海外でトラブルに巻き込まれた日本人に、政府や大使館はいかなる対応をすべきか(2020年調査版)
「自己責任優先、不可能な面は政府や大使館の支援が必要」がトップ
海外との行き来が容易になり、業務などで定住する人も多くなると、当然何らかの形でトラブルに巻き込まれるケースも生じうる。日本人が海外で何らかの問題に巻き込まれた場合、政府や大使館はどのような保護・支援をすべきと日本国民は考えているのだろうか。内閣府が発表した、外交に関する世論調査(※)の結果から確認していく。
海外で日本人が「交通事故、犯罪、病気、テロなどの事件や事故にあった」場合、該当者本人の自己責任とすべきか、それとも現地の大使館や日本国政府による積極的な保護・支援を行うべきなのか。多分にケースバイケース(状況に応じて最善策が判断される)に結論は収束されてしまう。昨今では国際情勢も複雑化するとともに、今件設問に該当する事案が相次ぎ発生し、また政治的な事案と絡めて注目され、複数の事案をすぐに想起できる人も少なくあるまい。
今調査では一般論、傾向・方針としてどのような姿勢を見せるべきか、個々回答者の主張の集約ではあるが、「自己責任優先、不可能な面は政府や大使館の支援が必要」とする意見がもっとも多く、直近では47.7%を占めた。
次いで多いのは「自己責任的な状況でも、政府・大使館が積極的に保護・支援をすべき」(「積極的に」であり、全面・最優先的にとの意味ではない)で28.4%、「どのような場合でも政府・大使館が保護や支援すべき」の17.6%が続く。合わせると4割台後半の人が、積極的な政府・大使館のサポートを求めている。一方で「自己責任(政府・大使館の手助けは原則不可)」とする意見は4.0%のみ。
経年変化を見ると、2002年に大きく「どのような場合でも政府・大使館が保護や支援すべき」が跳ね上がり、「自己責任優先、不可能な面は政府や大使館の支援が必要」が落ち込む場面が見受けられる。これはタイミング的に2001年9月11日にアメリカで発生した「アメリカ同時多発テロ事件」とその後の混乱が原因だと解釈できる。また、2002年9月には北朝鮮が日本人拉致問題を初めて公式に認めており、これも影響した可能性はある(時期的には微妙なところだが)。
ただし2002年の値の変動はイレギュラー的なもので、長期的には政府機関による積極保護介入派(赤系統の色)がその介入度合いにおいてより強いものを求める動きが進み、今世紀に入ってからは漸増。他方、自己責任派(青系統の色)の動きはほぼ横ばいの流れを示していた。
ところが2015年分ではこの流れが大きく変わり、自己責任派が大きく増加、個々の責任を優先する意見が強まっている。他方、政府機関による積極保護介入派はいずれも回答値を減らしており、その前の調査となる2013年分からは傾向が変わってきた感はある。直近の2020年分では調査方法が異なるため(2020年分のみ郵送調査、それ以外は調査員による個別面接聴取法)、厳密にはこれまでの調査との連続性はないものの、「自己責任(政府・大使館の手助けは原則不可)」が大きく減り、その分が「自己責任優先、不可能な面は政府や大使館の支援が必要」に回ったような雰囲気ではある。
直近年分の動向を詳細に
直近分となる2020年分の状況につき、個々の回答別、そして自己責任派と政府機関による積極保護介入派とでそれぞれ該当する選択肢を合算する形で、男女別・年齢階層別に実情を確認したのが次のグラフ(「その他」「分からない」は除いてあるため、数字は回答値の単純加算だが、グラフの面積は具体的回答者内の比率となる)。
全体的には自己責任派がわずかに優勢、男女別ではほぼ変わらず。年齢階層別では若年層がやや自己責任派が多い傾向がある。60代のみで自己責任派が5割を割り込んでいるのは興味深い。
詳細区分では、強い自己責任を求める意見は男性、若年層に多く、消極的保護介入を含めた自己責任派(弱い自己責任)との意見も若年層に多い傾向がある。他方、強度の弱い積極保護介入派は男性と18歳~20代、60代で高い値、強い積極保護介入派は高齢層ほど高い値を示している(70歳以上では値は落ちるが)。
ここ数回の調査における自己責任派回答の増加は、昨今の国際情勢、特にこの数年にわたり地中海・中東周辺で相次いで発生した事案に絡み、その実情や周囲の対応が少なからず影響しているものと考えられる(直近2020年における変化は調査方法の違いによる可能性があるため、傾向としての考察は現時点では難しい)。実際の判断はケースバイケースではあるが、判断材料となる実例で、一般市民の心境・意見は大きく変化すると見るべきなのだろう。
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※外交に関する世論調査
2020年10月22日から12月6日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を有する人の中から層化2段無作為抽出法によって選ばれた人に対し、郵送法によって行われたもので、有効回答数は1865人。男女比は909対956、年齢階層別構成比は10代27人・20代186人・30代216人・40代337人・50代312人・60代319人・70歳以上468人。
調査方法について2019年調査までは調査員による個別面接聴取法が用いられていたが、2020年調査では新型コロナウイルス流行という特殊事情により、郵送法が用いられている。調査方法の変更で一部設問の選択肢や回答傾向に違いが生じていることに注意が必要となる(「分からない」が無くなり回答がなかった結果分が「無回答」になっている、回答の意思が明確化されたために一部設問で「無回答」の値が2019年調査結果と比べて有意に少なくなっているなど)。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
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