「日本は国内で“とんでもない個”を育てられない国」植松慶太氏(エージェント)インタビュー(後半)
「“日本人は足下の技術が上手い”という前提自体が疑問」植松慶太氏(エージェント)インタビュー(前半)からの続き
■「1人で打開できる個」が第一条件
――植松さんから見て、3部のチーム数が少ないドイツはなかなか難しいと思いますが、スペインやポルトガルといった国の3部以下のリーグを日本のユース上がりのプロ選手の登竜門、「個の育成」の場に利用するアイディアに関してはどうお考えですか?
Jクラブには2軍チームがなく、20歳前後の若手の最後の仕上げをする環境、欧州のようにBチームが3部、4部に所属して切磋琢磨するという環境がありません。日本では、それを大学サッカーが担っている訳ですが、大学という年齢的に限られた枠ではなく、大人もいてユース上がりの選手もいるカテゴリーで、さらにその舞台が世界レベルの国の3、4部となれば面白いアイディアだと思います。
言葉の習得にも繋がるし、文化も価値観も違う中で、人間としての成長に繋がる体験にもなりますから。そんな中、海外で成功しやすいタイプとそうでないタイプがあります。その中の1つの要素として、海外ではピッチ上で日本ほど組織の部分で周りが丁寧にサポートしてくれない点があります。日本の場合、良く言えば組織が本当にしっかり機能しています。悪く言えば、過保護。周りが良く動いてくれ、レベルが高ければ高いほど組織力が増し、周囲のしっかりしたサポートを得た中でプレーできます。
しかし、スペインの3、4部の場合、その辺りは少し雑で、周りもそこまでしっかり動いてくれませんし、逆に言えば「そこは自分でやれよ」、「そこは自分で勝負して来い」と突き放されてしまう局面が多く、自分一人で打開できる武器がないと難しいです。つまり、周りとのリンクで活きるタイプの選手は少し厳しいかと思います。
だから、選手のタイプによりますね。「周りの人を使って、使われて」という環境で活きるタイプの選手は世界の荒波に揉まれると、周りがそこまでリンクしてくれない上に、スペインの3、4部になるとそこまで上手い選手もおらず、サポートの動きが雑になってしまうため、よりフィジカルが求められます。そういった理由で、成功するタイプとそうでないタイプに分かれていくと思います。スペインで成功するには「1人で打開できる個」があることが私の中での第一条件です。
――そうなるとやはり攻撃的な選手にならざるを得ませんか?
サイドバックでもいいです。SBはスピードがあり、献身的に上下運動を繰り返す必要があるので、日本人にフィットしているポジションだと思います。ですが、ドイツですと「センターバックはノーチャンス」と言われます。ブラジルW杯での今野泰幸(G大阪)を指して、ドイツのあるサッカー関係者から「ドイツで178センチのCBが代表というのはあり得ない」と言われました。実際に190センチ台が当たり前で、世界的にはそういう大柄な選手が敏捷性や足下の技術も兼ね備えていますから。
■日本は国内で“とんでもない個”を育てられない国
――やはりスペインの中での日本人の評価は依然として低いですか?
まだ低いですね。相変わらず成功例がないですから。この流れを打ち破るのが私のライフワークになるかもしれないです(苦笑)。しかし、韓国のように国を挙げて「どんどん(外に)出そう」という雰囲気ではない国の中で、日本人にそういう例を見出せるのかを考えると、正直厳しいというのはあります。おそらく、U-16韓国代表FWイ・スンウ(バルセロナ)に先を越されるでしょう。
日本は国内でとんでもない個を育てられない国だと思っていますし、「右へならえ」で右に向かせてしまう国ですから。そういう日本の国民性や文化、メンタリティを考えれば考えるほど、難しいかなという思いはあります。
――まだまだ日本基準の海外移籍は、柿谷曜一朗(バーゼル)の例が典型で20代半ば、満を持してのパターンです。この現状は危惧していますか?
