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宮城県で水不足。気候変動で使えなくなる井戸?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
井戸を新設する様子(義高光さん提供)

宮城県の最南端にある丸森町。耕野地区は町の北西部に位置し、阿武隈川の左岸にあたる。この耕野地区は昨夏から水不足に苦しんでいる。ここに暮らす約230世帯のほとんどは井戸水や沢水を使って暮らしている。水道はない。全国の水道普及率は98%だが、2%(200万人超)は未普及地域に住んでおり、ここもその1つ。

耕野地区に暮らす人々は経験的に地下水の流れを知り、井戸を掘り、棚田や住宅をつくってきた。地下水の流れは、地層や岩石の性質により異なる。ここでは地表から1メートル程度は黒土に覆われ、その下に2〜3メートル程度の真砂土層(花崗岩が風化してできた砂状の土壌)が分布している。さらにその下には安山岩の砂利層がある。

井戸を掘る場合、取水口を砂利層に設置する。ここの井戸のほとんどが深さ3、4メートル程度の浅井戸だ。地下水というと降った雨が長い年月をかけて地下に浸透していくイメージがあるが、ここは真砂土層という水を浸透させやすい土壌に覆われているため、比較的浅いところに水の流れがある。それは直近の雨量の影響を受けやすいということでもある。

気象庁データより筆者作成
気象庁データより筆者作成


気象庁によると、町の2023年の降水量は865ミリで、平年値1298ミリ(1991年〜2020年)を下回った。今年になっても1月こそ平年以上の降水量だったが、2月以降は平年を下回っている。また冬場の雪が雨に変わっている影響もあるのではないかと考えられている。雪は地表に止まりゆっくり地下に浸透するからだ。

では、どうしたらよいか。水道を新設するのは難しい。山間部に集落が点在するため、水道管を敷設するとなると大規模工事となり、町も各個人も巨額の費用を負担しなければならない。

そこで同町の義高光さんは個人で井戸を新設した。そうした人に対し、丸森町は上限100万円の補助金を出している。


それでも掘削に慎重な住民は多い。井戸の新設には200万~300万円程度の費用がかかる。補助金だけでは賄うことができないし、掘削したからといって必ず水が出るという保証はない。

義高さんによると、「水不足に苦しむ住民の多くは水を融通し合っている」そうだが、なかには「最低限の飲み水だけしか確保できず洗濯や風呂をがまんしている」人もいるという。健康に影響が出る恐れがあり、何らかの対策が必要だ。

また、このケースは全国の浅井戸利用者にとっても他人事ではない。井戸は有効な水源で、能登半島地震の被災地でも住民が新たに手製の井戸を掘って活用するケースがあるが、気候変動で雨や雪の降り方が変わった場合、影響を受ける可能性があるかもしれない。降雨と地下水の関係を調査する必要があるだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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