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【落合博満の視点vol.72】紙一重の勝負を制するために重視したい感覚とは

横尾弘一野球ジャーナリスト
バッティングだけでなく、野球ではあらゆる場面でタイミングが重要だ。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 落合博満にバッティングの上達に不可欠な考え方を問えば、「時間との闘いを制すること」と答えが返ってくる。

「マウンドからホームプレートまでの18.44mで繰り広げられる投手と打者の戦いは約0.4秒。これに立ち遅れない準備をしておけば、あとはストライクだけをしっかりとらえればいい」

 だからこそ、できる限り早く始動してバットをトップの位置に入れ、いつでもスイングできる姿勢で投球を見極めるのが落合の基本的なスタイルだ。落合は、野球という競技でチームや選手が成功を収めるためには、確率と時間の感覚を重んじるべきだと説くが、時間に関しては練習の時点から気を配ることが、ここ一番の勝負を制するために必要だという。

 例えば、中日で監督を務めていた時は、春季キャンプのスケジュールを基本的に6勤1休とした。

「プロの世界だって、練習すれば上手くなる。だから、4日おきに休むのと6日おきに休むのでは、一年間で見れば練習量に大きな差が出るでしょう」

 その中で、休日はおおむね月曜日としていた。

「6勤1休なら休日は週に1日だから、ならば月曜日しかない。ペナントレースになれば3連戦が2カード続き、月曜日が休みになるのがほとんどなのだから」

 そうやって春季キャンプから月曜日を休日にしていれば、選手たちの体は月曜日に休むことに慣れていくという。技術事を徹底して反復すれば、頭で考えなくても体が咄嗟に反応して対処できるように、休養のサイクルをペナントレースに合わせていくことも、試合日のパフォーマンスを向上させるのにつながると考えている。

半月前から準備するだけでも立ち上がりがまったく違った

「夜勤に従事している人は夜中でも頭と体がしっかり働くし、昼間に睡眠を取ることもできる。けれど、一般のビジネスマンが急に夜勤をやれと言われたら順応するのに時間がかかり、体調を崩す人もいるかもしれない。つまり、人間の体内時計というのは、仕事をする上では意外と大切な要素になる」

 この考えは、全国大会など大舞台で一発勝負のトーナメントを勝ち抜く上でも活用できる。特にトーナメントの初戦は、先発するエースが立ち上がりにもたつき、先制点を許しただけでも黒星を喫してしまうケースがある。コンディショニングの面でそうしたアクシデントを防ぎたいと考えるなら、試合当日に合わせたスケジュールで準備をしたほうがいい。

 社会人の都市対抗野球大会は、今年も7月19日に東京ドームで幕を開ける。基本的に1日3試合で、午前10時、午後2時、午後6時に開始される。

「午後6時開始の一回戦をどうしても勝ち上がりたいなら、最低でも1週間前から、この時間に合わせて練習したほうがいい。普段よりもゆっくり起床して、投手なら午後4時くらいからウォーミング・アップ、ブルペンとやっていけば、より自分のペースで投げることができるんじゃないかな」

 実際、このアドバイスを実践したチームに聞くと、先発投手は「半月くらい前からプレイボール時刻に合わせて過ごしたら、特に立ち上がりがとてもスムーズにできました」という。夏の都道府県大会に臨む高校野球でも、試合を控えた時期の練習内容は熟慮するが、試合時間に合わせて練習するという発想はなかなかしないのではないか。

 どうしても勝ちたいと思うなら、対戦相手の分析と同時に、自分たちのパフォーマンスをベターにする発想も持っていて損はないだろう。

「バッティングをはじめ、野球ではタイミングを合わせることに神経を費やす。試合時間に合わせて準備するのも、タイミングを合わせることでしょう」

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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