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「香害」被害は、なぜ機能が「長続きする」ことで増えるのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(提供:イメージマート)

 合成洗剤、香り付き柔軟剤、消臭剤などに含まれる化学物質により、頭痛や吐き気などの体調不良を引き起こす人が増えている。こうした健康被害は「香害」とも言われるが、芳香や消臭といった機能が長続きすることで被害がより増えているという訴えが出た。

香害とは何か

 香りの害、香害は近年、被害者が増大しつつあり、大きな社会問題になっている。香害の最も大きな原因は、合成洗剤、香り付き柔軟剤、消臭剤、芳香剤など、我々がごく日常で使っている製品から出る化学物質と考えられているが、症状がひどくなった人の中にはこうした日用品の化学物質がトリガーになり、ごく微量の化学物質にさらされただけで化学物質過敏症を発症するケースも多い。

 つまり、香害の被害者が、化学物質にさらされ続け、症状を悪化させると化学物質過敏症になってしまうというわけだ。香害の被害者はイコール化学物質過敏症の患者ではないが、誰もが香害にさらされている現状では誰もが香害の被害者になり、化学物質過敏症を発症するリスクがある。

 こうした香害の被害者や被害を問題視してきた中に、中央や地方の議員らで作る「香害をなくす議員の会」、日本消費者連盟らが作る「香害をなくす連絡会」、香害や化学物質による被害者と支援者で作る「カナリア・ネットワーク全国」の3団体があるが、3団体は2023年10月6日、芳香や消臭といった機能を長続きさせる製法をやめるよう求めるオンラインの署名活動とキャンペーンを始めた。

機能を長続きさせるマイクロカプセル

 今回のキャンペーンの取りまとめ役である日本消費者連盟の杉浦陽子氏によれば「香害は、合成洗剤や柔軟剤の香り成分をマイクロカプセルにつめ、香りを長く持続させることで近年、被害が拡大し、被害者が増えてきたという背景があると考えています」という。

「人工香料や抗菌成分、消臭成分を包んだマイクロカプセルが衣服に付着し、時間差をおいて破裂することで、いつでもどこでも化学物質が揮発し、頭痛や吐き気などの健康被害が生じています。このマイクロカプセルは、衣服に付着しやすく、洗っても落ちにくくされているのです。そして、破裂したマイクロカプセルの破片は、空気中に浮遊して呼吸器に取り込まれ、長期的な健康被害を引き起こす危険性がありますし、洗濯排水から流出して河川や海の水を汚染し、深刻な環境破壊をもたらす恐れもあるのです」

 こうした香害の被害は、我々の日常のあらゆる場所で起きる危険性がある。工場などからの排気や排水によって引き起こされる従来の公害とは違い、一般の大衆が加害者にも被害者にもなり得るが、原因のおおもとは香害を発生させる製品を作り宣伝し売っている企業だろう。

 3団体はオンライン署名がまとまり次第、日本石鹸洗剤工業会、そして合成洗剤や柔軟剤などを製造販売しているP&Gジャパン、花王、ライオンの大手3企業へ提出し、成分機能を長続きさせる製法をやめるよう要望する予定だという。また、日本消費者連盟では、香害を広く知ってもらうためのリーフレットも出している。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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