そうですね。一方で、精神的にそれぐらいの年代にならないとそういう考えにならないのかなというのも感じています。やはり成熟するのが遅いと言うか……。欧州であれば18歳が成人じゃないですか。日本の場合は何か守られすぎていて、意識の部分でも22歳の事を「まだ大学4年生」と表現する場合が多々ある。この年齢だと、世界のサッカーマーケットでは全然若手じゃないわけです。16歳からプロになれる世界ですから。
しかし、日本ではまだまだ24、25歳になっても若手意識を持っていますし、「5年後にはサッカーをやっているかわからない」という選手たちですら、そういうメンタリティになっています。これはもう日本の文化と言いますか、そういう根深い話にまでなってしまいますけど、やはり親、お母さんがやってあげ過ぎだと思います。おそらく、日本のお母さんが真面目なのでしょう。
日本のお母さんはすごいのですが、もう危ないことに対して全て事前に障害を取り除き、道を作ってあげてしまいます。しかし、それはサッカーをやる上ではマイナスで、やはり自分で考えて判断し、ミスから学んで自分で切り開いてやっていかないといけません。しかし、今の日本では、事前にお膳立てされていて、言われたことはやれるけど、自分から何かを考えて行動することが苦手な子がどんどん増えているなと、憂いを感じています。
――植松さんが今サポートしている選手からも過保護を感じますか?
少なからず、ありますね。「iPhoneをなくしちゃった。買ってよ」ですから……(苦笑)。それでまたお金が送られて新しいものを買ってしまうわけです。本人は全然痛くもかゆくもないわけですから、また無くすわけです。これはちょっとした一例ですが、自分で考え、努力し、自分を律して精進して行ける子でないと、サッカー選手としても良いプレーヤーにはなれません。
ですので、長期留学したい、海外に挑戦したいという未成年の少年や若者には、最近はネガティブなことや厳しいことを事前に全て伝えるようにしています。「長期で住みたい」という子が来たら、親と一緒に会って、駄目な例をいくつも言っています。それで、「そういう部分がちゃんと自律してやれる子じゃないと私たちも受け入れません」とはっきりと伝え、覚悟を持って挑戦する子でないと、受け入れないようにしています。
今までは長期挑戦者に対し、“来る者拒まず”だった部分もありますが、今では過保護な子をぞろぞろ預かるつもりは毛頭ありません。技術があっても努力出来ない、自分で考えて行動出来ない子は難しいと思います。逆に、技術はあまりないけど、すごく頑張る子、努力出来る子は受け入れています。
実際、今スペインにいるある選手は不器用であまり上手くはないですけど、本当に努力家で、球際で闘えるし、走るし、スライディングもたくさんします。勉強も頑張りますし、私が見ても「お前、すごいな」というぐらいの頑張り屋です。少し時間があったら、「ちょっと走ってきます」と寮を出て自主トレに行きます。そういう子でしたら大歓迎です。
■スペインは地に足がついている子の率が多い
そういう子なら、例えプロにはなれなくても、間違いなく彼の人生でこの留学は活きてくると思うからです。弊社のスペインプロジェクトも月日が経って、ある程度の人数が集まっていますが、半ボランティア的にやっている、つまりはお金にはならないプロジェクトなので、せめて私たちが心から応援したい子たちをサポートしたい。ですから、今後はどんどん淘汰していきたいと思っています。もしくはフィルターをかけた上で、「この子だったら良い留学体験をつかみ取れる」という子だけに絞って受け入れて行きたいと思っています。
スペインだと12、13歳ではっきりと自分の意見も言えますし、大人ともしっかり会話ができます。でも、日本だと高校生ですら危なっかしいですからね。何か質問しても、「よくわかんないっす」みたいな……(苦笑)。意識の部分でも、育て方と言いますか、ぬるま湯につかっているような感じがします。スペインを見ていると事実、厳しい現実を若い頃から伝えて、本人に選ばせています。要は、地に足がついている子の率が多い。でも、日本の場合は全部を教えないで、ぬくぬくとやっています。本当に年齢の割に、お子様が多い。
――日本代表を見ても、22歳の柴崎岳(鹿島)が「若手のホープ」と持て囃されています。でも、いざブラジルのような大国と戦うと、同い歳のネイマールに4ゴールをぶち込まれ、対する柴崎は失点に絡む致命的なミスを犯している。それでも特に批判されることもなければ、国内に帰ってきたらスター候補生の座は安泰です。
まだ20代前半の若者なので、ちやほやされたら居心地がいいと思ってしまうわけです。日本のメディアが「上には上があってまだまだ」くらいの叩き方をしてくれたらいいのですが、何かこう、ぬくぬくとした温もりを感じてしまいますね(苦笑)。本当に日本には厳しさがないと言いますか……。
――例えば柴崎岳が「スペインでやりたい」と覚悟を決めた場合、植松さんから見てすんなり1部ないし2部上位のクラブに入れると思いますか?
