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「不眠になりやすい体質」が判明?遺伝子と睡眠の意外な関係は

市川衛医療の「翻訳家」
イメージ(写真:アフロ)

4月6日(米時間5日)、興味深い研究論文が発表されました。

「不眠になりやすい体質」が判明したかもしれないというのです。

もうすこし詳しく言うと「ある特定の遺伝子が、本来のものと少し違う状態になっている人」では、一部のタイプの不眠になりやすい可能性が見えてきたのだそうです。

といっても、いまいち分かりにくいですよね。

いま不眠にお悩みの人にとって、どのような意味を持つ研究なのか?少し詳しく読み解いてみました。

「中途覚醒」と遺伝子が関係していた?

論文(※1)を発表したのは、角谷寛 特任教授(滋賀医科大学睡眠行動医学講座)や米ワシントン州立大学などの国際研究グループです。

ぐっすり寝たいのに、なぜか夜中に目が覚めてしまい、なかなか寝付くことができない・・・。そんな状態を「中途覚醒(ちゅうとかくせい)」と呼びます。

角谷教授らは、成人男性294人の遺伝に関わる情報を提供してもらい、睡眠時間との関係を調べました。すると、「Fabp7(※2)」と呼ばれる遺伝子に変異(本来とは違う状態になっている)があると、まとめて寝ていられる時間が短くなり、たびたび睡眠が途切れる(断片化する)傾向があることがわかりました。

すなわち、「中途覚醒」を起こしやすい状態です。

さらに興味深いことに、この遺伝子に変異があると、ヒトだけではなくマウスやショウジョウバエでも中途覚醒が起きることがわかりました。

研究グループによると、このように種を超えて「睡眠の断片化」にかかわる遺伝子がわかったのは世界で初めてのことなのだそうです。

でも気になるのは、なんでそんなことが起きるのか?ということですよね。

詳しく調べると、今回の遺伝子の変異を持つ人では、脳内でDHA(ドコサヘキサエン酸)という物質を取り込んだり、輸送したりする働きに支障が起きる可能性がある、ということがわかりました。

DHA、なんとなく聞いたことがありますよね。サンマやサバなど青魚に多く含まれ、健康に良い効果があるとたびたび話題になる成分です。研究グループは今回の結果から、DHAと睡眠に関係があるかもしれない、ということを指摘しています。

ということは、DHAを多くとると良く眠れるようになるということでしょうか。

なんとなく、「本当かな・・・?」と眉唾に感じてしまいますよね。

DHAと睡眠の意外な関係とは?

ところが調べてみると、DHAを多くとることで、睡眠の状態が良くなる可能性を示した研究が最近発表されていることがわかりました。

英オックスフォード大学が2014年に発表した研究(※3)です。

7~9歳の子ども395人にアンケートによって睡眠時間を聞き、さらに、血中のDHAの濃度を調べました。

さらに子どもを、毎日DHAのサプリメント(600mg)をとるグループと、DHAを含まない偽のサプリメント(偽薬)をとるグループに分けて、およそ4か月後、睡眠時間に変化が起きるか比較しました。

すると、血中のDHAの濃度が低い人では、睡眠の状態が悪くなる傾向があることがわかりました。

また、DHAのサプリメントを毎日とった場合と摂らなかった場合を比較したところ、全体としては差がなかったのですが、睡眠時間を厳密に測定できる「活動量計」を着けて実験を行ったグループ(43人)を調べると、DHAをとった人は1時間ほど睡眠時間が長くなり、中途覚醒が減ることがわかりました。

この論文では、さらなる検討が必要としながらも、「DHAの血中濃度を高く保とうとすることは、子どもの睡眠を改善するかもしれない」と指摘しています。

今後の研究の進展は?

注目されつつある、「DHAと睡眠」の関係。研究は、今後どのように進展していくのでしょうか?

冒頭でご紹介した論文を発表した、角谷寛教授に聞いてみました。

角谷寛教授(滋賀医科大学睡眠行動医学講座)
角谷寛教授(滋賀医科大学睡眠行動医学講座)

Q)今回の研究は、将来の不眠の治療や予防にどのような影響を与えるのでしょうか?

不眠症の症状には、ベッドに入ってもなかなか寝付けない「入眠困難」と、眠ってもたびたび目が覚めてしまう「中途覚醒」がありますが、DHAが、主に中途覚醒に若干の効果を持つ可能性が見えてきました。

今回の研究をきっかけに、DHAそのものよりも効果が高く、中途覚醒を明らかに減らすことのできる薬剤(あるいはサプリメント)の開発に繋がればよいと考えています。

Q)いま眠りに悩みを抱えている人にとって、今回の研究成果は何らかの参考になるでしょうか?

DHAに本当に効果があるのかどうかはまだ研究途上で、ヒトを対象とした検証研究がいくつか行われて、初めて効果の有無について明言できるようになります。これまでの研究から、効果があるとしても、いわゆる睡眠薬ほどの強い作用は期待できなさそうです。

例えば牛乳にはトリプトファンが多く含まれ、寝る前に飲むと安眠に役立つ、とも言われます。これと同じように、例えば睡眠にお悩みを抱えるお子さんの食卓に、DHAの豊富なサンマやサバなどの青魚をバランスよく取り入れるということは、栄養面で考えても「試してみても良いかもしれない」ということは言えるかもしれません。

(筆者は、DHAのサプリメントを製造する企業などから金銭的な報酬・資料の提供などの利益を受けていません。また角谷教授にもそうした関係が存在しないことを確認しています)

執筆:市川衛ツイッターやってます。良かったらフォローくださいませ

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(※1)Normal sleep requires the astrocyte brain-type fatty acid binding protein FABP7

JR Gerstner et al. Science Advances 05 Apr 2017:Vol. 3, no. 4, e1602663 

(※2)遺伝子名は本来イタリック(斜体)で記します。システムの都合で斜体が使えないのでお許し下さい。

(※3)Fatty acids and sleep in UK children: subjective and pilot objective sleep results from the DOLAB study - a randomized controlled trial

P Montgomery et al. J Sleep Res. 2014 Aug; 23(4): 364-388.

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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