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都議選の予測は大外れ なぜ都民ファーストの会がこれだけの追い上げをみせたのか

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
結局この都議選も小池百合子東京都知事を中心に動いた(写真:Motoo Naka/アフロ)

 長くて短い東京都議会議員選挙が終わりました。都議選は自民が第一党を獲得して勝利したものの、それを字面通り受け取る人は少ないでしょう。都民ファーストの会の最終盤の追い上げは多くのメディアの予測を外す結果となり、小池都知事の影響力の大きさを再認識する結果となりました。筆者も、その予測を外した一人ですが、この都議選でいったい何が起きてこういう結果となったのか、レビューをしていきたいと思います。

筆者も大きく外した「議席予測」

筆者が6月29日に配信した6月28日時点での情勢をもとに予測した議席、筆者作成
筆者が6月29日に配信した6月28日時点での情勢をもとに予測した議席、筆者作成

 筆者は、『東京都議会議員選挙・最新議席予測 現場からみた終盤情勢と衆院選への影響を考える』と題した記事を6月29日(火)にYahoo!ニュース個人に配信しました。具体的な議席を書いたことで多くの方に読んで頂いたことと思いますが、結果的には実際の議席と大きく異なる予測となったことは、まず素直に読者の皆様にお詫びをしなければなりません。

 これまで多くの「選挙予測記事」が事後の検証なく選挙が終わると忘れ去られていきました。筆者は、今回初めてレンジ(幅)を持たせない形での予測を行いましたが、結果としては大きく異なった数字となったことは読者の皆様に大変申し訳なく思っています。

 筆者がなぜこのような予測をし、そしてなぜこのような議席となったのかをきちんと検証することが反省でもあり、また責任でもあると思いますので、この点の予実分析をしっかりと考えていきたいと思います。

予測のロジックはどういうものだったのか

 現場感覚としては、確かに小池都知事の入院(22日)から都議選全体に不穏な空気があったことは事実ではありましたが、この時点で小池百合子東京都知事が最終日に各陣営に応援に入るようなことは想定されていませんでした。公務復帰まではあっても、都民ファーストの会とは一定の距離を置くのでは、という見方が大勢だったと思います。

 告示後最初の土日(26〜27日)では、態度未決定層はまだ一定数残っていました。筆者もこの時点での情勢をもとに記事を書いていますが、同様に予想をした選挙プランナーの三浦博史氏の予想(スポーツ報知)や、毎日新聞の調査報道は下記の通りで、いずれも同様の傾向を指し示しています。

図は三浦博史氏(スポーツ報知)、毎日新聞の予測ならびに最終獲得議席をもとに筆者が作成
図は三浦博史氏(スポーツ報知)、毎日新聞の予測ならびに最終獲得議席をもとに筆者が作成

 私の予測は、マクロではなくミクロでの視点、即ち各選挙区すべてで候補者すべてに当落をつけていました。筆者が主に都民ファーストの会で当選すると考えていた12議席というのは、そもそも2017年以前も都議を経験していた候補者や、この4年間も相応に地元活動を行っていた候補者が中心です。今その資料を読み返しながら、「この選挙区は僅差で都民ファーストの会が厳しい」と思われたところを、すべて都民ファーストの会有利として丸を付け直し(ここで丸を付け直せるのは、例えば千代田や北多摩第一、練馬など)ても、やはり20議席前後にしかなりません。

 特に毎日新聞とTBSテレビ、社会調査研究センターが共同で実施した調査は、「都内在住者から無作為に抽出した対象者にメールで協力を依頼し、2万1000人」をサンプルとしており、(選挙区別とは明記されていないものの)29日から1日にかけて配信された情勢分析記事とあわせても、その時点で最も精度の高いものだったと言えるでしょう。毎日新聞は予測としてはレンジ(幅)を持たせたものでしたが、その後の情勢分析記事は各区詳報をしており、この詳報を記事文から順当に読み取っていけば、「都民ファーストの会17、自民49、公明17、共産21、立民18、維新1、ネット2」という状況でした。また、図表には含めませんでしたが、22日の時点では政治ジャーナリストの角谷浩一氏が「都民ファは10議席を割る可能性まであり、非常に厳しい。自民が50議席前後、公明は現有23から18議席ぐらいまで下げるかも。立憲民主党(立民)は現有8から25議席ぐらいまで獲得し、共産は現有18から22議席の躍進」(日刊スポーツ)との予測コメントも出しています。

 従ってこれらの情報から、少なくとも都民ファーストの会と自民党の差は、26・27日の土日の時点ではまだ実際の獲得議席ほどの差には詰まっておらず、少なくとも15〜20議席程度の差は開いていたとみるべきです。

