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90歳を過ぎた母親は元気だけれど、70代夫は要介護。いつまで母親は「1人暮らし」を続けるのか?

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
イメージ画像(写真:イメージマート)

 女性の2人に1人、男性の4人に1人が90歳を迎える時代です。少し前までは、90歳といえば、かなりの長寿であり、「1人暮らし」と聞くと驚いたものです。が、いまや珍しい事象ではなくなりつつあります。一方で、親を介護するつもりだった子の方が先に倒れることも……。

90代の母親から心配されて

 ミカさん(60代)の母親(91歳)は郷里の実家で1人暮らし。畑仕事をして、毎日規則正しい生活を送っているそうです。ミカさんは70代の夫と2人暮らし。夫は肺の病気を患っており、「要介護1」。デイサービスに通っています。

「この先のことを考えると不安でなりません」とミカさん。ミカさんは1人っ子。母親に介護が必要になったら、「自分しか介護をする者はいない」と話します。しかし、夫の介護があり、実家に駆けつけることも簡単ではありません。自分自身も、老いを感じることが増え、体力低下が気にかかると言います。

 ミカさんは不安を軽減するために、母親に対し、施設入居を勧めています。

ミカ 「もう90を過ぎているんだし、いつ、何があるかわからない。今のうちに、施設に入ろう」

母  「施設になんか入らない。ミカは、〇〇さん(ミカさんの夫)の介護をしっかりね。私は大丈夫だから」

 この会話を何度繰りかえしてきたことでしょう。

「90代の母から心配されて、情けないやら、イラっとするやら……。でも、いつか必ず母も倒れる。私1人でどうすれば……」と、ミカさんはため息をつくのでした。

85歳以上の女性1人暮らしはとても多い

 親が90歳を超えれば、子も高齢期であることが多いでしょう。自分や配偶者の体調に不安が生じてくる時期となります。一方で、90歳超でも、ミカさんの母親のように元気な方もおり、親子の逆転現象が生じることも少なくありません。

 以前、1人暮らしの高齢女性を取材したテレビ番組を見ていたときです。90代くらいの女性が、遺影を指さし、「これが長男、これが次男」と説明している様子が映り、何とも複雑な気持ちになりました。

 高齢者の1人暮らしは確実に増加しています。国民生活基礎調査の高齢者のみ世帯の世帯構造によると、「単独世帯」が49.3%。「夫婦のみの世帯」(46.5%)より多くなっています。当たり前と言えば当たり前です。夫婦で暮らしていても、どちらかが先に亡くなり、1人暮らしに。その年齢構成では、男性は「70~74歳」が29.8%、女性は「85歳以上」が24.3%と最も多くなっています。

「高齢者世帯の世帯構造」2021年 国民生活基礎調査厚生労働省
「高齢者世帯の世帯構造」2021年 国民生活基礎調査厚生労働省

元気な親は施設を嫌がる

 ミカさんが将来を不安視し母親に施設入居を勧めたくなる気持ちはわかります。しかし、ほとんどの親は、「施設に入りたくない」と言います。ましてや、ミカさんの母親は畑仕事をされているので、自宅で暮らし続けたいと思うのは当然です。畑仕事をしているから、元気でいられるのだとも言えるでしょう。

 施設入居を勧めても、考え方の相違から拒否をされ互いにストレスがたまるだけなら、「いまの生活を見守ろう」と考え方を転じることをお勧めします。「親の人生なのだから、仕方ない」と割り切る方が楽になります。

見守るために

 自治体では、1人暮らしの高齢者を見守るためのさまざまなサービスを提供しています。郵便受けの新聞などがあふれていないか、ゴミ出しができているかなど、さりげなく見守ってくれる取り組みがあります。定期的に訪問したり、食事や乳酸飲料を配達して、安否確認を行うところも。また、緊急時に通報できる緊急ボタンを設置してくれるところもあります。

 親の暮らす自治体に、どのようなサービスや支援があるか、地元の地域包括支援センターに問い合わせてみましょう(費用は高くなりますが、民間サービスにもさまざまなタイプがあります)。

 地域包括支援センターには、下記のように具体的に相談してみてください。

相談すること(例)

「91歳の母親が1人暮らしをしているので心配しています。見守りサービスはありますか?」

「支援や介護を必要としていませんが、何か利用できるサービスはありませんか」

「私は1人っ子ですが、要介護の夫がいるので、頻繁に帰省はできません」

「私自身、体力の低下から、母に何かあっても、直接介護を行うことは困難です」

早い段階で地域包括支援センターにつなぐ

 母親に対し、「在宅を応援する」と意思表示したうえで、「もし1人暮らしが難しくなったら、私は看られないから施設に入ってね」と話しておくと良いでしょう。できれば、その日のために、一緒に施設を見学し、イザとなったらどのお金を使えば良いか、引き出し方も含めて母親のお金の情報を聞いておきたいところです。

 親が90歳を超せば、「親を看るのは自分しかいない」と思い詰めることはやめましょう(90歳未満でも同様です。家族だけで看ることは困難)。自分自身を追い詰めることになります。90年も生きている人の気持ちを翻すことは容易ではなく、必ずしも子の考えが正しいとも言えません。親と子の人生は別物です。

 命に危険が及びそうであったり、地域の方に何らかの迷惑をかけたりすることは避けなければなりませんが、「なるようにしかならない」と気持ちの切り替えを。

 何らかの事情で子が動けない場合も、お願いすれば、自治体は1人暮らしの高齢者を放置することはありません。

 そのためにも早い段階で、地域包括支援センターに親のことをつなぎ、なおかつ社会資源を利用するための親の経済的事情を把握しておくことが大切です。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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