イチロー所属のマーリンズを買った10倍で売却、「最悪オーナー」ロリアは「優秀なビジネスマン」でもある
メジャー30球団中最悪のオーナーと言われているマーリンズのジェフリー・ロリアが、球団を売却するようだ。買い手はニューヨークの不動産王とのことだが、その売却額が凄い。16億ドルというから約1800億円だ。2002年にロリアが同球団を買収した時の額が1億6000万ドルだから、10倍以上の価格で売り抜くことになる算段だ。もっとも、球団の売却はオーナー会議で75%以上の賛同を得られないと成立しない。買主は、資産のほとんどが不動産でキャッシュはあまり持っていない(と言っても相当な額だろうが)ため、他のオーナーは承認を渋るかもしれないし、嫌われ者のロリアを「邪魔してやれ」という心理が働くかもしれない。いや、逆に「とっとと承認して、さっさと出て行ってもらえ」となるかも知れない。
いずれにせよ、ロリアの評判はファンや関係者の間で最悪だ。したがって本件の報道は、内外とも「球界を食い物にした悪徳オーナーが、買った価格の10倍以上で売り付け、あぶく銭を得た」風の論調になりがちだ。しかし、「それはちょっと違うかナ」とぼくは思っている。
企業を買収し、価値を高めて売却し利益を得るというのは、アメリカのビジネス界では常識だ。レッドソックスのジョン・ヘンリーも同類だし、元合衆国大統領のジョージ・W・ブッシュも、ビジネスマン時代にレンジャーズでそれを実践している。いや、ロリアから経営難のエクスポズを1億2000万ドル買い取らされた(ように見えた)MLB機構ですら、2004年に約4倍の4億5000万ドルで現在のナショナルズオーナーに売却し、大きな利益を得ている。「今回の10倍に比べるとかわいいものじゃないか」という見方もあるが、MLB球団の資産価値がそれだけ高まったということだ。今回の買い手も押し売りを受けたわけではない。「それだけ出しても欲しい」と考えたから16億ドルに合意したのだ。
また、ロリアが「最悪のオーナー」と言う評判に対しても、ぼくは50%しか賛同できない。
「最悪」の根拠は、何度も選手を切り売りしファンを失望させたこと、主として公金で地元自治体に新球場を建てさせて球団の価値を高めておいて売却すること、MLBの収益配分制度の恩恵にしっかり浴していながら、その配分を補強資金に回さなかったことなどだ。
したがって、彼をベースボール・ガイとして見れば「とんでもないやつ」ということになるのだが、ビジネスマンとしての手腕はかなりのものと言えるだろう。
勝利を追及してビジネス拡大を図るのではなく、護送船団方式というMLBの運営形態をしっかり研究し、収入配分制度などを利用し確実に利益をあげるというビジネスモデルを確立したのも、彼の経営者としての既成概念に捉われない発想の斬新さを立証している。「最悪のオーナー」という意見には、50%しか賛同できないとしたのもそのためだ。彼のことを「ひどいやつ」とみんな言う。でも、「無能だ」という声は聞いたことがない。
そうそう。彼は、他の多くの純粋な?オーナーたちが、長年焦がれながらも手にできないワールドチャンピオン(03年)という業界スタンダードでの成功すら手にしたのだ。