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『にわかファン』を歓迎するラグビーの空気感から学べる事

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

■瞬間視聴率は49.1%

これは驚異的な数字だ!

ラグビー日本代表の試合が終わった…。しかし、今回のワールドカップを通じて、ラグビーの面白さを知った。そう、一気に誕生した『にわかファン』の一代表としてのオピニオンをここに記しておきたい。

今まで、ラグビーのテレビ中継を見ても、何をしているのかわからなかった。そして、ルールもわからなかった…。しかし、4年に一度、日本代表がどこまで行けるのか?ということでテレビを見ているうちに、完全に『にわかファン』になっていた。

真剣に1試合を見ているだけで、とても同じ人間とは思えない身体能力と、ポジションごとによる役割分担などが把握できるようになった。また、ペナルティには、毎回丁寧にルールが表示されるので、見ているうちにルールがなんとか理解できてきた。何よりも日本代表選手の名前とポジションがわかるようになった。

■テレビ中継を劇的に変えた『ケーブルカメラ』の魅力

かつてのラグビーの試合というとテレビで見てもなんだか、いつもごちゃごちゃしているだけでよくわからなかった…。さらに昔は、芝ではなく土で泥だらけになっているイメージしかなかったのでスマートにとても見えなかった。さらにルールもよくわからない。

ラグビーを素人や、にわかファンが見ても理解できるようになったのは、『ケーブルカメラ』の存在が大きいと思う。フィールド内を自由自在にワイヤーで移動し、スクラムやラインアウトもダイナミックによくわかるようになった。

また、練習などでもドローンなどを使って、全体的な俯瞰が可能になったという。

■ワールドカップやオリンピックはスポーツの祭典だけでなく、テクノロジーの進化の祭典でもある

GPSセンサー 出典:catapult
GPSセンサー 出典:catapult

https://www.catapultsports.com/jp/

今回のゲームをみていても、どの選手にもユニフォームの首もとの背中に『GPS』の四角いシルエットが見えたはずだ。これは選手の運動量を測定するウェアラブルデバイスが装着されていた。デバイスの進化とそれを許容するルールが選手の怪我も防いでいる。

□「デジタルブラジャー」とも言われるこの装具は、背中の部分にGPS(全地球測位システム)デバイスを固定するポケットが付いている。□GPSを含むGNSS(測位衛星システム)や加速度/角速度センサーなどを内蔵する背中のデバイスが、選手のパフォーマンスを計測する。

□取得するデータは、走行距離、走行スピードのほか、加速・減速、体の傾き、さらに地磁気センサーを搭載する場合は方向転換なども検出できる。

出典:GPSでケガ減らす デジタルブラジャー、サッカーで拡大

ラグビーのヘッドコーチは全体を見渡すために、フィールドではなく、観客席側で各選手の状況をPCを見ながら、トランシーバーで指示を送るという。選手の運動の状況を可視化されたデータで見て、交代のタイミングを見計らうのである。そして、その指示は、水を渡しに行く時などに伝言してもらうという…。テクノロジーがなかった時とはヘッドコーチの情報量は圧倒的に変化していることだろう。

しかし、ラグビーのフィールド場では、ヘッドコーチが主役ではなく、キャプテンの指示で選手の判断で展開されるというスポーツだということも学んだ。選手の自主的な判断で動いている組織プレーのスポーツなのだ。

なんとヘッドコーチが直接的に指示が出せるのはハーフタイムの時くらいだという。前半と後半でガラリとゲームプレイが変わるのもこの為だったのかもしれない…。あくまでも、ここは『にわかファン』の見解だ(笑)。

前半までのロッカールームの状況はとても対照的だったのに…。『にわかファン』は日本の勝ちを確信していた。

■ノーサイド効果は4400億円 ビールを切らすな!サッカーの6倍の消費量

□同一のスタジアムで試合をした場合、ラグビーの試合はサッカーの試合と比べ、平均でビールの消費量が6倍だと組織委は算出

□観戦チケットの3分の1は外国人が購入した。組織委の試算では、大会中に約40万人の外国人が訪れ、飲食など含め経済波及効果は約4400億円

□本番の大会では訪日客をもてなすためにも「絶対にビールを切らせてはいけない」と、ビール製造業者や卸業者、飲食店のオーナーも異口同音に意気込みを語る。

出典:ビールを切らすな、ラグビーW杯で臨戦態勢-桁違いの消費に対応へ

これは、景気の良い話でもある。飲食店は大量のビールを事前に仕入れる、ゲーム中にでもおかわりを頼める。ラグビーのサポーターができることは飲んで機運を上げることしかできないからだ。コンビニやスーパーでもビールの売り切れという異常事態が発生していた。

サッカーとちがって、ラグビーは小さなブレイクがいくつもあるのが特徴だ。ビールをオーダーするタイミングが多いのと、ゲーム中にビールがサーブされるのも許容される文化がすでにできている。スポーツバーにとっても、飲まないサポーターがテレビに釘付けになり、負けたチームはさっさと退散するのではなく、ノーサイドとして、敵味方、関係なく、一緒に飲むという文化がおもてなしニッポンのスタイルにもフィットしていると思う。むしろ、ビアサーバーをテーブルごとに設置しておき、QRコードで一杯づつ管理しながら、自由に飲ませるというスタイルがあっても良いだろう。するとオーダーしてから運ぶまでのタイムロスがなくなり売上は1.5倍はあがりそうだ。QRコードで『ビール決済』というキャンペーンもできたのかもしれない。

■『にわかファン』を歓迎するラグビーの空気感に学ぶ

試合を中継したNHKではラグビーの名実況でおなじみの豊原謙二郎アナウンサーは「プラスの意味で、(ラグビーの)にわかファンと呼ばれる人達が生まれた、これは大きなことですね」と、日本ラグビー界にとっての“収穫”を表現。元日本代表五郎丸歩も同調し、「そうですね。ファンもそうですが、ボランティアの方、地域の方、ラグビーに縁のなかった方達がラグビーに携わって盛り上がってくれたこと。本当に感謝したいと思います」と述べた。

https://www.daily.co.jp/general/rugbywc2019/2019/10/20/0012807194.shtml

『にわかファン』や『初心者ユーザー』を暖かく迎える土壌があるラグビーの世界は、スケールさせる苦労を何十年も知っていたからだろう。素人が簡単に口を出せない、玄人だけの世界ではもはや、話題にもあがりにくい。

チームで最大のチカラを出し切る…、最高のパフォーマンスで魅せる…。一人ではできないことをみんなでやり遂げる…。仲間を信じる…。

なにか、ラグビーには、現代社会やネット社会で欠けている多くのことを学ばせてくれるような気がする。

また、フィールド上の実質の主将はリーチ・マイケルだが、各ポジションのリーダーが10人もいるという。これも強い組織を作る為の戦略だった。観客席には敵味方関係なく座席が用意されている…。ラグビーには驚くべき文化がたくさんだ。

そして、すべてのメンバーが会見などで発する言葉は、すべてが『ポジティブ』な発言だった。勝つためには、すべて前向きの発想を日頃からこころがけているからだ。

今度は、スタジアムで敵味方が同じ観客席で、応援しながら一緒にビールを飲むという体験をしたくなった…。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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