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パリ五輪サッカー細谷真大、A代表ストライカーへの道程

城 彰二元サッカー日本代表
パリ五輪・サッカー男子準々決勝、日本ースペイン、ゴールを狙う細谷真大(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

ストライカーの定義とは、何だろう。

13年間のプロ生活を歩んだ自分の経験から言えば、フィニッシュを決めること、攻撃の起点になること、それらを含めてチームの勝利に貢献することだと思う。

その役割をしっかりと果たさないとストライカーは評価されない。

パリ五輪でU23日本代表のエースとして戦った細谷真大をストライカーの定義に当てはめると、全4試合を見る限り、良さも見えたが物足りないところが多かった。

マリ戦ではドリブルで右サイドを突破して山本理仁に決定的なパスを出し、イスラエル戦では決勝ゴールを決めて勝利に貢献した。スペイン戦ではオフサイド判定になったシーンのように難しい局面で、誰もが「そこいくか」という驚きのシュートを見せた。フィジカルの強さとスピ―ド、シュート力を見せつけたシーンだが、このパワー系のプレーは細谷の持ち味のひとつだろう。

その一方で、なかなかボールが収まらず起点になれなかったり、シュートを打てなかったりしたこともあった。本当に簡単なところ、何のプレッシャーもないところでのミスが多かった。点を決めてもイージーなミスを連発し、トータルで差し引きゼロでは、これから日本のエースとして戦っていくのは難しい。調子が悪い時もあると思うが、それを差し引いてもプラスにできるような力がないと日本を背負っていくことができない。

パリ五輪・日本代表エースストライカー細谷真大
パリ五輪・日本代表エースストライカー細谷真大写真:森田直樹/アフロスポーツ

シュートのバリエーションを見せる

例えば、スペイン戦の後半36分、相手DFからボールを奪ってGKと1対1になったシーンだ。決めれば1点差になり、反撃のボルテージが一気に上がるところだ。この時、シュートの選択肢としては、確かにファーサイドに流し込むのがセオリーではある。ただ、その狙いでシュート体勢に入ってもGKの反応の仕方や体の倒し方を見て、最後のフィニッシュでコースを変え、ファーサイドに蹴るふりをして、ニアサイドに決める。あるいはGKが倒れ込んでくるのを予想してループを打つ。そういうシュートのバリエーションを見せて決めることがストライカーとして重要であり、質の高さを示すところになる。

だが、細谷はこの時、セオリー通りに蹴って、相手GKに弾かれてしまった。「少し浮かせていたら入ったゴール。ゴール前の質を高める必要がある」と細谷自身、シュートについて反省していたが、状況を考慮せず、決め打ちしたようなシュートだった。細谷は、ゴリゴリ系でパワーを活かしてドカーンと打つタイプ。状況に応じたシュートのバリエーションが非常に少ない。

それは、Jリーグの試合からも見て取れた。

ハマった時は、とんでもないシュートを決めるが、ミスが多い。柏レイソルでは19試合2ゴールと点が取れていない。アシストが多いかというと、まだ3しかなく、攻撃面での印象度が薄い。コンスタントに点を取ることができていないのは、チームが要求するプレーを忠実にこなしているのもあるが、シュートのバリエーションが少なく、その結果、シュートミスをしているからだろう。

柏レイソルでプレーする細谷真大
柏レイソルでプレーする細谷真大写真:森田直樹/アフロスポーツ

オルンガ選手を目標にしているらしいが、彼はスピードもフィジカルも強く、動きがしなやかでシュートバリエーションが非常に豊富だった。それが32試合28得点(2020年)という驚異的な数字を残した際のベースになり、得点王、リーグMVPにも輝いた。オルンガ選手を目標にするならシュートの多彩さ、うまさをまずはマネして欲しいと思う。

パリ五輪での細谷の記録は、4試合1得点、1アシストに終わった。

チームのエースと期待されていただけに、この数字は物足りないと言えるだろう。スペイン戦の結果を受けて、この日の自分のプレーが自分の心にどう響いたか。自分のプレーがハマった時は自信がついたと思うが、トータルで自分が世界に通用すると思ったのか、それともまだまだ足りないと思ったのか。あれだけチームのレベルの差、個人の差を見せつけられるといろんな部分で思うところがあったはずだ。

日本代表エースストライカーに必要なもの

パリ五輪を終えた今、細谷は日本代表に入り、これからスタメン、そしてエースストライカーとしての地位を築いていくことになる。

AFCアジアカップカタール2023 の時は、初戦のベトナム戦でスタメン起用されたが、前線で孤立し、何もできずに前半45分で交代した。森保一監督の信頼を得られず、その後、まったく起用されなくなった。チームになかなかなじめず、大会の緊張感もあったと思うが、細谷自身が周囲の選手と積極的にコミュニケーションを取るとか、生き残りたいとか、そういう貪欲さが試合からは見られなかった。

代表に生き残る選手は、パっと代表に呼ばれて、そこでインパクトを与えるプレーを見せていく。そのプレーを見た監督はもう1回、呼んでみたいと思う。それを何度か繰り返していくことで、恒常的に代表に呼ばれるようになる。そこでチャンスを与えられ、結果を出していくことで自分のポジションが確実なものになっていく。その際、重要になるのは、代表に生き残りたいという強い気持ちだ。

自分たちが現役の時は、すごく貪欲だった。

日本代表に呼ばれた時はモチベーション高く、監督に要求されたことを整理しつつ、何かをつかみ取りたい、爪痕を残したいという強い気持でプレーしていた。そういう姿勢は、チームメイトや監督に伝わるもの。その結果、自分を含めヒデ(中田英寿)や(川口)能活ら5人のアトランタ五輪組が日本代表に招集され、フランスW杯でプレーすることができた。その後も五輪を経て、W杯でプレーした選手、(中村)俊輔や本田(圭佑)、長友(佑都)らは例外なく上昇志向が強く、貪欲だった。

「(パリ五輪の)悔しさが残っているのでW杯の舞台でしっかり晴らしたい」

細谷が日本代表への意欲を見せているのは、大事なことだ。

フィジカルが強く、スピードがあり、ドリブルができて、裏も取れるストライカーはなかなかいない。そのすべてをさらに磨き、シュートのバリエーションが増えれば、今後、代表でレギュラーを争うであろうポストタイプの上田綺世との違いを見せていけるはずだ。その“違い”が細谷の強みになる。

数年後、日本代表のエースに細谷が成長した時、パリ五輪をどう振り返るか。

スペイン戦がターニングポイントになっている可能性は十分にある。選手にとって、肌で感じたプレーの衝撃や国際試合での経験は、上を目指す上で大きなモチベ―ションになるからだ。

元サッカー日本代表 城 彰二 著

元サッカー日本代表

サッカー解説者、サッカー指導者、鹿児島実業高校サッカー部OB、元Jリーガー/元サッカー日本代表、日本人初スペインリーグプロサッカー選手、1996年アトランタ五輪「マイアミの奇跡」メンバー、1998年フランスW杯エースストライカー

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