ラスト1週間で何があったのか、都ファ追い上げの3つの理由

 では、26〜27日の土日から今日に至るまで、いったい何があったのでしょうか。大きな理由は3つあったと思います。

小池都知事のメディア対策は、実に戦略的だった
小池都知事のメディア対策は、実に戦略的だった写真:Motoo Naka/アフロ

小池劇場の再来

 まず一つ目は、「小池劇場」の選挙再来です。小池都知事は6月30日に退院をして「テレワーク」で働くと表明をしましたが、7月2日には急遽記者会見を都庁で開き、「倒れても本望」というパワーワードを残しました。都知事退院や記者会見での「倒れても本望」の発言はテレビや新聞でも大きく取り上げられ、事実上メディア・ジャックの状態だったと言えます。

 さらに最終日の3日には小池都知事による各事務所への応援がありました。小池都知事はマイクこそ握らなかったものの、この1日で少なくとも約16選挙区(18候補)を回っており、そのほとんどの選挙区は「激戦選挙区」でした。最終日1日だけということで効率と効果を判断した上で選定した選挙区だったと思われますが、実にこの小池都知事が回った選挙区のほとんどで候補者が当選したことは、注目をせざるを得ません。小池都知事が訪問したのはあくまで候補者事務所であり、直接的に小池都知事を目にした有権者の数は少なく効果は限定的との見方もありましたが、この様子はネットなどでも拡散されたほか最終日にもかかわらずネットを中心にニュース配信もされたことから、都議選における都民ファーストの会ならびに小池都知事を中心としたメディア・ジャックの露出が最終日まで続いたことは大きな要因でしょう。

強烈なアンダードッグ効果

 二つ目は、「強烈なアンダードッグ効果」です。選挙では「バンドワゴン効果」と「アンダードッグ効果」という2つの効果があると言われており、いわゆる勝ち馬効果と呼ばれるものが「バンドワゴン効果」で、判官贔屓と呼ばれるものが「アンダードッグ効果」です。

 筆者は、(「小池都知事が仮病ではないか」といった指摘や観測がネットでも出回っていましたが、)小池都知事の体調不良は紛れもない事実で、また実際にかなり厳しい体調だったと推察しています。その様子と都民ファーストの会で伝えられていた苦戦が「苦境」という意味で重なり、かつ「自民党が大きく有利」という報道がなされたことが、「自民党は大丈夫だろうから私の一票は厳しい都民ファーストの会のために」というアンダードッグ効果が働いたことは間違いない事実です。前回都民ファーストの会が大勝したことが、有権者の多くに都民ファーストの会の候補者の名前を書いてもらっていたという「財産」となっており、ここでそれがトリガーとなって、票として効果を発揮したとも言えます。

 朝日新聞によれば、国政政党で自民党を支持すると答えた人のうち、都議選での投票先は自民党70%、都民ファーストの会12%(2017年都議選では自民党67%、都民ファーストの会17%)でした。一方、国政政党で無党派層と呼ばれる人の都議選での投票先は自民党15%、都民ファーストの会25%(2017年都議選では自民党13%、都民ファーストの会35%)でした。この数字からも、国政政党で従来から自民党を支持している人たちには影響は少なかったものの、無党派層を中心に本来ならなんとなく自民党に入れるような層が、一気に都民ファーストの会に流れたことを示唆しています。

女性に焦点を

 三つ目は「女性」というキーワードです。都議選に限らずほぼすべての選挙において、男性が女性よりも先に投票先候補者を決定する傾向にあります。すなわち選挙期間中に情勢調査をすれば、ほぼすべての調査で「投票先をまだ決めていない」と答える割合は男性より女性の方が多くなります。特に最終盤は政策や実績よりも人柄や同情などで投票先を決める傾向が多く、この点、女性をターゲットに絞った選挙戦が最終3日間は展開されたとみるべきです。

 特に女性候補者に対する追い風は猛烈なもので、都民ファーストの会が候補者を複数擁立した選挙区のうち、「男性」と「女性」とを擁立した地域では、女性が当選を決め、大差で男性が落選というケース(世田谷、杉並、足立)が目立ちました。結果的に女性候補は41人(共産14人、都民ファーストの会12人、自民と立憲民主が各4人など)が当選し、過去最多を更新したことは画期的なことだと思います。

