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アギーレジャパン、4年後に生き残る選手は誰だ

杉山茂樹スポーツライター

ウルグアイに0−2。ベネズエラに2−2。

ブラジルW杯の成績に基づけば、これは妥当な結果だ。

そしてブラジルW杯の結果もまた想定外の出来事ではなかった。妥当な結果だ。この結果に不満を抱いている人の中には、日本のレベルを過信している人が多くいるものと思われる。

2010年南アフリカW杯、2002年日韓共催W杯で収めたベスト16を基準に考えれば、思い切り弱くなったように見えるが、両大会にはラッキーな要素が詰まっていたことも事実。2002年は開催国特権という恩恵に基づく結果であり、2010年はFKが立て続けに2本も決まる(デンマーク戦)という滅多にないことが起きた結果だった。

日本の実力はW杯本大会では24番目から32番目の間。グループリーグでは最下位候補。これが現実だと思う。そうした視点に立てば、現状を素直に受け入れることが出来るはずだ。

ベネズエラ戦後の監督記者会見でも、結果が出なかったことを問題視する意味合いの質問が向けられたが、それは対戦相手を上から目線で見つめる行為になる。

日本の立ち位置が分かっていない証拠であり、他国のサッカーに敬意を払っていない証拠である。

これこそが日本が伸び悩む、大きな原因のひとつだと思う。だから必死になれないのだ。

海外組はいま、新顔が多く加わった中でとても頼りになる存在に見える。そしてその数が増えたことが、日本が強く見える大きな原因の一つになるが、その中で欧州のトップ16に入るチームは、香川真司が移籍した先のドルトムントぐらいだ。日本人選手が所属しているクラブチームのレベルは、思いのほか高くない。

しかし、その海外組も、2018年W杯本大会からフィードバックして考えれば、最終的には半減していると考えるのが自然だ。2014年組でスタメンとして残るのは、せいぜい5人程度。サブを入れても10人程度だろう。

すなわち新顔には、スタメンだけでも6議席用意されていると考えていい。サブを入れれば、数は倍に膨れあがる。

従来のスタメンから誰が脱落し、どんな新顔が台頭するか。新顔の台頭は欧州組(従来組)の落選とリンクしていると言っていいのだ。

武藤嘉紀、柴崎岳。第2戦で活躍した両者を、スタメンで起用しようとすれば、欧州組の誰かは落選することになる。彼らを持ち上げるのであれば、従来組の誰より良いのかという視点も不可欠になる。

その中間に位置する選手も忘れてはならない。細貝萌、田中順也、扇原貴宏、水本裕貴らがそれに属する選手になるが、彼らの中で最も出場時間が長かったのが細貝だ。評価の高さを反映したものと言っていい。「守備の人」として通っていたその細貝を、アギーレは守備的MFではなく、Vの字を描く中盤の高い位置で使った。高い位置から守備をするアギーレの趣向を反映したものと言える。

マイボール時に貢献する機会は確かに少なく、物足りないように見えたが、相手ボール時には、よくボールに食らいついていた。従来の価値観とは逆のプレイをしたわけだが、「サッカーは守りながらでも攻撃できる」という価値観に基づけば、見た目より評価は高いモノになる。

逆に、マイボール時に力を発揮するタイプの柴崎は、確かなボール操作を披露する一方で、軽率に見えるミス、悪い奪われ方をしたことも事実。これをなくさないと、スタメンは難しい。とはいえ、自ら決めた2点目の得点シーンでは、中盤から50m以上、ゴール前まで全力でダッシュしている。シュートポイントに積極果敢に飛び込んでいった。遠藤保仁にはない魅力を見せた。監督が代わった効果を見た気がした。

武藤は右も左も真ん中もできるところが強み。左に回れば、左利きのようなボールの持ち方ができる。自らがマークした先制点のシーンでは、まるで左利きであるかのようなドリブルと、コース取りをしている。右利きが「きつい」香川との違いと言っていいだろう。

香川には左サイドを任されても、真ん中に入り込む癖があった。その結果、中盤のエリアは狭くなりパスの難易度は上昇。ザックジャパンはパスを悪い位置で、奪われやすいサッカーをしていた。ブラジルW杯では右の岡崎慎司も、真ん中に入り込むことが多かったため、その傾向にいっそう拍車がかかっていた。大きな敗因の一つと言えたが、アギーレのサッカーはこれとは一線を画している。3FWの両サイドは、かなり外に張っている。すなわち、その両サイドにボールが収まれば、中盤のエリアは広く保たれることになる。

キープ力の高い本田圭佑を右のサイドで起用する理由も、そこにあるはずだ。

広く保っておいて真ん中を突く。アギーレが、もともとこうしたサッカーをする監督であることは、その過去を知れば明白だ。

05~06シーズンのスペインリーグで、弱小チームのオサスナをCL圏内である4位に導いたときのサッカーはまさにこれ。その時、右サイドを担当していたのは、ブラジル系のバルドという好選手だったが、そのイメージと本田の姿を、僕はつい重ね合わせて見ていた。

ベネズエラ戦。サイドは異なるが、岡崎の左からの折り返しを、柴崎が巧く右足に引っかけてゴールした2点目は、まさにアギーレらしいゴールと言えた。

監督には、強豪チームを任せると力を発揮するタイプと、そうではないチームを上位に引っ張り上げるのが得意なタイプと、大きく2つに別れるが、アギーレは典型的な後者だ。日本の立ち位置に相応しい監督と言っていい。問題は周り、すなわち、メディア、ファンに弱者、チャレンジャーとしての自覚があるかどうかだ。

日本は弱い。だからどうする。そうした視点に立たない限り、アギーレのやり方は、違和感たっぷりに見えるだろう。アギーレと日本のサッカーとの相性は良いはずだが、気質との相性となると、疑問を感じてしまうのだ。

(集英社・SPORTIVA Web 9月10日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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