Yahoo!ニュース

コロナ禍で苦悶するカプセルホテルのいま-生き残りを賭けた壮絶な現場

瀧澤信秋ホテル評論家
カプセルホテル事業者の苦悶は続く(筆者撮影)

厳しい宿泊業界の中でも・・・

コロナ禍で宿泊施設が大打撃を受けていることは周知の事実であるが、宿泊施設といっても実に多様。最近ではGoToキャンペーン関連の番組企画においても、その制度設計に困惑するホテルや旅館の様子のVTRが放映されていた。とはいえ、宿泊施設といえば何も一般のホテルや旅館ばかりではない。報道はされないが、筆者の評論カテゴリーでいえば“カプセルホテル”や“レジャー(ラブ)ホテル”も大打撃を受け続けている業態である。

感染症対策と宿泊施設といえば、ホテルや旅館も含め、多くの宿泊施設で共通しているのは基本的に「個室」を提供しているという点である。個室=プライバシー性の高さを確保できるイメージもあり、新型コロナウイルスの感染症という側面からビジネスホテルを中心に、軽症者の受け入れ施設として白羽の矢が立ったことは記憶に新しい。一方で、ホテルと名の付くものの個室を提供しない業態にカプセルホテルがある。

カプセルホテルといえば、個室ではなくユニットで仕切られたプライベートスペースが基本。同一の空間に複数のゲストが滞在することになるという特性もあり、コロナ禍において好ましくないスタイルの宿泊施設というイメージからも厳しい経営という運営会社が多い。緊急事態宣言解除後、5月末を区切りとして一般のホテルや旅館が少しずつ開業へ移行していた中でも、カプセルホテルはクローズしている店舗が多く厳しい戦いを強いられている様子がうかがえた。

そもそも近年一般ホテル、特にビジネスホテルの供給過剰による料金下落により、進化型といわれるカプセルホテルでは料金帯の競合が起きていたこともあり苦戦を強いられていた。そうした状況に追い討ちをかけるようなコロナ禍という重大なインシデントの発生となった。

ブーム終焉?カプセルホテル事業者の悲鳴!活況から一転「予約が入らない」

出典:Yahoo!ニュース(個人)

 

 

実はコロナ禍以前からマスクを無料配布していた

休業していたカプセルホテルではいったい何が行われていたのか。コロナショックが世間を賑わしはじめた2月から定点観測的に取材してきたのが、新宿の「豪華カプセルホテル安心お宿」だ。こちらのカプセルホテル、実は新型コロナウイルスのニュースが拡散し始めた頃にカプセルホテルの感染症対策というテーマで取材し寄稿した経緯がある。

新型コロナウイルスの拡散、カプセルホテルが抱く“感染症への危機感”

出典:Yahoo!ニュース(個人)

 

コロナ禍以前からマスクの配布無料配布が定番のサービスだった(筆者撮影)
コロナ禍以前からマスクの配布無料配布が定番のサービスだった(筆者撮影)

豪華カプセルホテル安心お宿でいえば、コロナ禍以前からマスクを無料配布しており、館内の至る所に手指消毒やうがい薬を設置していた。手指の消毒などはコロナショック後は当然のように多くのホテルで見られた光景だが、コロナ禍に関係なく従前から為されていたという対策はカプセルホテルの感染症に対する危機感を物語るエピソードといえよう。清掃はもちろんのこと、感染症対策などの衛生面への徹底した対応が顧客獲得そのもの(業績)へリアルに直結する業態ゆえと考えられる。

開かれた施設ならではの見える化への取り組み

カプセルホテルという業態にして廃業も辞さない状況であろうと思われる中、いまだクローズする店舗が果たして開店するのか、開店するとすれば準備はどうなっているのかを取材するために再び同店を訪れた。そこで見たのは何とか営業再開しようと苦悶する現場のリアルな姿だった。

館内の清掃、消毒に勤しみ奮闘するスタッフの姿は想像していた光景でもあったが、筆者が着目したのは、コロナ禍以前からの感染症対策に加え、営業再開に際しどのような追加対策を施すのかという点であった。支配人によると「いま一度ゲスト目線に立ちチェックインからアウトまでの様々なシーンをロールプレイングした」という。従前から感染症対策に取り組んできただげに、実際に行われる消毒や殺菌作業もスムーズであったというが、何よりゲストへの注意喚起が重要と考えまずは見える化に取り組んだという。

見える化については一般的なホテルでも積極的な取り組みがなされている。印象的な絵やサインを用いビジュアルとして注意喚起することは、宿泊施設に限らず不特定多数の人々が行き交う施設では一般的になっている。このカプセルホテルでも様々な場所にポップ等の光景がみられたが、一般のホテルと比べてオープンなエリアが多いカプセルホテルだけに、注意喚起の表示がよく目立つのが印象的だった。

手指消毒やうがい薬も“見える化”!?

