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U2やストーンズも出演か 英でウクライナ支援コンサート 85年「ライブ・エイド」方式で

木村正人在英国際ジャーナリスト
1985年の「ライブ・エイド」に出演したクイーン(写真:Shutterstock/アフロ)

■「暴君プーチンにプレッシャーをかけられる」

[ロンドン]ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に侵略されているウクライナの人々を支援するため、1985年に英国と米国で開かれたエチオピア飢餓救済コンサート「ライブ・エイド」スタイルの慈善コンサートが6月24日、英ウェンブリー・スタジアムで開催されることになったと英大衆紙サンがスクープで報じた。

U2、ローリング・ストーンズ、ザ・キラーズ、ピンクがすでに出演を打診されたという。サン紙は「巨大なものになる」という関係者の言葉を伝え、「音楽界のビッグネームが参加するウクライナのための慈善ライブが世界に放映されれば、ロシアの暴君プーチンにプレッシャーをかけることができる」と報じている。

他に名前が挙がっているのはポール・マッカートニー、アデル、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、ノエル・ギャラガーらだ。サン紙の情報源は「世界的な大物ばかりになる。以前からやりたいと思っていたことだが、このほどウェンブリー・スタジアムでの開催が決定した。出演依頼は音楽界の大物にどんどん届いている」と話している。

■「音楽で1億人の飢餓を救おう」

「多くのスーパースターは先約があることは承知している。しかし、すでに話をした人たちの多くが出演を決めていると楽観視している。U2のボノのように戦争や紛争にモノを申してきたバンドにとってはウクライナの状況の深刻さを訴える絶好の機会だと感じている」とこの情報源は自信をのぞかせている。

ウクライナ支援コンサートの開催をスクープする英大衆紙サン
ウクライナ支援コンサートの開催をスクープする英大衆紙サン

「音楽で1億人の飢餓を救おう」というアイルランド出身のロック歌手ボブ・ゲルドフの呼びかけで1985年にウェンブリー・スタジアムなどで「ライブ・エイド」が開かれた。英BBC放送でエチオピアの窮状を知ったゲルドフが「俺たちにできることは何か?」という人間的な衝動に突き動かされたのが始まりだった。

クイーンは出演陣の中で最多の6曲を披露して高い評価を受け、その様子は映画『ボヘミアン・ラプソディ』で忠実に再現されている。当時のマーガレット・サッチャー英首相はゲルドフの訴えを受け、収益に課税される付加価値税分を救援金に回した。2億5000万ドルが集まった。しかし、アフリカの国々が月々支払っている借金の利息分にすぎなかった。

■音楽は政治を動かせるのか

ゲルドフはショックを受けた。「音楽で金を集めるだけでは限界がある。政治を動かさなければ」と考えたゲルドフとボノはアフリカ諸国に対する借金帳消し運動を始めた。ゲルドフをノーベル平和賞候補に推したノルウェー議会のジャン・シモンセン元議員はかつて筆者に「彼の偉大さは音楽でアフリカが抱える問題を世界中に分からせたことさ」と話した。

2005年の英グレンイーグルズ・サミット(主要国首脳会議)前にもアフリカ支援を訴えるため世界10都市で「ライブ8」が開かれた。入場料は無料。救援金を募るのではなく、サミットに集まる世界の指導者を動かすのが目的だった。参加したアーティストは約260人、観衆は計100万人にのぼった。TVやラジオを視聴した人は世界中で20億人に達した。

英大衆紙デーリー・メールによると、英プロダクション会社Livewire Picturesがウクライナ支援コンサートの仕掛け人の1人だと言われる。同社は昨年3月、1300万ポンドを集めたウクライナのためのチャリティー・イベントや2017年のマンチェスター・アリーナ自爆テロ事件の被害者を追悼するコンサート「ワン・ラブ・マンチェスター」を手伝っている。

プーチンを止められるのは音楽と世界の若者パワーなのかもしれない。1985年の「ライブ・エイド」伝説はウェンブリー・スタジアムで蘇るのか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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