60代女性、90代の父親を騙して「介護付き有料老人ホーム」へ「罪悪感はあるけれど」
人生100年時代といわれるようになり、親に介護が必要になるころ、子ども自身も高齢者の仲間入り。気持ちはあっても、親の介護をすることが現実的には難しいケースもあります。Fさんも来年は自身が70歳。90代の親を介護することは「厳しい」といいます。
Fさんの事情:父の長生きは結構なこと?疲れてしまった
「実家で一人暮らしをしていた90代の父親が骨折で入院しました。退院後は自宅に戻ることを望んでいましたが、一人暮らしは困難です。友人や知人は、父の長生きを『結構なこと』と言うけれど、そんなに単純なことではない……。頑固だし、私の言うことに耳を貸してくれないし」
◎Fさんの選択
「父親には『転院』と偽って介護老人保健施設へ。その間に介護付き有料老人ホームを探して、再び『転院』とウソをついて入居させました。騙していることに罪悪感がないわけではありませんが、私も来年70歳で体力的にも父の介護は無理です。仕方がなかった……」
【解説】
ウソをついての入居はできるだけ避けたいが
Fさんの父親は、「退院後は家に帰る。施設には入らない!」といっていたそうです。仕方なく、ウソをついての入居。その後の関係性が崩れる可能性があるので、できれば、親には納得の上で入居してもらいたいものです(多くの人が悪戦苦闘。成功するケースもあります)。
けれども、うまくいかず、Fさんのように「誤魔化しつつ入居させた」という声をしばしば聞きます。善悪は横に置き、仕方がないこともあるのでしょう。
人生100年時代では、親の老後と子の老後が同時進行……。2024年には、100歳以上の高齢者の数が9万5000人を突破、100歳超が珍しいことではなくなりつつあります。共倒れを避けるために、高齢者施設を活用することは選択肢です。
覚えておきたい「老健」をはさむという方法
Fさんの父親は有料老人ホームに入居する前に、介護老人保健施設(老健)を利用しました。老健とは要介護者の在宅復帰を目的とした公的な施設です。入院治療をしていた人が、「退院は決まったけれど、まだ自宅に戻って生活する自信がない」といった場合に利用できます。老健の入居期間は、通常3か月ほどです。
「すぐには、高額なので有料老人ホームを決めることはできませんでした。そこで、まずは、老健を利用して、その間に有料を探すことにしました」とFさん。
「転院することになった」
3か所の老健を見学し、明るい雰囲気で一番気に入ったところを選択。父親には「転院」といいました。
父親が老健にいる間に、Fさんは4か所の有料老人ホームを見学。最も印象がよく、父親の年金と貯えで支払えるホームを選び、本人には「もう1回、転院することになった」と偽って、老健から移動させました。
「もしかすると、父は『いずれ、自宅に戻れる』と思っているのかもしれませんが、それは難しいです。介護付き有料老人ホームに入ってくれてほっとしています」と、Fさんは話します。
<施設説明>
●介護老人保健施設
永続的な入居ではなく、在宅復帰を目指すための公的施設。特養の入居待機場所として利用しているケースも多い。入居期間は原則3か月ほど。
【入居条件】要介護1以上 【費用目安】初期費用0円, 6~17万円/月
●介護付き有料老人ホーム
施設職員が24時間体制で介護サービスを提供する民間施設。都道府県から「特定施設」の指定を受けている。
【入居条件】要支援1以上 【費用目安】初期費用0~1億円, 12~40万円/月
※この記事は2024年11月7日に発売された自著『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第3版』(翔泳社)から抜粋し一部改編し転載しています。