一般的にホテルサービスは客の立場に立つ「ゲスト目線」が大切と言われるが、カプセルホテルといえば、立っていることが多いスペース、座っていることが多いスペースなども含めパブリックスペースが多くを占める。ゆえに、それぞれの視覚に配慮が見られるまさに“目線”への気配りだ。以前にも増して設置された手指消毒やうがい薬などのアイテムも、これでもかと見られる光景がゲストの注意を引き消毒利用を促すことが期待される。これも“ある種の見える化”であった。

そんな見える化はバックオフィスでも進んでいた。ゲストの見える化ではない。スタッフ相互の見える化だ。スタッフ全員の体温・体調・手袋マスク着用のチェック表が一覧として全員に共有されており、コロナ対策の一覧表には、パブリックスペース、接客時、宿泊、ラウンジ、清掃等のそれぞれの注意点が計35項目並ぶ。それぞれに準備品や手順が明確に記されており、こちらも共有されている。

カプセル内部に施された対策

同店が営業再開に漕ぎ着けたのが6月末。追加取材をすると宿泊に関しては「しばらくは稼働を25%に抑制している」という。すなわち4つに1つのカプセルがアサインされるということだ。カプセルスペース内の消毒・換気は当然なされているが、驚いたのがカプセルユニット内部。カプセルルームリセット時に清掃スタッフがUVを用いた器具でカプセル内部を殺菌する設備を専門の事業者と開発中だという。殺菌効果は高く、新型コロナウイルスにも効果がある一方でカプセル利用時には人体には影響ないとする。

消毒液のミニボトルも提供される(筆者撮影)
消毒液のミニボトルも提供される(筆者撮影)

ゲストへの情報提供という点では、各々のスマホやタブレットで混雑状況が確認できるシステムが導入された。QRコードでラウンジや大浴場などパブリックスペースの状況がビジュアルとして見られる。これまでゲストがピックアップしていたアメニティは個別のバッグへまとめられ渡されたが、バックにはアルコール消毒液のパックも入っていた。筆者の知る限り、一般のホテルでここまでの対策はなかなかみられないが、カプセルホテルの抱く危機感ならではといえるだろう

無料サービス!?もスタート

営業再開に合わせてなんと無料利用のサービスをスタートしたという。NTTコミュニケーションズ株式会社と提携、同社が提供する外出先などオフィス以外の場所でスマートにワークスペースを確保できるサービス「Dropin(ドロッピン)」の実証実験に参画することで、大浴場とカプセルのデイユースを無料利用できるプランを打ち出している。無料利用ということで様々なゲストが訪れることを想定、清潔感の確保にも注力しているという。まずはカプセルホテルならではのトライを知って欲しいということだろうか。

*   *   *

いまだ出口が見えないコロナ禍の時代に極めて厳しいされるカプセルホテル業界。今回紹介した施設は一例に過ぎないが、多様な感染症対策を施すカプセルホテルは多い。その過剰ともいえるほどの対策は、カプセルホテルという業態を考えれば当然かもしれない。一方で、パブリックスペースという概念が基本という施設だけに、心理的にも忌避される側面も強いカプセルホテルの厳しい戦いは続く。

取材したカプセルホテルでいえば、スタッフのマルチタスクも一般的な業態だけに、情報の共有もまたカプセルホテルならでの視点であったが、ここまでの対策となればスタッフへの負担もかなりのものと思料する。支配人は「今まさに過去にない生き残りを賭けた戦いをしている。とにかくカプセルホテルは安心・安全という評価をいだたけるまで徹底した対策を施していく」と静かに語った。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

ホテル評論家の辛口取材裏現場

税込330円/月初月無料投稿頻度:月1回程度(不定期)

忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

瀧澤信秋の最近の記事