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Netflixアニメ『Yasuke -ヤスケ-』の主人公・弥助、マンガの世界ではどう描かれてきた?

加山竜司漫画ジャーナリスト
Netflix『YASUKE -ヤスケ-』公式サイトトップページより

アフリカ系のサムライが活躍するファンタジー時代劇

2021年4月29日より、Netflixでオリジナルアニメシリーズ『Yasuke -ヤスケ-』の全世界独占配信が開始した。本作の舞台は日本の戦国時代で、アフリカ系の主人公・ヤスケ(弥助)が活躍するファンタジーアクション時代劇(全6話構成)。

原案・プロデュース、監督を務めるのはラション・トーマス。前作『キャノン・バスターズ』に続き、再びNetflixオリジナルアニメシリーズを手掛けることになる。

アニメーション制作は『進撃の巨人 The Final Season』や『呪術廻戦』などで知られるMAPPAが担当。

弥助は戦国時代に実在した「黒人の侍」で、2019年には彼を主人公とする実写のハリウッド映画の制作が発表された。『ブラックパンサー』をはじめM.C.Uシリーズでブラックパンサー役を務めたチャドウィック・ボーズマンが主演を予定されていたが、残念ながらチャドウィックは2020年に大腸がんで亡くなってしまった。

ともあれ、弥助は世界的に注目度の高い歴史上の人物である。では、弥助はどのような人物だったのだろうか。

史料に見る弥助像

織田信長の側近・太田牛一によって記録された『信長公記』には、天正九(1581)年の出来事として以下のような記述がある。

二月廿三日、きりしたん国より黒坊主参り候。年の齢廿六・七と見えたり。惣の身の黒き事牛のごとく、彼男健やかに器量なり。尒も強力十の人に勝たり。伴天連召列れ参り、御礼申上ぐ。

(『信長公記』奥野高広・岩沢愿彦 校注より引用)

【意訳】

2月23日、切支丹の国から黒人がきた。年齢は26~27歳くらいに見えた。全身が牛のように黒く、健康そうで立派な体格であった。しかも力が強く、十人力以上。伴天連が連れてきて、信長に挨拶をさせた。

この頃の信長は、正親町天皇を招いての大規模な御馬揃え(軍事パレード)を計画していた(2月28日に開催)。2月20日に本能寺へと入った信長のもとにはさまざまな人物が訪れており、23日には日本巡察使アレッサンドロ・ヴァリニャーノが黒人奴隷をともなって訪問している。

信長はこの黒人奴隷を気に入り、ヴァリニャーノに交渉して譲ってもらい、「弥助」と名付けて小姓にしたと伝えられている。

本能寺の信長公廟
本能寺の信長公廟写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

翌年(1582年)の6月2日には本能寺の変が起きるので、弥助が信長に仕えたのは1年と3カ月程度に過ぎない。だが、信長の甲州征伐に同行するなど、活動の目撃例が残されている(松平家忠『家忠日記』)。

本能寺の変に際しては、二条御所に向かって信長の嫡男・信忠を守って戦い、明智光秀軍に捕縛されたという(『イエズス会日本年報』)。以降の消息は分かっていない。

マンガに見る弥助像

弥助の半生は不明な点が多く、それが創作意欲を刺激するのか、これまで数多くのマンガ作品で題材とされてきた。その代表例を紹介しよう。

『へうげもの』(山田芳裕)

織田信長、豊臣秀吉に仕えた戦国武将・古田織部が「数寄」を極めようと奮闘する出世物語。2011年にNHK BSプレミアムでアニメ化された。

本作では本能寺の変の実行犯を秀吉としており、弥助は山崎の戦い(第二十九席「夏をあきらめて」3巻収録)の折に「信長殺しの犯人」を古田織部に伝えるという重要な役割を担う。ドレッドロック・スタイルの髪型が特徴的で、寡黙で忠義心の厚い武人として描かれている。

『信長協奏曲』(石井あゆみ)

現代の高校生サブローが戦国時代にタイムスリップし、姿かたちがうり二つの織田信長と入れ替わることに。2014年にはフジテレビの開局55周年プロジェクト作品に選ばれ、テレビアニメ・実写テレビドラマ・実写映画の同時展開が行われた。

本作での弥助は、サブローと同じくタイムスリップしてきた現代人で、プロ野球で活躍する黒人選手。本名はヤングだが、戦国時代の人には呼びづらく「弥助」の名が与えられる。大柄の体格にスキンヘッドで、人々から「鬼」と恐れられているが、実際は内気で気が弱い。

『信長を殺した男~本能寺の変 431年目の真実~』(漫画:藤堂裕、原案:明智憲三郎)

明智憲三郎の著作(『本能寺の変四二七年目の真実』『本能寺の変431年目の真実(文庫版)』)を下敷きとするコミカライズ。

第6話「彌介」(1巻収録)では、1話まるまる使って彌介(本作ではこの表記)の生涯をフィーチャーしている。信長主催の相撲会で優勝して士分に取り立てられた青地与右衛門と相撲を取って勝利するというエピソードを創作し、「十人力以上」と記された強力ぶりを演出している。

『信長のシェフ』(原作:西村ミツル、作画:梶川卓郎 ※13巻以降は梶川卓郎の単独名義)

戦国時代にタイムスリップした料理人ケンは、織田信長に料理頭として召し抱えられ、信長の事績を間近で目撃していく。2013年と2014年にテレビ朝日系列で実写ドラマ化(2シーズン)。

2021年4月15日に刊行された最新29巻では、ヴァリニャーノの従者として弥助が登場する。従来の作品とは異なり、弥助を「怪力無双の特別な存在」ではなく、あくまで「(奴隷にされた)普通の人」として描いているのが特徴的。

同時代に黒人従者はほかにも日本国内に存在したが、なぜ信長は素朴な若者である弥助を求めたのか。その理由が、当時の世界情勢や信長とヴァリニャーノの心理戦に紐づけられてエピソード化されている。

新鋭ラション・トーマスが史実からどのようなインスピレーションを得て、ニューヒーローを創造したのか。『Yasuke -ヤスケ-』での弥助像に注目したい。

漫画ジャーナリスト

1976年生まれ。フリーライターとして、漫画をはじめとするエンターテインメント系の記事を多数執筆。「このマンガがすごい!」(宝島社)のオトコ編など、漫画家へのインタビューを数多く担当。『「この世界の片隅に」こうの史代 片渕須直 対談集 さらにいくつもの映画のこと』(文藝春秋)執筆・編集。後藤邑子著『私は元気です 病める時も健やかなる時も腐る時もイキる時も泣いた時も病める時も。』(文藝春秋)構成。 シナリオライターとして『RANBU 三国志乱舞』(スクウェア・エニックス)ゲームシナリオおよび登場武将の設定担当。

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