 これらの三つの要因が重なり、特に選挙戦終盤で小池都知事が退院した30日以降、急速に都民ファーストの会には追い風が吹いたと言えるでしょう。自民党からすれば、選挙戦前半に麻生財務大臣の「自分で撒いた種」発言があったことから、小池都知事による都知事記者会見での「ご承知のように都民ファの特別顧問をしているので、当然頑張ってもらいたい」という政治発言や、その翌日の直接応援を真っ向批判することは難しい状況になっていました。(自民党からすれば、それこそまさに「自分で撒いた種」とも言えます)。この30日から3日までの小池劇場を自民党をはじめ他党候補者が黙って見ているしかできなかったことこそが、最終的な都民ファーストの会の追い上げにつながり、私の議席予測を大きく外す結果となったと言えます。

自民や立憲・共産が想定よりも伸びなかった理由

新宿選挙区は自民党・立憲民主党がそれぞれ落選者を出してしまった
新宿選挙区は自民党・立憲民主党がそれぞれ落選者を出してしまった写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

 一方、自民党は候補者擁立の戦略に失敗がありました。少なくとも複数候補を擁立して失敗した目黒、大田、品川の3議席は本来確実に1議席とれたところで、積極的な候補者擁立策が裏目に出たことは明らかです。目黒では、自民公認候補の1人が「自民党目黒唯一の候補者」と記載されたポスターや選挙公報を展開し、波紋を広げました。党内内部での公認過程での争いが選挙戦で有権者全体にまで展開されたことは、少なからず有権者にとっても動揺が走り、投票忌避に繋がった可能性もあるとみています。複数人の擁立をするのであれば確実な票割りを行う必要がありますが、公明党などと異なり「地区割」や「支援団体の割り振り」での票割りが限界の自民党は、当落ラインの設定を間違えれば、このように共倒れになるということが再度明らかになった選挙でした。

 野党側はどうでしょうか。立憲民主党や共産党はいずれも議席を増やしました。定数の少ない選挙区においてはいずれかの政党が候補者擁立を断念し「野党共闘」としたことで確実な議席獲得をすることができたのが、大きな成果といえます。文京区では共産党候補が1位を獲得したほか、衆院選で注目されている東京18区の武蔵野市・小金井市はいずれも野党共闘が成功した例と言えるでしょう。ただ、野党共闘は成功とはいえ「不完全」だったのも事実です。港、西東京、南多摩などではいずれも片方の候補者は現職か元職で、片方が新人という構図でしたが、野党共闘が成立せずに共倒れとなりました。各選挙区でいずれかの候補者に統一していれば、少なくとも3議席は上積みできたでしょう。

 筆者の予測は、この3つの点について、影響を過小評価していたと言わざるを得ません。アンダードッグ効果は複数人定数区では規模の大小はあれどほぼ必ず起きる現象ですので無視してはいけないものですが、これほど強烈な効果として出てくるとは思ってもいませんでした。筆者の予測が外れた理由は、ひとえに小池劇場の想定外とその過小評価に尽きます。

都政や衆院選はどうなるのか

 まず注目は都政運営です。都議会第一党は自民党が獲りましたが、わずか2議席の差です。都民ファーストの会としては無所属で当選した議員を中心に議席工作を行う可能性が高く、この選挙結果がそのまま都議会会派の数字になるとは限りません。議長ポストの獲得に向けた動きが活発化することは間違いない情勢です。コロナ第5波が現実的となり、東京五輪が間近に迫る中での都政情勢にも注目です。

 国政はどうでしょうか。衆院選は今年秋に必ずあります。自民党としては、これだけ最終盤に都民ファーストの会に追い上げられたことで、脆さを露呈したことは不安材料になっています。また公明党も最終的には全議席を死守することに成功しましたが、確実に票は減っており、1000票以内の激戦選挙区も出るなど薄氷の勝利でした。衆院選に向けて戦略を練り直す必要があることから、衆院選そのものが(10月以降など)遅くなるとの観測もあります。先述の選挙プランナー三浦博史氏は昨日も首相官邸で菅首相に面会をしていますが、都議選や衆院選に向けた意見交換が行われたことでしょう。

 国政選挙である衆院選には小池都知事はいません。4年前こそ都民ファーストの会の大勝の後に「希望の党」の立ち上げから「排除」発言までの一連の流れで、選挙情勢が目まぐるしく変わったことは4年前といえ記憶に新しいところです。小池都知事の国政進出も噂されていますが、現在の体調や前回の経験からも、この衆院選で小池都知事が中心になることは無いと思われます。ただ、この都議選でも「寝技の小池」らしく最終盤まで寝たまま動かないと思われたところからの巻き返しだったことを踏まえれば、何をしてくるかわからないという意味ではジョーカー的存在であることもまた、事実でしょう。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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