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NISA恒久化で日本の国家戦略となる金融教育で「セールストーク」を掴まないためには?

高橋成壽お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA
金融教育、金融リテラシーのイメージです。(写真:イメージマート)

NISA恒久化構想に伴い、日本の国家戦略の1つに金融教育が挙げられています。何のこっちゃ?と感じた人も多いでしょう。簡単に説明すると国民が投資することを通じて経済を成長させるということのようです。そもそも金融教育で醸成される見込みの金融リテラシーとは何なのでしょうか。

※タイトル修正しました。

金融リテラシーって何なの?

金融庁では、「最低限身に着けるべき金融リテラシー」内容を公表しています。https://www.fsa.go.jp/news/25/sonota/20131129-1/01.pdf それによると、いろいろな制度などの「理解度を向上させること」のようです。

具体的には下記のように表現されています。※筆者流に表現しています。

(1)家計管理:適切な収支管理

収入と支出を管理して、赤字にならないよう注意、黒字になるようにしましょう。

(2)生活設計

ライフプラン(人生設計)を明確にし、資金確保の必要性を理解しよう。

(3)金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択

【金融取引の基本としての素養】

契約以前に契約相手が適切か確認しましょう。確かな情報源か併せて確認しましょう。オンライン取引の場合は、対面とは異なる注意点があることを理解しましょう。

【金融分野共通】

金利、物価変動、外国為替、リスク・リターンを理解し、情勢に合わせた金融商品選びを理解しましょう。取引にかかるコストの把握と重要性を理解しましょう。

【保険商品】

保険でカバーすべき事象が何か理解しましょう。保険で賄うべき保障額を理解しましょう。

【ローン・クレジット】

無理のない住宅ローンを組みましょう。無計画なカードローンやクレジット利用をやめましょう。

【資産形成商品】

リスク許容度は人によって異なり、高いリターン(利益)を得るためには高いリスク(価格変動)を伴うことを理解しましょう。分散投資の効果について理解しましょう。長期投資の効果を理解しましょう。

(4)外部の知見の適切な活用

自分で学ぶだけでなく、外部の情報や専門家の活用の重要性を理解しましょう。

一歩進んだリテラシーに必要な実践

現在、小学校、中学校、高校で金融リテラシー向上のためのカリキュラムが組まれています。しかし、その時間は十分とは言えません。筆者の感覚では、数時間、数コマの座学授業で理解できるとはとても思えません。

日本で教育を受けた多くの若者は「勉強」(インプット)すれども、「実践・実行」(アウトプット)しない傾向があると考えられています。

それは、学校教育が唯一の正解を教えるスタイルに起因するかもしれません。皆さんご承知の通り、世の中には唯一絶対の正解は少ないもの。強いてあげると、国語は解釈、社会は歴史観によって見方が変わります。理科は前提条件によっていくらでも変化します。答えが1つしかないのは、算数の計算くらいかもしれません。

筆者が20年のFP経験で感じるのは、多くの人が「正解」を知りたがるということ。100%共通の正解があるのは、いつか亡くなることくらい。他は育った環境や働く環境、家族構成により、その人にとってのより良い解答がいくつも見えてきます。複数の許容可能な選択肢から、自身が最適と感じるプランを選びます。

このような場合、自分にとっての最適解が家族や自身にとって最適であったかどうかは後になってわかります。多くは独自の価値観で短期的な自己最適化を目指し(部分最適)、長期や家族にとって最善の選択をすること(全体最適)は難しいようです。

筆者は金融リテラシー向上のためにはアクティブラーニングが欠かせないと考えています。それは、ディスカッションやグループワークを通じて、人と自分の考え方や価値観の違いを知り、人は何を選択するか、自分は何を選択すべきかを客観的な視点を交えて学ぶことができるからです。

教育課程であれば、失敗は金銭的な損失なく許容されます。一方で、社会に出てしまえば、損失は「勉強代」という言葉で表現されるように、金融資産のダメージを伴います。

一度失敗し、手痛いダメージを受ければ、自己保身のため「何もしない」という選択肢を選ぶようになるでしょう。

お金の嫌いな教師とお金の好きなFPの講義スタイルの違い

筆者が、パーソナルファイナンス教育インストラクターとして学校で講演した際、お金の嫌いな人はいますか?と質問したところ、担当教師が手を上げました。

筆者も生徒も驚きましたが、お金にネガティブな印象をもつ人による授業・講義と、お金にポジティブな印象をもつ人による授業・講義では、伝えたい内容が異なります。

いい悪いではありません。ネガティブな印象を持つ人は、過去の知見でマイナスの要素を多く見てきたのでしょう。特に学校の先生であれば、学校特有の家庭事情に詳しく、生徒指導の立場から、お金のトラブルと密接にかかわってきた可能性があります。そのような経験をお持ちの方であれば、生徒にたいして契約などに関する注意喚起を重視するでしょう。

ポジティブな印象を持つ人であれば、金融リテラシー向上による楽しいお金の管理手法を、にこやかに伝えるかもしれません。

筆者が恐れているのは、金融を恐れていない講演者が、リスクや失敗を軽視した情報を伝えることです。正しく恐れてほしいのです。また、金融を恐れる講演者が、リスクや失敗を過剰に肥大化して伝えることです。いずれの場合もレアケースを一般化しないよう配慮が必要です。

金融機関にコンテンツを作らせてはならない

すでに、金融庁のホームページには、中高生向けの資料、学校関係者や保護者向け資料がたくさん表示されています。

金融経済教育について https://www.fsa.go.jp/teach/kyouiku.html

中学生・高校生の皆さんへ https://www.fsa.go.jp/teach/chuukousei.html

先生・保護者・教育関係者の皆さんへ https://www.fsa.go.jp/teach/chuukousei.html

銀行、保険、証券といった金融機関は、自らの業界団体で積極的に金融教育を実施していますが、セールストークや誘導があるか可能性は否めません。

また、情報提供型セミナーでは、営業活動のための「セールストーク」、「ポジショントーク」が山盛り、てんこ盛りだと心しておきましょう。営利企業の実施する情報では、自社の利益につなげる必要がありますから、当然情報が偏ります。

業界団体であれば、ある程度情報の公平性はありそうですが、業界のための情報発信ですから、特定のコンテンツしか学べないと理解すべきです。

お金の情報は、情報の真贋以外にも、どんな人たちがどんな立ち位置で情報発信するかを見定めることが必要で、それこそが金融リテラシーの本質だと筆者は考えます。

筆者自身は、学校で授業・講演実施の際は、教育者の立場で情報を伝えますが、自社主催のセミナー等では、自社サービスのセールストーク、ポジショントークが必然的に加わります。

使い分けているからこそ、情報発信者の立ち位置を理解するところから、金融リテラシーを見つめてほしいと考えています。

お金の先生/C FP/証券アナリスト/IFA

日本人が苦手なお金を裏も表も解説します。お金の情報は「誰がどんな立場から発信したのか見極める」ことが大切。寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター代表。無料のFP相談・IFA相談マッチングサービスとして「ライフプランの窓口」「住もうよ!マイホーム」「アセマネさん」を運営。1978年生神奈川県藤沢市出身。慶応大学総合政策学部卒業後、金融関係のキャリアを経て有料FP相談を開始。東海大学では非常勤講師として実務家教員の立場から金融リテラシー向上の授業を担当。連載:会社四季報オンライン。著書:ダンナの遺産を子どもに相続させないで。メディア出演、メディア掲載多数。

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