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【精神科医が教えない】「毒親問題」解決のための「隠されたヒント」

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

私たちは知らず知らずのうちに、「データにもとづく」正しそうに聞こえる言説を信じています。しかもそれが権威ある人の言ったことであれば、なおさら。

例えば、「毒親問題」に関して、本を出している精神科医が「毒親は死ぬまで毒親だから、親との関係を希薄にするしかない」と言えば「なるほど」と思うとか。

しかし他方で、哲学は当たり前のことを当たり前に考える「誰のこともおちこぼれにしない」学問です。今回は哲学に依拠して、「毒親問題」解決のための隠されたヒントについてお話したいと思います。

小6で親に高らかに宣言した妹

自分の親のことを毒親という人は、自分が被害者だと思っています。たしかにそうでしょう。親の夢を勝手に託され、やりたいことではなく、「私の夢を生きろ」と親に強制されるわけですから。

しかし、より本質的には、親が原因だからあなたが生きづらいわけではないという見方も存在します。ここでは2つご紹介します。

1つは、「あなたはなぜか、親に対してものを言えない性格として生まれた」ということです。

例えば、私のもとにカウンセリングに来られたある姉妹の話。姉は心優しい性格なので、親が押しつけてくる親自身の夢に「No」と言えない。他方で妹は、はっきりした性格ゆえ「私は私の人生を生きます」と、小学校6年生にして親の目の前で高らかに宣言した。

同じ親に育てられても、姉は親に対してものを言えない。他方、妹はものを言える。当然、ものを言えない姉は親のことを毒親と思っています。他方、妹は「しんどい親だけど、まあ仕方ないか」と思っています。

話のポイントは、姉は「なぜか」親にものを言えない性格として生まれてきたという点です。なぜなら、生まれもつ性格を私たちは選ぶことができないからです。当然、私たちを産む親だって、子の性格を選べません。生まれてきたら「こんな性格」だったという性質のものでしかありません。科学だって、なぜその性格を持って生まれてきたのかを完全に解明しているわけではありません。

要するに、「神様があなたに与えたものが、あなたの性格です」としか言えまん。

マッチング系は神様の専売特許

2つ目は、あなたはなぜかその親とマッチングしたということです。親はどんな子を産むのかを選べません。あなたが生まれてきたのちに「お隣の子を産みたかった」と思っても、それは誰がどう考えても100%無理な相談です。

同様に子どもだって、どの親から生まれてくるのかを選べません。子(の魂)は生まれてくる前に「どの親のもとに行こうか」と、空から地上を眺めている――こんな話があります。私はその話を気に入っていますが、ここではその話はないものとします。

要するに、親子のマッチングは誰にも選べない。しいて言うなら、神様がその親とあなたをマッチングさせたのです。

悪い血の問題であって

毒親問題に苦しんでいる人は、その直接的な原因である親を憎んで当然でしょう。しかし、ご紹介した2つの視点を採るなら、あなたの苦しみは、じつは親のせいではなく、神様の選択のせいだと言えます。親にものを言えないあなたの性格は、神様が創ったのだし、あなたが「その」親のもとに生きるしかないのは神様のマッチングゆえだからです。

別の言葉で言うなら、あなたの体内に流れる「悪い血」が、あなたを苦しめていると言えます。

ちなみに、体内に流れる悪い血に死ぬまで苦しみ、その苦しみと素手で戦ってきた哲学者にキルケゴールがいます。ご存知のとおり、実存主義の父と言われている哲学者です。哲学というのは何を言っているのかサッパリわからないと言う人が多いものの、じつはものすごく身近なところから哲学的問いが立ち上がっているのです。

というわけで、今回も心理学という実験科学、経験科学に依拠したお話ではなく、哲学に依拠したお話をしました。X(Twitter)でも毎日なにがしかつぶやいていますので、よかったらフォローしてくださいね。

哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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