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次世代5G対応、1年の遅れが命取りとなる日本

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

□日本では、5Gの免許の割り当てすら現状、決まっていない。いまのところ、キャリアに対しての周波数の割り当ては(2019年)4月10日が予定されている。割り当てが決まり、実際にキャリアが基地局を建て、プレサービスが始まるのが、9月に日本で開催されるラグビーのワールドカップの頃とされている。おそらく、そのタイミングで、各キャリアでGalaxy S10 5Gがプレサービス用端末として、ワードカップ会場周辺で貸し出されるのだろう。プレサービスなだけに購入できる可能性はあまり高くない。

□日本で5Gスマホを購入できるのは、本格的な商用サービスが開始される、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのころまで待たないといけない。

□しかし、その頃には、Galaxy S10 5Gの後継機種が出ていて、きっと「Galaxy S11 5G」とかになっているのではないだろうか。それまで、日本で5Gスマホを待ち続ける日々を送ると思うと辛くて仕方ない。

出典:続々登場の5Gスマホ、『日本は蚊帳の外』の残念度

1年の遅れが命とりとなるIoT、自動運転の5G展開

ついにこの時が来た…。2019年『5G時代』の幕開けだ。

バラ色のように語られる5G、現在の『4G』スピードの100倍。IT業界の常識で、ハナシ半分としても、50倍のスピードはあなどれない。しかし、最初の開始でその恩恵に預かれるのも一部の地域に限られる。社会的インフラとしては3〜5年かからないとすべての人が5Gの恩恵にはあずかれないだろう。そして、当初の5G回線の価格帯は非常に高価であるだろう。これは、10数年前に『3G』の『経験値』として我々は持っている。

初代iPhoneの登場(2007年)から、iPhone3G(2008年)が日本に登場するまで約1年の『時差』があった。今から考えると大したことができなかった初代端末ではあるが、当時の『ガラケー(ガラパゴス化した携帯電話)』と比較すると革新的なオープンなインターネットマシンであった。一番の革新は、なんといっても携帯電話といいながら、電話は『アプリ』のひとつと格下げになっていたことだ。この衝撃は大きい。『Phone』という名称は形状を表すだけの記号であって、機能ではなかったのだ。3G回線でデビューしても電話が通じない地域が多いので、ガラケーと2台持ちという時代も長かった。これは『4G(LTE)』も同様だ。さらにインカメラが搭載されるのもiPhone4以降だったのだ。

しかし、1年間、新しい端末を体験として、経験値をつめることは相当のアドバンスがある。新たな帯域を持つことによって、その開きは雲泥の差だ。IoTに実装し、サービス開発を展開する、自動運転に50〜100倍の通信スピードを適応する。

それでなくても、日進月歩のIoTや自動運転、ドローン、ロボット、VRにいたるまで、5G回線の恩恵をまちぼうけをくわせることが馬鹿げている。

いざという時の『5G』の使い方を、世界でまだ誰も知らない

当初は、高価で使える地域も限定され、無駄に早い通信の高速道路となるだろう5Gエリア。しかしだ。無制限に走れる有料の高速道路を走ってみることによって見えてくる世界があるのだ。Wi-Fiスポットではなく5Gエリアでしか提供できない次世代の産業がそこには眠っているからだ。ギガを気にして節約するWi-Fiエリアから、スピードを気にして飛び出す5Gエリアへと変化することだろう。いざという時のWi-Fiではなく、いざというときには、通信キャリアの5Gの高速有料道路を走るという選択肢が増えるのだ。その『体験値』が世界よりも1年も遅れてやってくるということは、次世代の産業に参入できないという参入障壁でもある。これは国策として非常に大きな問題だ。

一般の人にはまだまだ不要だが、未来の産業育成には重要な国家的政策だったのだ。

まさに逆張りばかりの日本のIT政策

出典:インプレスSmartGridニューズレター編集部
出典:インプレスSmartGridニューズレター編集部

この図を見ると明確だが、見事に日本だけが、遅れをとっている。一部地域だけでも実証実験ではなく、本格的な商用サービスに踏み込むべきだったのだ。5Gサービスの、この1年の遅れが、あとになって大きな遅れにつながることを今から提言しておきたい。今からでもエリアを絞ってでも前倒しにできることをやるべきだ。

政府は、通信キャリアに値下げを迫るだけではなく、むしろ5Gの投資を急がせるべきだったのだ。今からでも積極的に5G特区を設定してでも日本の開発ベンチャーに体験・経験させるべきなのだ。人はその環境に置かれてはじめて具体的なサービスの必要性に気づくのだ。

この『経験値』がないと、次世代ビジネスの覇者には当然なれない。2019年6月までにGAFA規制したり、民泊もシェアエコも飯櫃(いびつ)にして、動画SNS見放題まで制限して、日本はますます、5Gスマートフォン時代の『ガラパゴス・スマート社会』へ突入しようとしている。

未来に対して、逆張りしている日本のIT政策に関しては、野党は誰も口をはさまない…。

それでなくても、少子高齢化、消費税増税、東京オリンピック以降のヴィジョン、ないないづくしなのだから、せめて、次世代の産業への投資が最大課題だ。既存産業をいくら保護して守っても、中長期的には、衰退してしまうのだ。音楽産業、出版産業の衰退は、スマートフォンの浸透のように見えるが、完全なるパッケージビジネスから『デジタルシフト』が要因だ。5G時代になると通信スピードによって、仮想世界やVR、AR、ドローン、ロボット、IoTによる『コミュニケーションシフト』が発生する。つまり『移動』した気になるビジネスによって、『移動産業』そのものが大きく変革していくと筆者は予言しておきたい。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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