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ユニバーサルDH制の採用で大谷翔平の二刀流は唯一無二の存在になる?!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ユニバーサルDH制の採用で大谷翔平選手はMLBでさらに際立つ存在になる?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【WSでも話題になったユニバーサルDH制】

 1勝3敗とブレーブスに王手をかけられながら、敵地で勝利を掴み取り地元ヒューストンでの第6戦に持ち込んだアストロズ。

 まだ劣勢に立たされていることに変わりはないが、直近では2016年のカブスなど、1勝3敗からワールドシリーズを制覇したチームは計6チーム存在しており、まだまだどちらに転んでもおかしくない状況だ。

 今も米メディアでワールドシリーズ関連の情報をチェックする日々を過ごす中、最近になって現場であるトピックが話題になっており、各所で報じられているのを確認している。

 それは。両リーグともにDHを採用する「ユニバーサルDH制」についてだ。AP通信などでは、このワールドシリーズが、投手が打席に立つ最後の機会になるかもしれないと報じている。

【現場では賛成派が多数?】

 すでに多くの方がご承知かと思うが、新型コロナウイルスの影響で60試合に短縮された昨シーズンは、選手のコンディションなどが考慮され、特別措置としてユニバーサルDH制が採用されていた。

 その結果ナ・リーグの投手たちを中心に選手たちの評判は良く、今シーズンも開幕前にシーズン実施要項について協議した際に、選手会はMLBに対してユニバーサルDH制の採用を求めていたほどだ。

 ワールドシリーズでもメディアが監督や選手たちにユニバーサルDH制の是非について確認したところ、アストロズのダスティ・ベイカー監督やOBのジョン・スモルツ氏らが導入に疑問を呈しているようだが、多くの選手たちは基本的に賛成の意見を抱いているようだ。

 中でも興味深かったのが、ブレーブスのブライアン・スティッカー監督だ。彼はほぼ40年もの間、ブレーブス一筋で現役選手、コーチ、監督を務めてきた人物で、元々はユニバーサルDH制に反対の立場だったが、昨シーズンにユニバーサルDH制を経験したことで意見が変わり、今は賛成派に回っている。

【正式採用はMLBと選手会の協議次第】

 断っておくが、現時点で来シーズンからユニバーサルDH制が採用されることが確定しているわけではない。現在MLBと選手会が協議している、新たな労使協約にユニバーサルDH制が盛り込まれない限り実現することはない。

 だがワールドシリーズでのこのトピックが話題になっていることからも理解できるように、メディアを含め多くの関係者が、来シーズンからユニバーサルDH制が採用される可能性を疑っていない。

 AP通信によれば、今年のポストシーズンにおける投手全体の打撃成績は、打率.074(54打数4安打)に止まっているという。こうした状況を受け、アストロズのカルロス・コレア選手は、「(投手が打席に立つのは)本当の野球ではない。真のバッターが見たい」とユニバーサルDH制の導入を全面的に支持している。

【ユニバーサルDH制で大谷選手が唯一無二の存在に】

 あくまで個人的な意見ではあるが、ユニバーサルDH制が採用された暁には、大谷翔平選手の存在はさらに際立ち、MLBで唯一無二の存在になっていくと考えている。

 まず大谷選手のDHとしての出場機会が、さらに増すことになる。今シーズンは敵地で行われる交流戦はDH制が使えないため、代打で出場するか、欠場するしかなかった。

 ちなみに今シーズン大谷選手と本塁打争いを展開したブラディミール・ゲレロJr.選手、サルバドール・ペレス選手の打席数を比較すると、トップがゲレロJr.選手の698打席で、次いでペレス選手の665打席、最後が大谷選手の639打席だった。

 仮に今シーズンもユニバーサルDH制が採用されているとしたら、2選手に近いくらいの打席数を得ていたと考えられるので、本塁打王争いも違ったかたちになっていたかもしれない。

【DH解除に値する先発投手は大谷選手くらい?】

 またユニバーサルDH制が採用されれば、DH解除してまで打席に立つ先発投手は激減することになる。

 これまでMLBには、今回ワールドシリーズ史上初めて投手ながら代打で安打を記録したザック・グリンキー投手やマディソン・バムガーナー投手など、ある程度の打撃が期待できる投手は少なくなかった。

 だが彼らがDHを解除してまで打線に並べるほど生産性の高い打者かといえば、決してそうではない。

 今シーズンの投手の打撃成績を見ても、50打数以上を記録している投手の中で最高の成績を残している投手はロッキーズのヘルマン・マルケス投手で、その成績は打率.264、1本塁打、9打点だった。

 その他にはドジャースのフリオ・ウリアス投手が、ギリギリ打率2割台(.209)に到達しているだけで、残りはすべて1割台かそれ以下だった。

 やはりチームの戦略的な面からも、DHを解除してまで打席に立たせる価値がある投手は、どう考えても大谷選手以外にいないだろう。それほど大谷選手の打撃は、他の先発投手たちと比較するようなレベルではなく、完全に別次元にあるということなのだ。

 如何だろう。ユニバーサルDH制が採用されれば、大谷選手の二刀流はまさに完全無欠の域に達することになる。そうなれば大谷伝説は、さらに強固なものになっていくはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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