「今にも餓死しそうだ」北朝鮮の栄誉軍人らが集団抗議
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は19日、金正恩総書記の命令により、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の奇襲発射訓練を18日に行ったと明らかにし、次のように述べて成果を誇った。
「不意に行われた大陸間弾道ミサイル発射訓練は、敵対勢力に対する致命的な核反撃能力を不敗のものに築くためのわが共和国戦略核武力の絶え間ない努力の実証である」
しかし、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以来とも言われる食糧不足の中、末端の兵士や元軍人らは、生き地獄のような飢えに苦しんでいる。
北朝鮮で栄誉軍人と呼ばれる傷痍軍人。軍勤務中の事故などで負傷し、障害を負った人のことを指すが、専用の職場に配属され、様々な福祉の恩恵を受けられるなど、非常に優遇されていた。
しかし、それは昔の話。福祉システムが崩壊してしまった今では、健常者同様に商売をして収入を得ることで生きながらえている。ところが、コロナ禍で市場の営業が制限されるなどして、それすらも難しくなった。そして、彼らは集団行動に乗り出した。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事が起きたのは今月初めのこと。朝鮮労働党安州(アンジュ)市委員会(市党)の信訴課に、栄誉軍人たちが詰めかけ、こう訴えた。
「今にも餓死しそうだ。生きていけるように食糧をくれ」
コロナ前には、グループを組み、商品を他地方へ運ぶ「タルリギ」という商売を営んでいた彼ら。北朝鮮では良い暮らしができる層に属していたようだ。ところが、極端なゼロコロナ政策で国境が封鎖され、商品が中国から入ってこなくなった。商品をかき集めたとしても、厳しい移動制限で輸送そのものができなくなってしまった。
貯金が底をつき、家を売って得たカネでなんとか生きてきたものの、それさえもなくなくなり、市党に押しかけたという次第だ。北朝鮮において、権力に物申すことは文字通り「命がけ」の行動と言える。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
彼らは信訴課の課長に、口々に訴えた。
「こんな苦しい時に、党以外に誰が助けてくれるのか」
「われわれが今まで党にコメをくれと物乞いしたことがあったか」
「国のために青春を捧げ障害者になった。そんなわれわれが餓死しそうなのにこの問題を解決してくれないのなら、われわれは死ねということか」
課長は「責任書記(市党のトップ)に報告して早急に対策を立てる」と答え、その場を収拾したものの、いくら待っても何の対策も示されず、しびれを切らした彼らは責任書記のもとに押しかけた。しかし、門前払いを食らってしまった。
中央は昨年、栄誉軍人、除隊軍官(退役将校)、戦争老兵(朝鮮戦争参戦者)を優遇せよとの指示を出し、本来は国がするべき彼らへのケアを地方に押し付けた。そんな余裕のない地方当局は、一般住民から金品を徴収して彼らに配布した。
そんな無責任さに栄誉軍人はもちろん、市民の間でも失望と怒りが広がりつつある。そのような世論を意識したのだろうか。当局は最近、反政府的言動を行った栄誉軍人に対して、極めて軽い処分を下した。下手に重罰を下すと、世論がさらに悪化し、不測の事態を招きかねないと恐れているのだろう。