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日銀は大規模緩和の修正に踏み切る。その理由は国債の機能回復にあり。市場はサプライズ。円高株安債券安。

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日銀は20日の金融政策決定会合で緩和政策の一部を修正してきた。

 金融市場調節方針の基本的なところは変えずに、長期金利操作の運用のところで、国債買入額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.50程度に拡大することとした。

 黒田総裁のもとでの金融緩和の修正は市場にとって大きなサプライズとなった。

 ここにきて急速に緩和修正観測が強まりつつあったが、それは少なくとも今回の会合ではなく、来年に向けたものであったと思う。私もせいぜい今回は大規模緩和維持に反対者が出る程度かとみていた。しかし、このタイミングで長期金利の変動幅を決定することは予想できなかった。

 ただ、長期金利の変動幅を拡大してもあまり意味はなく、今回の決定を受けて10年債カレントが0.455%に上昇したように、いずれ10年債カレントの利回り、つまり長期金利が0.5%に張り付くことが予想され、さらなる催促相場となる可能性が高い。しかもこれに併せて国債買入の量を増やすということもしてきた。このあたりがいままでの日銀通りではある。リフレ派とかに配慮したのか。

 念の為、今回は短期金利は動かさず、長期金利の上限を引き上げたことで長期金利そのものが上昇した。このため、住宅ローンの固定金利も引き上げられることが予想されることにも注意したい。

 今回の修正については確かにその予兆のようなものはあった。

 そのひとつが岸田政権が、安定的な経済成長を実現するための政府と日銀の役割を定めた共同声明を初めて改定する方針を固めたことが17日、複数の政府関係者への取材で分かったとの報道であった。

 それだけではなく、日銀OBからも意見が発せられていた。これは現在の日銀の大規模緩和の修正の必要性を意識した発言が多かったように思う。たとえば、山口・元日銀副総裁から来年はYCC修正もとの意見が出ていた。

 そして金融政策を決める政策委員からも、たとえば田村直樹審議委員が金融政策の枠組みや2%の物価安定目標の在り方について適切なタイミングで点検や検証を行う必要があるとの見解を示した。

 さらにリフレ派の野口旭審議委員は、物価の上昇基調が予想以上に強まればとの前提条件を付けながら、「(金融緩和策の見直しも)不思議ではない」と発言していた。私自身、リフレ派の発言はあまりチェックしていなかったが、確かにこれもいまになってみれば気になる発言ではあった。

 今回の決定で注意したいのは、長期金利の変動幅拡大も何故か全員一致での決定であったこと。

 これはどう考えてもおかしい。ひとつは中途半端な拡大をしても催促相場を招くだけであり、そうであればYCCそのものの撤廃という意見が出てもおかしくはなかった。また、リフレ派からは政権への増税反対と同様に、異次元緩和修正に反対する意見が出てもおかしくないと思った。

 いずれにしても、今回の決定そのものは評価したい。しかもその理由として、債券市場の機能低下、それによって国債が果たすべき本来の役割のひとつ金利の基準としての役割が果たせなくなってきたことを挙げていた点を評価したい。

 これは当たり前のことでもあり、それがこれまでできなかったことにそのものに問題があったのだが、それでも緩和修正の第一歩として歓迎すべきといえるか。

 これでお茶を濁されてもたまらない。長期金利コントロールの撤廃、そしてマイナス金利政策の解除に向けて市場の動揺を少しでも避けながら、進めてほしいと願う。いや進めるべきであろう。

 今回の決定で円高が進行し、株安ともなったが、これはまさに市場にとってはサプライズであったからである。

 黒田総裁は会見でどのような発言をするのか。市場も意識して、これで打ち止め感を出そうとするかもしれない。しかし、一度、流れが起きてしまうとそれを止めることが難しくなってくることもたしかではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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