技術的には全然やれると思いますけど、入れる枠がスペインの場合は3枠と狭く、彼の場合フィジカルがないので、ハードワークをせめて平均値にまで持っていかないと「守備になった時には使えない」となって出場機会を失ってしまうパターンになるでしょう。さらに、日本人の成功例が過去にないリーグで貴重な外国人3枠を彼のために使うとなった時、すんなり入れるというイメージは残念ながら湧きません。
ドイツであれば、あり得るとは思います。ハードワークの点でがっかりされるのは日本人選手に本当に多いので、「技術に加えてハードワークして欲しい」とは思います。ですから、柿谷にしろ、宇佐美にしろ、彼らはいいセンスを持っているのに、ハードワークに関しては今でもさほど身に付いていないので、おそらくそこが欧州クラブの監督としては使い難いと感じさせてしまうのでしょう。「世界に行って初めてハードワークを覚えました」ではなく、日本でも世界基準のハードワークを養えるようになって欲しいですね。
――そういう意味では、指導者やメディアも含めた評価基準を変えないと難しいということですね?
そうです。メディアについても「どういう人がサッカーの記事を書いているのかな?」と。もちろん、造詣の深い方もいるとは思いますけど、その辺りは実際どうなのですか?
■日本のサッカーメディア自体もぬるい
――まだまだ日本には、情報はあっても世界トップレベルのリアルな現場や評価基準を見聞きしたことのない人が多いということなのでしょう。
今はスペインだけじゃなくて、色々な国に在住歴があり、世界を知っている人がいます。そういう人たちがブログやネットなどでニュースやコラムを書くようになっているじゃないですか。そういう人たちがもっと増えて、新聞記事などもそういう人が書くようになると良いのかもしれませんね。
――ただ、欧州在住でも海外組の日本代表選手にコバンザメのように付いて、「今節は大活躍」、「地元メディアが大絶賛」みたいな提灯記事を書くケースが多いわけじゃないですか? 例えば、日本だと本田は「世界トップレベル」、「セリエAの得点王ランキング上位」と持ち上げられますが、今のセリエAのレベル、今のミランのレベルが欧州の中でどういう状況にあるのかを冷静に見て、それが文脈に入っている記事はほとんどありません。商業的に仕方がない面があるとはいえ、正当な立ち位置を示した記事は出にくい。
まあ、メディアに厳しさがないし、日本のサッカーメディア自体もぬるいですから仕方がないですね。
■ブラジルW杯は「お話にならなかった」という感じ
――少し遡りますが、ブラジルW杯での日本の戦いぶり、惨敗についてはどう見ましたか?
「自分たちのサッカー」という以前に、戦っていないと言いますか、現実離れした発想と言いますか、実力がまだないのに自分たちのサッカーを追い求めて、現実的なアプローチができずにフワッと終わったという印象です。逆に、4年前の岡田(武史)さんはそこに気づいて、ぎりぎりの段階でしたけど、現実路線にシフトしてベスト16まで行きました。あれが日本の現実なのだなと。
もちろん、理想は追い求めたいのですけど、理想と現実の中でまず現実を見据え、その中でどこをどれだけ理想に近づけられるのかというアプローチが必要だと思います。その中で「自分たちのサッカー」と言って理想ばかりを追い求めて、その結果後ろ、守備がおざなりだったなという印象です。
あとはそれ以前にベースとして戦っていないなと。南米の選手は本当に戦うじゃないですか。人生が懸かっているじゃないですけど、本当に厳しさの中で生きてきたであろう人たちに対して今のように生温い日本が敵うわけがないというのは改めて感じてしまいました。だからといって彼らの中にはただ荒っぽいだけじゃなく、ボールを繋ぐところは繋ぐしっかりした技術がありますし、スピードも運動量もあります。
一言で言うと「お話にならなかった」という感じです。
そう考えるとハビエル・アギーレは現実をしっかり見据えた上でチームを作れる人だと思いますし、今でしたら理想ばかりを言うことはできないと思うので、逆にやりやすいのかなとは感じます。とはいえ、アジアカップで惨敗するわけにはいきません。いずれにせよ、ザックの時が上手く行きすぎたのかもしれません。
アジアカップは獲りましたし、ボロが出るのが遅すぎました。コンフェデ杯の時にも若干ボロは出てきていたとは思いますけど、その後のオランダ、ベルギー戦には親善試合ですけど良い試合をして結果を出してしまった。だから、南アフリカW杯の時のように謙虚になる機会が最後の最後、本番までなかったのかなと。そう考えると準備期間に少し上手くいってしまったのが凶と出たのかもしれないですね。日本はもっと謙虚にひたむきに戦わないと世界では通用しないし、日の丸を背負う誇りを胸に戦いに挑まなければ、話になりません。
――「自分たちのサッカー」にこだわったブラジルW杯の日本代表に通ずるものは、遠征でスペインに行く日本のチームにも感じますか? 自分たちのサッカー、パスサッカーしか持っていなくて、砕け散っていくようなチームが多いのでしょうか?
