2025年開設のボストン・ホロコースト博物館、93歳の生存者と永遠にリアルタイムで会話
「私の話を聞いた子供たちがホロコーストの記憶を次世代に伝えていってほしい」
2025年10月に米国のボストンに開設されるホロコースト博物館では、ホロコースト生存者がホログラムで登場して学生とリアルタイムに対話できるようにする。
チェコスロバキア出身で11歳から15歳までアウシュビッツ絶滅収容所などに収容されて地獄の収容所を3か所を転々とさせられながらも生き延びることができ、戦後は米国マイアミに住んでいる93歳のデビッド・シャクター氏がホログラムで登場してリアルタイムに会話できるようになる。
ホログラムなので生存者の死後も永遠に目の前にあたかも本人が登場してリアルタイムに話しかけてくるように会話をすることができ、ホロコースト時代の経験や記憶を後世に語り継いでいくことができる。
デビッド・シャクター氏はホログラムになって登場することについて「このホログラムを通じて、私のホロコースト時代の辛い経験や記憶を聞いた子供たちが、私の口の代わりになって、私たちの経験したホロコーストをさらに次世代に伝えていってほしいです。ホロコーストの記憶と経験を後世に伝えていくことが私の役割です」と語っている。
▼93歳のデビッド・シャクター氏がホログラムで登場することを伝える米国メディア
第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちも高齢化が進んでいき、その数も年々減少している。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。
現在、欧米ではそのようなホロコーストの記憶を語り継ぐために、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dやホログラムで表現。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。
あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるようで、質問に対してリアルタイムに答えられる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができる。
映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。南カリフォルニア大学ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組みを「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。ホロコースト生存者がホログラムや3Dで目の前に現れて、AIによってインタラクティブにホロコースト時代の体験について質問に答える仕組みだ。あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるように、質問に対してリアルタイムに答えられる。「ホロコースト時代をどう過ごしていたの?」などといった学生や見学者からの質問にホログラム化された生存者がリアルタイムに回答してくれる。アメリカや欧州のホロコースト博物館で導入されている。
ホロコースト生存者らをホログラムで表現し、永遠にホロコーストの経験を語っていってもらおうという取組みは欧米のホロコースト博物館で積極的に進んでいるが、製作コストも相当にかかる。1人の人を撮影して3Dとホログラムで表現するために250万ドル(約2億7000万円)かかる。南カリフォルニア大学のショア財団の財政面と技術面での支援があるから実現できている。
ロサンゼルスにあるスタジオで18台のカメラであらゆる角度からホロコースト生存者らを撮影する。撮影も1週間以上で1000問以上の質問が繰り返される。93歳のデビッド・シャクター氏も1000問の質問に丁寧に回答して録画されている。
そのためホロコーストの生存者の誰でもがホログラムで記憶をデジタル化することができるわけではなく、撮影にも相当な体力を要する。それでも、ホロコースト経験者の記憶と体験を未来に語り継いでいくために、欧米のユダヤ人らは積極的にホロコーストの記憶のデジタル化を進めようとしている。
▼「Dimensions in Testimony」の取り組み