽くして探して見つからないケースでも、いまやSNSや愛護団体と相談してみるなどの方法もあります。現実問題、そのようなケースで獣医師が安楽死をしてくれるか、どうかも問題が残りますね。
まとめ
筆者は、ペットの癌の治療を多くしています。癌の治療をして全てのペットが寛解することはできない現実を抱えています。だからと言って、安楽死をするわけではありません。
飼い主が癌の子や難治性の子とともに生きていくことを支えるのが獣医師の務めだと考えています。どんなにつらい症状でも、たとえ治すことはできなくても、生きることを否定せず、痛みのコントロールをしながらロウソクが消えるように、最期を迎えてもらうのが、理想です。
飼い主によっては、安楽死を求めている人がいることも理解しています。そのような場合は、かかりつけ医と安楽死について話し合いをしながら、治療をすすめるのが、いいのではないでしょうか。
つい先日の第163回直木賞受賞作『少年と犬』馳星周著の中に、まさにこのテーマで考えられるシーンもあります。ネタバレにならないよう、詳細は控えますが、この本を読んで動物の「命のあり方」を考えるのもいいかもしれません。
参考サイト