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激闘を制したスペインが金!その強さを言語化してみた

城 彰二元サッカー日本代表
喜びを分かち合うスペイン代表(写真:ロイター/アフロ)

スペインは強かった。

パリ五輪の男子サッカー決勝、フランスが先制したもののスペインがすぐに追いつき、前半を3-1で折り返した。流れ的には、このままスペインが2点差をうまく使い、フランスの攻撃をいなしながら勝つんだろうなと思った。

しかし、後半に受けに回ってしまい、3‐3に追いつかれてしまった。

そこからスペインが本当の強さを見せつけた。延長前半、勢いはフランスにあったが、後半の猛攻で、やや攻め疲れしていた。スペインは守勢に回っていたが、後半終わり間際のフレッシュな選手の起用と4バックに戻すことで前半のスタイルを取り戻した。パス回しでフランスの足を止まらせ、ここぞという時にスピードアップして攻める。そうして延長前半10分にゴールが生まれ、延長後半にカウンターでとどめを刺した。5-3で打ち合いを制し、バルセロナ大会以来、32年ぶりの優勝を果たした。

スペインの強さは、どこにあるのか?

フランスとの違いでいえば、運動量だろう。ボールを保持した時、その周辺の選手が非常に良く動く。フランスの選手の合間に顔を出したり、背後を狙ったり、フリーランで長い距離を走ったりするので、パスの出し所が1本ではなく、2本、3本と選択肢が広がる。周囲が動くので相手はボールホルダーをマークしづらくなり、プレッシャーも掛けにくくなる。そのため、自由にパスを通されて、決定的なチャンスを作られてしまう。

フランスは、ボールホルダーの周辺があまり動かないので、個のパワーとスピードでいくしかない。デジル・ドゥエが再三、突破を試みていたが、単独だとなかなか崩し切れず、スペインは守りやすかったと思う。

攻撃面では、シュートのうまさが際立った。

延長前半10分、セルヒオ・カメロが冷静にGKの動きを見極め、浮かして決めたが、「うまい」と唸らせるゴールだった。スペイン戦で細谷真大が後半に1対1のシーンで、最初に決めたコースにそのまま打ってGKに弾かれたシーンを思い出したが、この差は大きい。日本人の多くは、シュートを打つ前に考えてキックする。だが、カメロを始め海外の選手はシュートを打つ前はそれほど考えておらず、打つ瞬間、的を狙った中で最後に変化をもたらす。そういうシュートの考え方やタイミングの取り方が「決定力」の違いになって表れてくる。

なぜ、そういう差が生じるのかは、子どもの頃の指導の影響が大きい。日本ではつま先でチョンと蹴るみたいなシュートをさせないし、外したら「何、外しているんだ」と怒られる。でも、スペインでは育成年代を見ていると、そういうシュートで決めると「ナイスアイデア」と褒められる。練習や試合の中で遊び感覚を養いつつ、シュートのバリエーションを磨いている。それが大人になった時、シュートの際の冷静さやバリエーションの多さなど、大きな違いになって出てくるんだと思う。攻撃ばかりに目が行きがちだが、スペインは守備も金メダルに匹敵するほど良かった。球際の強さ、トランジションの素早さはもちろんだが、とにかく中央が堅い。サイドをやられても「ボックス内でやられなければ大丈夫」という意識がユーロで優勝した時のスペイン代表もそうだったが、全員に染みついている。

シュートブロックもプレッシャーの掛け方や体の投げ出し方が抜群にうまい。

スペインのDFは相手FWがシュートモーションに入って振りかぶって、もう止められない時、コースを想定してブロックに来る。そのまま打つと足や体に当たってしまうので、足首をひねって少しズラして打つが、そうするとミスしてゴールの枠外に飛ぶ可能性が高くなる。シュートを打たせない、ミスを誘うという意識が高く、フランスにいい形でシュートを打たせなかった。日本の守備陣も技術があるが、「絶対に打たせない」という意識がまだまだ足りないので、フェルミン・ロペスに豪快なミドルを決められた。こういう差をひとつひとつ詰めていかないとスペインのレベルの国には勝てないと思う。

そして、日本、、、。

日本は優勝したスペインに負けたので、「やむなし」と思うかもしれないが、世界との差は大きい。もう1回スペインと対戦しても勝利するのは相当に難しいだろうし、フランスと対戦してもスペイン戦の後半の攻撃の圧力は日本だと耐えきれずに複数失点していたかもしれない。そのくらい全体としても個としても差があった。だが、大会後、大岩剛監督は「今大会で通用しなかった部分はありません」と語った。スペイン戦の惨敗を見て、この言葉を聞くと違和感しかない。選手に気を使って言ったのか、本気でそう思ったのか、真意は分からない。「負けに不思議の負けなし」という言葉があるように通用しないところがあったから負けたので、それが何なのか、今後の五輪世代や育成年代のところに活かしていかないと、いつまで経っても「メキシコ五輪の栄光」から脱することができない。海外クラブとの交渉力を高めるとか、いいメンバーを集めるだけではなく、もっと育成段階から個の幅というか質を高めていかないと今後もメダルには届かないと思う。

パリ五輪サッカー男子準々決勝で敗退した日本代表
パリ五輪サッカー男子準々決勝で敗退した日本代表写真:ムツ・カワモリ/アフロ

日本の結果を受けて、チームや選手への誹謗中傷がいつも以上に目についた。他競技でもそうで、顔の見えないSNSの批判は度を越えているように思える。自分たちの時代は、SNSがなかったので直接、罵声を浴びせられた。フランスW杯最終予選、国立競技場でUAEに引き分けた時は、サポーターにバスを止められた。怒号が飛び、唐揚げの骨や椅子が飛ぶ中、カズさんが外に出て抗議しようとしたシーンは今も忘れられない。自分もフランスW杯でゴールを決められず帰国した際、空港で水をかけられた。それはそれで怖かったけど、今の方が陰湿だし、やられる選手の心の傷は大きいと思う。批判がプレーや試合内容ならともかく、その人の態度や人格否定とか、「死ね」とか意味不明な暴言が出てくるのは、さすがにアウト。今後もなくなりはしないと思うけど、SNSは今や世界に通じるもの。自分の発言の重みを考え、本人を目の前にして言えないことは言うなよって思う。

パリ五輪の経験をA代表へ。

パリ五輪のサッカーが終わったが、優勝したスペインは、スーパーな選手は存在せずとも全体的にレベルが高い選手が揃うと、これだけのサッカーができるんだというのを見せてくれたし、サッカー自体も非常におもしろかった。フランスの個の強さは強烈だったし、モロッコが強度のあるサッカーと得点力で銅メダルに輝いたのも印象的だった。

この大会を経て、選手はA代表へと舞台を移す。

日本を始め、各国の代表もこの世代からどのくらい上にあがってくるか。北京世代では本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司、香川真司、内田篤人、東京世代では久保建英、堂安律、三笘薫、冨安健洋らが日本代表入りした。各世代で名前が挙がったのは、どういう選手か。代表で生き残ってきた選手は、どういうマインドを持っていたのか。時代が変われど必要なものは変わらない。それに気づけば、パリ五輪の経験はより大きなものになるだろう。

元サッカー日本代表 城 彰二 著

元サッカー日本代表

サッカー解説者、サッカー指導者、鹿児島実業高校サッカー部OB、元Jリーガー/元サッカー日本代表、日本人初スペインリーグプロサッカー選手、1996年アトランタ五輪「マイアミの奇跡」メンバー、1998年フランスW杯エースストライカー

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