北中米W杯最終予選:今の日本にはストライカーはいるが、エースストライカーがいない
北中米W杯最終予選、日本は中国に7‐0、バーレーンに5‐0で勝利し、過去の最終予選にもない最高のスタートを切った。12ゴールを奪った攻撃陣、失点ゼロに抑えた守備陣ともに素晴らしい出来だと思うし、現状の日本のレベルの高さを結果で証明したと言える。ただ、個人的には、12ゴールの中身には、少々課題が残ると思っている。以前からセンターFWに物足りなさを感じていたが、それは今回の2試合で払拭できたわけではない。中国戦でゴールを奪ったのは7得点すべて2列目と3列目の選手。バーレーン戦は、上田綺世が2ゴール、小川航基が1ゴールを挙げたが、上田と小川はもっと点が獲れただろうし、浅野拓磨もいつものように決定的チャンスをふいにしている。
今の日本にはストライカーはいるが、エースストライカーがいない
上田はこの2試合でスタメン起用されたようにチームではエース格にある。それだけに得点はもちろんプラスアルファ以外でのチームへの貢献度を考えると物足りない。卒なくプレーをするが「自分がゴールを決める!」「自分がなんとかする!」という気迫みたいなものが伝わってこない。ストライカーは点を獲るのが仕事で、その部分についてはエゴイストでいいのだが、すごくおとなしい。プレーを見ていると周囲の選手に対してほとんど要求していない。
ヴィッセル神戸の大迫勇也は、試合中「ここに出せよ!」って本気で怒鳴っているだけでなく、出てくるまで言い続けている。それは自分への自信があるからでもあるが、自分の良さを120%出すため、ゴールを決めるための妥協しない姿勢の表れであり、そうした人への要求からゴールへの意欲、本気度が分かる。要求するということは責任が生じる。その責任を果たさないと仲間から信頼されなくなる。それでも要求し、結果を出すことで周囲から認められる。
上田は、大迫のように腹を括ってやるんだ!、点を獲るんだ!という意識が足りない。それは小川もそうで、伊東からのクロスを打とうとして横に走り込んできた浅野に譲るようなシーンがあったが、そこは体を投げ出してでも自分が打つべきところだ。チャンスを人に譲るようではスタメンでは出れないし、日本代表のエースストライカーにはなれない。
昔、フランスW杯で得点王に輝いたダヴォール・シューケル(クロアチア)と対談した時、彼は「FWは99%がストレスで、いつもイライラしている。でも、その1%の快感を得るためにプレーしている。だから俺に出せって要求するんだ」と言っていた。欧州では自己主張できない選手は消えていく。FWだけじゃなく攻撃的な選手は結果を出して評価を高めていきたいと思っているので、より要求し、へたすりゃ喧嘩にもなる。でも、そのくらいの姿勢がないと世界では点は獲れないし、どんな状況でもボールを集めさせるのがエースストライカーだと思う。
上田は技術があるし、パンチ力もある。ロングボールの競り合いも強く、ヘディングで勝てている。しかし、勝っているだけでそこから繋ぐとか次への展開がない。できる選手なのでやった方がいいけど、そういうところがかなり雑。今はアジアの中でやれているが、これが世界の強豪国になったら果たして今のようなプレーで得点に絡めるのか。もっと感情を表に出して要求し、ゴールに対して貪欲にプレーしていかないと世界では点を獲るのは難しい。
三笘薫の突破力
一方、故障明けで出場した三笘(薫)は、非常に良かったと思う。絶好調時に比較するとまだまだだと思うが、やはりボールを持ったら「突破していく」という意識が素晴らしい。ドリブルは相変わらず一級品だし、突破する時としない時のタイミングの取り方が絶妙だった。ボールを持って相手が構えている間にパスを通したり、周囲の使い方も抜群にうまい。すごく視野が広がって、周囲が見えているなという感じがする。守田(英正)への4点目のパスは、ほぼボールを見ないでドリブルして、守田がそこに走り込むのを想定してパスを出している。しかもGKとDFの間を狙って出しているので、精度が非常に高かった。そこに中村(敬斗)との違いが見えた。中村も突破してクロスを上げるが、そこに誰かがいてくれたらいいなっていう感じで、三笘のように狙いどころがあってクロスを出している感じではない。ここというところで出せるようになると三笘の尻尾を掴んでいけるかなと思う。
バーレーン戦は全体的に三笘らしさが出ていたし、プレーのひとつひとつに成長しているのが感じ取れた。あとは強豪国とやった時、あるいは4バックになった時、今回のような質の高いプレーを見せられるかどうか。左サイドバック候補の中山(雄太)は頻繁にオーバーラップするタイプではないが、その方が三笘はやり易いかもしれない。ブライトンでは強豪相手に押し込まれても、三笘は守備をしながらけっこう長い距離を走ってゴールに絡んでいる。ただ、相手の能力が高いと守備に追われる時間自体が増えるので、負担が大きくなる。そのなかで今、三笘がどんなプレーをするのか見てみたい。
セットプレーの精度と重要性
選手の良し悪しが見えた中、チームとしての課題も見えた。アジアカップや2次予選もそうだったが、セットプレーはもっと精度を高めていくことが必要だろう。中国戦では遠藤航がコーナーキックから決めたが、12点獲ってセットプレーからの得点が1点のみというのは、今後、世界と戦っていく上で物足りない。セットプレーがなかなか点に結びつかないのは、ひとつはキッカー不在が大きい。今は久保(建英)がメインに蹴っているが、(中村)俊輔、ヤット(遠藤保仁)のレベルには達していない。久保は俊輔から蹴り方を含め、イメージ的にこういう風に蹴ってみるといいとか、いろいろ聞いているようだが、蹴り方は個人の癖があるし、体格も違うので久保は俊輔と同じように蹴れない。ただ、質を上げていくことはできる。俊輔たちのようにピンポイントで狙ったところに蹴るというのは簡単ではないが、セットプレーを日本の武器にするためにはキッカーも育てていかないといけない。もちろん、サインプレーとか、もっと細かくセットプレーをデザインしていくことも重要。しかし、試合でのセットプレーを見ていると、そこまでやっているのかなと疑問に思う。いつの時代もそうだが、セットプレーで点が獲れるのはめちゃくちゃ大きい。拮抗したゲームや力関係が上のレベルのチームとやる時、セットプレーで点が獲れると勝つ確率が上がる。最終予選はアジア相手でチャレンジできる環境にあると思うので、いろんな工夫をして試してもいいと思う。