【現地写真で見る】”恐怖の静けさ”。爆発的感染も非常事態宣言には至らなかった韓国・大邱はこんなだった
3月25日の小池百合子知事の発言から、注目される「都市封鎖(ロックダウン)」の言葉。
それが実行されるのかどうか。されるとしたらどの程度の制約になるのか。気を揉むところではないか。爆発的感染と定義できる状況まで「ギリギリ」なのだという。
実施の是非について正解を導き出すのなら、疫学・医学・経済学・金融・消費心理学などから解くべきだろう。筆者にその術はない。分からないのであれば取材すればいいのだが、そういった話はもう別の場所で十分に出尽くしたのではないか。
ここではひとつ、都市封鎖について考える別の事例を。
”都市封鎖なしで感染ピークを耐え抜いた街”
大邱(テグ)広域市。韓国第3の拠点都市の話だ。ときに日本の名古屋にも比せられる。
この街は2月16の宗教団体「新天地」での礼拝で集団感染が起きた。60代の女性信者が10日に発熱状態にありながら、検査を拒否。16日の礼拝に参加したのだ。19日以降にこれが判明すると、感染者が急増。2週間で韓国全体の感染者3526人のうち、じつに59.9%を占める2113人が大邱の同宗教関係者となった。21日に韓国政府は大邱市と周辺地域を「感染病特別管理地域」に指定し、また23日には感染症危機警報を最高段階の「深刻」段階に引き上げた。
この大邱について、2月25日頃から“都市封鎖”の噂が流れた。与党「共に民主党」の大邱関係者がにこう発言した。
「政府としては悩んでいるところだが、移動などに対して一定程度の行政力を行使することは検討中」
市民や野党から猛反発が起きた。「まずは中国全域からの入国を封鎖すべき」と。すぐに与党側は「封鎖があるとしても、それはあくまでコロナウィルスの封鎖というニュアンスだった」と修正する事態になった。
この3日後の2月29日、韓国を取材中だった筆者はソウルから現地に向かった。日本の週刊誌の取材のためだった。決断が必要だった。大邱(テグ)の名前はソウルにいても「近づくな」というイメージが伴った。個人的には原稿の締め切り、そして日本帰国後の処置を念頭に置かなければならなかった。まだ日本政府による感染症危険情報レベル2(不要不急の渡航自粛を勧告)の時だった。結果的には現地に行った翌日の3月1日には感染症危険情報がレベル3(渡航中止勧告)まで上がった。感染しないことへのできる限りの注意、そして日本での隔離の覚悟を決めて現地に向かった。
ソウルからKTXを使って現地に向かった。途中で身分照会や注意があるわけではない。やや拍子抜けだった。しかし着いてからのほうが”恐ろしかった”。
29日は土曜日だった。街の交通の拠点・KTX東大邱駅、地下鉄、ふだんは若者で溢れかえる中心街の東城路(トンソンノ)。そこに人がほとんどいなかった。一部のカフェなどは営業していたが、店もほとんど閉まっている。
とにかく、徹底されていた。人がいなかった。ゾッとするほどに。
しかしそれは今思えば「安全」だったのだ。
結局、大邱市は「都市封鎖」を行うことなく、一番の危機的状況をくぐり抜けた。4月2日の感染者数は6725人で前日比は21人。一方、完治・隔離解除者は413人だった。新規の感染者より、回復者のほうが増えたのだ。一時は「4月6日に小中高学校が再開」という話が出るまでにたどり着いた。
大邱市の行政側が「3月28日までの終息」を目指してキャンペーンを張った。辺真一氏のこちらの記事に詳細がある。韓国の大邱市はロックダウンにならなかったのになぜ東京が?東京と大邱の比較!
いっぽう、大邱市の団体職員(30代女性)はこんな話をしていた。
「職場では『ランチタイムには外食ではなく弁当を』という雰囲気になっています。食べる時、感染が生まれうるからという話になって。弁当をそれぞれの席で離れた状態で食べています。またマスクが不足した、という話が出ましたが、じつはあまり困らなかったんですよ。外出しなかったので」
では、なぜこういった動きが可能だったのか。
「政府と自治体の情報を信じたんですよ。確かに礼拝での集団感染は恐ろしかった。でも最初の患者がどんな経路で移動したか発表になり、消毒が行われた。ご本人とすれば好ましくない部分もあったでしょうが、市民の気持ちとすれば安心できました。その後も患者数がはっきりと数字で出てきて。怖さも伝わってきました。だから政府や自治体の『外出を控えよう』という話を守ろうと思ったんですよ。大邱は保守的な土地柄だから、言うことを守ったという面もあるのだと思いますが」(同)
今回の新型コロナに関する文在寅政権の対応には大いなる批判もある。世論調査の結果は、次の通りだった。聯合ニュース肯定的58.4%-否定的39.9%(以下同)、韓国日報49.0-50.2、医学系学会57.0-43.0、ソウル経済新聞53.0-47.0。およそ「半々より少し分がよい」という水準だ。
否定派の主張は「中国全域に対する入国禁止処置を出せなかった」「景気対策に不満」というものだ。前者に関しては韓国大統領官邸の公式サイト上のオンライン陳情システム「国民請願」で、「禁止せよ」に史上最多水準の76万人もの同意が出ているから、国民(保守・野党側)は激怒というレベルだ。
また評価された部分は「公表データの透明性」「初期対応に評価できる面もある」だが、これについても、過去の失敗が糧となり、首尾よく作用した点がある。
韓国は2015年のMERS(中東)発生の際、周辺国よりもこれを流行させてしまった。その際の失敗の源は「初期対応の未熟さ」。国内第一号感染者を「呼吸器系の疾患」とだけ診断してしまい、一般病棟に入院させた。結果周辺の入院患者と家族に感染してしまう事態が起きた。この時の反省と対応フォーマットがあった、という面もある。
ただし、賛成派も反対派も一つは確実に信頼できる対策があった。それは「できる限り患者数を正確に知らせる姿勢を見せるということ」という点だ。
何を結論としていいたいのかというと、大邱は都市封鎖なしに「ここの写真くらいやっていた」という点だ。そこには「政府の対策に反対もあったが、ひとつでも信じられることがあった」ということ。
もうひとつ、ここまでしても3月31日に再び市内の病院から集団感染が生まれてしまった。4月6日に予定されていた小中学校の再開も「リモート授業形式」に変更になった。徹底しても防ぎきれない。新型コロナが「感染力が強い」とされるゆえんだ。
東京が週末を迎える前に国外の「爆発的感染」が起きた街の状況を。日本の為政者がやる「マスク2枚」の意味はよく分からないが。3月最終週の”例の延期”の後、急に「危険」と言い始めた発表もよく分からない。しかしこのウィルスは感情を待ってはくれない――。
市内の様子を動画にて
※他媒体の取材により現地取材を行いました。3月5日の帰国便内にて「質問票」を記入。「新型コロナが発症している地域」に指定される大邱市に出向いたことを申し出ました。到着地の関西国際空港にてコロナ検査を受診。翌日に保健所より陰性の結果を電話で受け、2週間自主隔離した後に本稿を記しています。