焼鳥ブームの牽引役が料理も内装も一新! 和洋折衷、コースの表現力に心躍って【鳥恵/東京】
今回、冒険するのは東京都文京区湯島の「鳥恵 上野広小路店」。もう10年以上も続く〝東京焼鳥ブーム〟の礎を築いた名店の一つだ。美しい串打ち、丁寧な焼き。銘柄鶏から地鶏までどんな鶏もうまく焼き上げる店だった。その「鳥恵 上野広小路店」がこの11月、全面的にリニューアル。扱う鶏も内装もガラリと変えての再出発だ。
より洗練されたコの字カウンターに
久しぶりの「鳥恵 上野広小路店」。外観はそう変わらないものの、暖簾をくぐると随分と印象が違って見えた。目の前にはコの字カウンター。店主・小澤さんが立つ焼き場を囲むような造りだ。
通されたのは焼き場から見て上手の席。目の前には鳥恵コース(10,000円)の品書きがそっと置かれていた。お、なんだか和食屋にでも来たかのような気分。さっそく、前菜3種を肴にビールをくいっといく。
均一に火が入ったささみが美しい
ともあれ、気になるのは焼鳥。これまでは淡海地鶏や大山どりを扱っていたところ、鹿児島県の地鶏「黒さつま鶏」の、しかも雄鶏を軸に据えたのだという。最近、都内の焼鳥屋でも取り扱いが急増している地鶏だけに、雄鶏というアプローチは興味津々。
1本目は王道、ささみのさび焼きだ。生焼けとは無縁も無縁。ふっくらとして、均一に火が通った美しい仕上がり。こういう1本から始まると、俄然、テンションも上がるというもの!
続く正肉は皮を巻かず、黒さつま鶏のもも肉のうまみをシンプルに味わえる「塩」で。雄鶏らしく、ぐっと押し返すような弾力。若い銘柄鶏を使う場合はだいたい「たれ」で仕上げることが多いだけに、その対比としても面白い。
皮目はパリッと、肉はふくふくと
差し出された瞬間、思わず見惚れたのがこのさがり(むね肉)。見るからに美しいフォルム。皮はパリッとして、肉はふくふくと。雄鶏の押し返すような弾力がありつつも、しっとりしている。
いやぁ、シンプルにうまいなぁ。1貫目はそのまま。2貫目はゆず胡椒で華やかな味変が楽しめる。いい。緩急を付けて飽きさせないひと手間も肝心ってね。
レバーを多角的に見せる試みも
ここで、新生「鳥恵」の色がひしひし感じられるアプローチ! まさかレバー串とレバーパテを一皿でまとめるとは思いもしなかったなぁ。
まずは冷めない内にと串からいただく。雄レバーらしく、見た目の濃さに比例するような深いコク。生粋のレバー好きにはこういう真っ赤なレバーもきっと刺さるはずだ。
レバーパテは意外にも、紅茶のパンとともに。しかも焼き立ての自家製パンときた。口当たりはふんわりとして、紅茶の香りがレバーの濃さに華を添えるよう。バゲットに合わせることが多いなか、この組み合わせはなかなか新鮮(もちろんアリ)。
鴨肉に合わせたのは、まさかのしじみ
初めに品書きを見て頭から離れなかったのが、この「岩手鴨のむね肉と季節野菜、しじみ」の一品。なんと言っても合鴨としじみだ。どんな風に供されるのかと期待に胸を膨らませていると、現れたのは予想だにしなかった一皿。
「まずはそのまま。2貫目はソースを付けてお目召し上がりください」
肉厚な岩手鴨は焼鳥に。しじみはソースに姿を変えている。早速、口に含んでみれば、見事に均一な火入れ。水分を保ちつつ、うまみを凝縮させた美しい仕上がり。しじみソースを絡めればいっそう深く交じりあって、官能的な味わいに……。
んん。これは抜群にうまいなぁ! 聞けば、ソースはバルサミコ酢やしじみのエキスを合わせたものだとか。しじみは酒蒸しにしてうまみをじっくり煮詰める手間のかけよう。2年熟成させたじゃがいものピューレにもピタリ、決まった。
追加串で食べたい「ふりそで」
あとは〆を残すだけ……なのだけど、もう少し食べたくなってしまうのは焼鳥好きの性というもの! ふと「鳥恵」のふりそでが好きだったことを思い出して追加する。ふりそでは、むね肉と手羽元の間にある希少部位で、1羽から1本しか取れない。だから出合えれば、きっとそれはとても幸運なこと。
相変わらずの美串。肉はどこまでもしっとりして、脂の甘みも充分。そして、ふわりと広がる爽やかな香味。……おお、皮と肉の間にあるのはバジルじゃないか。うーん。これはワインが欲しくなるなぁ。
〆のおいなりさんは出汁がじゅわっと
焼鳥屋の〆といえば、そぼろ丼や親子丼、焼きおにぎり、最近では鶏そばなんかも定番だけれど、まさかの〝おいなりさん〟の登場だ。口に含めばジュワッ! と出汁があふれる。粒立ちのよい米とのコントラスト。木の芽のすがすがしいアクセント。んん。滋味とはこのこと。
なんでも熊本県名産の「南関あげ」を使っているのだとか。ふつうの油揚げとは異なり、水分を抜いて長期保存できるようにしたものらしい。なるほど。だから、これほどの出汁を含むのも納得だ。
おいなりさんは〆としてはボリュームが足りないものの、後にデザートが続くことを考えれば、このくらいがちょうどいいのかもしれないな。
「鳥恵」という世界観を味わうコース
前菜からデザートまで、いったい何品出たのだろう? さすがというか、焼鳥はどれもしっかりうまい。一般に焼鳥コースはいずれかのネタがメインになるものではないのだけど、岩手鴨は明らかに主役を飾るひと皿として作り込まれていた。そういう試みもおもしろいじゃないか。
それに、合間に挟む一品や〆も趣向を凝らしたものばかりだ。焼鳥ばかりを食べたい、というよりも、焼鳥を通して「鳥恵」の世界観を味わいたい人に向いている。そんなフルコースだった。
レストランとしての焼鳥。会食としての焼鳥。それを追求したのが、新生「鳥恵」なのかもしれないなぁ。
▼冒険のおさらい
①和洋折衷の焼鳥コース
②地鶏「黒さつま鶏」の雄がメイン
③岩手鴨のひと皿は感動的な味わい
店舗情報
【店名】鳥恵 上野広小路店
【最寄り駅】上野御徒町駅
【住所】東京都文京区湯島3-40-8
【予約】予約サイト(テーブルチェック)
【定休日】日曜、不定休
【串のアラカルト】なし
【コース(セット)】8,000円~