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妊娠中のPM2.5や二酸化窒素は、赤ちゃんのアレルギーリスクを高める!?

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

お母さんが妊娠中に大気汚染物質にさらされると、生まれた子供はアレルギー疾患になりやすい

〜世界中の研究から明らかになったこと〜

近年、世界的に子供のアレルギー疾患が増加傾向にあり、大きな健康問題となっています。

アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患は、子供の生活の質を低下させるだけでなく、家族や社会にも経済的負担をもたらしています。

そこで、中国の鄭州大学のAi Suruiらの研究チームは、母親が妊娠中に大気汚染物質にさらされることと、生まれた子供がアレルギー疾患を発症しやすいことに関連があるのかを調査しました。

世界中の38の研究データをメタ分析した結果、母親が妊娠中に特定の大気汚染物質にさらされると、子供がアトピー性皮膚炎や喘息、アレルギー性鼻炎を発症するリスクが高まることが明らかになったのです。

【どの大気汚染物質が、いつの時期のばく露が問題なのか】

研究チームが着目したのは、PM1、PM2.5、PM10、NO、NO2、SO2、CO、O3など、我々の生活環境中に存在する代表的な大気汚染物質です。

PM2.5とNO2への妊娠中のばく露が、子供のアトピー性皮膚炎のリスクを高めることが示されました。10μg/m3(マイクログラム/立方メートル)上昇ごとに、アトピー性皮膚炎のオッズ比は、PM2.5で1.34倍、NO2で1.10倍となりました。

喘息についても、妊娠中のPM1、PM2.5、NO2との関連が見られ、10μg/m3上昇ごとに、喘息のオッズ比はそれぞれ1.34倍、1.11倍、1.07倍に上昇しました。

アレルギー性鼻炎では、PM2.5とNO2が10μg/m3上昇するごとに、オッズ比が1.36倍と1.26倍に高くなりました。

つまり、自動車の排気ガスなどに含まれる微小粒子状物質(PM2.5)と二酸化窒素(NO2)への、妊娠全期間を通じたばく露が、子供のアレルギー疾患の広範なリスク因子となっているのです。

さらに詳しく見ると、妊娠のどの時期にばく露するかによって、大気汚染物質の影響の出方が異なることも分かってきました。

論文によると、妊娠第一三半期に大気汚染にさらされると、子供のアトピー性皮膚炎のリスクが高まるとのことです。10μg/m3上昇ごとに、リスクは1.08倍(95%信頼区間: 1.01-1.15)になりました。一方、妊娠第二三半期ではNO2との関連が強く、10μg/m3あたりのリスクは1.11倍(95%信頼区間: 1.01-1.23)でした。

喘息については、第一三半期と第二三半期、両方の大気汚染ばく露が大きな影響を及ぼしており、それぞれ10μg/m3上昇で、1.04倍(95%信頼区間: 1.02-1.06)と1.08倍(95%信頼区間: 1.03-1.12)のリスク上昇が見られました。

第一三半期ではNO2とSO2の影響が大きく、リスク上昇はそれぞれ1.04倍(95%信頼区間: 1.01-1.07)と1.17倍(95%信頼区間: 1.03-1.32)、第二三半期ではPM2.5の影響が強く、リスクは1.15倍(95%信頼区間: 1.05-1.25)になっていました。

アレルギー性鼻炎は、第三三半期の大気汚染ばく露の影響を最も受けやすく、10μg/m3あたり1.06倍(95%信頼区間: 1.02-1.10)のリスク上昇が認められました。第一三半期と第二三半期はどちらもNO2の影響が大きく、リスク上昇はそれぞれ1.16倍(95%信頼区間: 1.05-1.29)と1.19倍(95%信頼区間: 1.08-1.31)でした。

このように、妊娠のどの時期にどの大気汚染物質にさらされるかによって、子供がアレルギー疾患を発症するリスクの高まり方が変わるようです。母体内で発育する胎児への影響を考えると、妊娠中は常に、PM2.5やNO2など、有害物質を含む大気汚染にできるだけばく露しないよう注意することが重要だと言えるでしょう。

【皮膚疾患との関連と注意点】

本研究では、妊娠中のPM2.5とNO2ばく露が子供のアトピー性皮膚炎のリスクを高めることが示唆されました。

アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の破綻と炎症が特徴の慢性疾患です。

乳児期早期に発症すると、その後の食物アレルギーや喘息、アレルギー性鼻炎へとつながることが知られており、「アレルギーマーチ」と呼ばれています。

つまり、妊娠中の大気汚染ばく露を減らすことは、子供の皮膚の健康を守るだけでなく、他のアレルギー疾患の予防にもつながる可能性があるのです。

妊婦の方は、外出時のマスク着用や空気清浄機の使用など、できる範囲でばく露を減らす工夫が大切です。また、皮膚の乾燥やバリア機能低下を防ぐスキンケアも重要と考えられます。

【今後の課題と展望】

ただし、本研究の課題としては、大気汚染物質の評価方法の違いや、複数物質の相乗効果の考慮不足などが挙げられます。また、食物アレルギーに関するデータが不足していました。「アレルギーマーチ」において食物アレルギーが重要な位置を占めることを考えると、今後のさらなる研究が待たれるところです。

現時点でも、妊婦の大気汚染ばく露を減らすことの重要性は明らかです。行政や企業、個人レベルでの取り組みを通じて、子供たちの健やかな成長を社会全体で支えていくことが求められていると言えるでしょう。

(参考文献)

Ai S. et al., Prenatal Exposure to Air Pollutants Associated with Allergic Diseases in Children: Which Pollutant, When Exposure, and What Disease? A Systematic Review and Meta-analysis. Clinical Reviews in Allergy & Immunology, 2024.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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