そうですね。「パスを繋ぐ技術」、「パスサッカー」というキーワードが過去のものになりつつありますけど、スペイン代表やバルサが最盛期の時にそれらのワードが出て、繋ごうという意識が流行ったと思います。それで繋ぐチームがすごく多くなり、繋ぐ技術で言うと野洲高校や今夏スペインに来た横浜FCユースもすごくレベルは高い。生真面目すぎるほど丁寧に繋ぐ技術はそれなりに特化してやっているだけあって上手です。
でも、結局サッカーはゴールを奪い合うスポーツなので、バイタルエリアに入っても強引にシュートを打たないだとか、そこでパスを選択してしまって、パスを繋ぐことが一番の目的になってしまっているような印象は相変わらず受けます。相手チームに聞いてみても、「ポゼッションでは負けたかもしれないけど守備をしていて怖さはなかった」という感想を持たれていて、「パスサッカー」という言葉が拡大解釈され広まりすぎたのかなという印象はありました。
東福岡高校もスペインに来ましたが、東福岡は逆にJユースメンバーほどクオリティの高い選手は揃っていなかったので、割り切ってボーンと蹴って走るみたいなサッカーをしていました。「俺たちは走って戦うしかない」、「自分たちは下手なんだから」という感じでやっているので、そちらの方がむしろ好感は持てました。現実的に戦っているなというのはありました。
■「パスサッカー」という言葉は罪
――大会の結果はどうだったのですか?
横浜FCユースの結果は良かったです。ビジャレアルに勝って、マラガとは引き分け、得失点差でマラガに上に行かれて3位決定戦でダムという街クラブの強豪に2−2のPKで勝って3位で終えました。日本のチームを受け持った中では、久しぶりにスペインのチームと対等に戦っていました。
日本の強豪チームになると、繋ぐということをコンセプトにこだわりすぎてしまい、GKにバックパスした時に相手が2人ぐらいプレッシャーに来ているのに、そこでも無理矢理パスを繋ごうとしてミスを犯し、失点するようなケースがよくあります。そこは“繋がなきゃいけない”という強迫観念に囚われず、状況判断として“蹴ってもいいんじゃないの?”と。日本人は、言われたルールに束縛され過ぎるきらいがあり、そうなると「パスサッカー」という言葉は罪だと感じます。
「ポゼッションを高めて、自分たちでなるべくボールをキープして相手にボールを持たせない」というバルサのような発想は良いのですが、日本人の場合いつの間にか「繋がないといけない」みたいな感覚に陥ってしまっている。本当に日本人は真面目で、言われたことをやろうとするのだなと。日本人の特徴として、やはりフィジカルもそこまで強くはないですし、体も大きくはない国民なので、ポゼッションサッカーを目指す方向性は良いと思います。
しかし、それ以上にハードワークや戦う、走るというのがベースにないといけないというのは痛感しています。ゴール前では俊敏性を活かして、ガンガン仕掛ければいい。「自分が失うのが怖い」という心理からなのか、自分で打てるのに、自分で仕掛けていい場面なのに、パスを選択するプレーが日本人は凄く多い。多過ぎます。もっとエゴイスティックなストライカー、ボックスの中で特別な事が出来る専門職を育てて欲しいと切に願います。ゴールを奪う技術やシュートの精度は低いですし、それ以前にシュートを打たないですから……。
――やはりそういったスペインと日本の違い、差は小学生の4種から出てきていると感じますか?
そうですね。シュートの質がもう7、8歳で全然違いますから。ある意味で体格上仕方がない面もありますが、日本人選手は総体的にキック力がない。スペインに来る多くの日本人を見てきて「シュートが上手い」と思えたことがありません。
(了)
【プロフィール】
植松慶太(うえまつ・けいた)
1972年生まれ。MGF社代表。日本サッカー発展の一助となる為、2002年より渡西。日本とスペインの橋渡し的な役割を演じる為、日々奮闘中。RFEF(スペインサッカー連盟)発行FIFAプレイヤーズ・エージェントライセンス保持。現在はMGF社(Movement Global Football.S.L.)の代表として、日本とバルセロナを拠点に活動しながら、スペインでの短期留学やチーム遠征、バルセロナでプレーする高校生以下の日本人選手のサポート業務など多岐に渡る海外サッカービジネスを手がけている。