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コロナ時代にキャリアをどう作るか【森本千賀子×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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コロナ禍の企業業績の悪化によって、出向、転籍、希望退職者募集などでリストラ圧力を高める企業が増えることが予想されています。転職エージェントの森本千賀子さんの元にも、そんな相談が相次いでいるそうです。日本において、出向は出世競争に敗れた人の左遷先というネガティブなイメージもあります。しかし、森本さんは相談した方々に「出向の機会があったら喜んでいくように」と伝えています。その理由は何でしょうか。

<ポイント>

・偶発的な出来事を人生のプラスに変えていく

・1日24時間の1%を自分へ投資する

・強いものが勝つのではなく、変化に適応したものが勝ち残る

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■未来は予測できない

倉重:キャリア形成の相談も受けられていますよね。もともと「不確実な時代」と言われていましたけれども、さらにコロナで混乱している状況です。今後のキャリアに対して、働く人はどう考えていけばいいでしょうか。

森本:未来が予測できないことは間違いありません。

倉重:「コロナが来る」なんて、誰一人予測していませんでしたからね。

森本:そうです。誰一人、このような時代がくるなんて予想していませんでした。私は3月下旬でも「何とかなる」と思っていたのです。本当に未来の予測はできません。あと今回のコロナによってITやDXの波が加速すると思っています。

倉重:今まで遅れに遅れていたものが。

森本:2016年には「10~20年の間に、日本の労働人口の約49%がAIやロボットに代替居させる可能性がある」と野村総研社とイギリス オックスフォード大学の共同研究で発表されました。コロナでもっと前倒しになるかもしれません。先日お客様と話していたのですが、どの組織や企業でも必ず発生する業務だそうですが、人が完遂させようとすると平均で約200時間ぐらいかかるその業務が、その会社のAIを活用したプロダクトを使うと、わずか15秒程度でできてしまうそうです。そんな時代が来ています。

私の仕事もAIに取って代わられる可能性があります。「Hey Siri、私はどこの会社に転職したらいい?」と聞いたら、「A社とB社とC社です」と答える世界が来るかもしれません。そのとき、その業務にしがみつくのではなく、他の仕事の選択肢を自分の中にきちんと持っていて、スッと切り替えられるようなマインドセットが大事だと思います。

倉重:そうですね。誰でもできる仕事や事務作業系は、どんどんRPAやAIに代えられると思います。弁護士業務でも、とても簡単な裁判は弁護士も裁判官も要らなくなるでしょう。一方で未知のケースや、あるいは「倉重さんにお願いしたい」というケースはなくならないと思っています。

森本:おそらく、「倉重さんにお願いしたい」というのは何なのかということですよね。その付加価値をきちんと意識して、自分の中で磨いておくことが大事だと思います。

倉重:「仕事を奪われる」と考えるより、AIで省力化した分、「人にしかできない部分」にどう集中するかですよね。

森本:そうです。むしろ、自分ではなくてもできることは、どんどんそういったツールを使って効率化させていくべきだと思います。morichという会社はまだ少人数なのですけれども、無駄なことに時間を割きたくないので、業務的にはとことんDXを進めています。

倉重:モリチさん自身も、Zoomも含めて、いろいろなツールをキャッチアップして使いこなしています。その好奇心はすごく大事ですよね。

森本:とりあえずやってから、取捨選択やアジャストをしていけばいいと思います。目の前にきた機会を吟味して「やらない」ということではなく、取りあえずやってみることが大事です。

■学生のうちに遠回りしてでもやるべきこと

倉重:視聴者の方から質問をいただいていますので、読んでみたいと思います。「モリチさんが今大学生なら、卒業後の進路はどうしますか。起業や就職するならどのような業界とか、今学生でしたらどう考えるかを教えていただけますか」とのことです。

森本:学生には遠回りしてでも海外に行ってほしいですね。

倉重:どうしてそう思うのですか?

森本:留学を経験した方々は、価値観がすごく柔軟だったり、視野が広い方が多いです。これからどんどん加速度的に、語学が当たり前のツールになっていきます。私もそうでしたが、いざ就職してしまうと、そこの職場を離職してまで留学することにものすごくストレスが掛かります。今でも「大学の延長線で留学しておけばよかった」と本当に後悔しています。文化や生活習慣、価値観の違いがある人たちとの接点を持っておきたかったです。私の場合は日本人とのネットワーキングしかないので、「人生もったいないことをしているのではないか」と感じます。

倉重:今はコロナという世界共通ワードがありますから。

森本:そうなのです。世界の方々とつながって、コミュニケーションを取って、議論することができたら、もっと自分の中の引き出しが増えたり、頭が柔らかくなったりして、違う発想が出てきたのではないかと思います。

倉重:何歳になってからでもできますから。

森本:はい。次男のケンケンが小6なので、中学へ行ったら本気で留学に向けた準備をスタートさせようと思っています。

Never too late、いつからでも遅すぎることはない、“思い立った時が吉日”です。ある意味遠回りしてでもそういう経験値を積んでおきたいと私は思っています。

倉重:この対談常連の豊田圭一さんも、50歳を過ぎてから留学されています。

森本:そうです。私が人材紹介ビジネスを選んだのも偶然のようなものです。たまたま大学の図書館で一冊の本を読んで人材紹介というサービスがあることを知り、リクルートの子会社へ行き着きました。その本に出合っていなければ職業選択も違っていたはずです。スタンフォード大学のクランボルツ教授が「計画的偶発性理論」というものを提唱しました。キャリア(人生)の約8割は偶発的な出来事の結果であると。アップル社の創業者のスティーブ・ジョブズ氏も“Connecting the Dots”・・・点と点がつながり線になり未来につながると・・。本当に偶然の連続が今につながっていると実感しています。大学生に言えることがあるとしたら、目の前の機会をどうか大事にしてほしいということです。

倉重:偶発性は行動しないと生まれません。今でも外出制限がいろいろとありますが、買い物へ行けば新たな食材との出合いがあります。ネット注文だと偶然はありません。本屋さんもたまにはリアル書店に行くようにしています。

森本:スタンフォード大学のクランボルツ先生は、計画的偶発性理論について、「偶発的な出来事を人生にとってプラスに変えていくことが大事」と。プラスに変えるための5つのコンピテンシーを持っておくと、偶発的な出来事を自分のプラスに変えていくことができるのです。

倉重:積極的偶発性というものですね。

森本:はい。この5つが大事です。まず一つは好奇心。これは私も倉重さんも持っていると思います。次は継続性。「努力を継続していく」ということです。それからもう一つは、あまり強いこだわりを持ち過ぎない柔軟性。それから究極は何とかなる。「自分のチャレンジは必ず成功する」と思える楽観性です。最後が冒険心。

倉重:ちょっとした冒険、一歩踏み出す勇気ですね。

森本:未来は不確実ですが、リスクをとってでもチャレンジすることが大事です。この5つは私自身も大事にしてきたことです。

倉重:これはどうやって鍛えたらいいのでしょうか。

森本:ポジティブなマインドセットは、トレーニングで鍛えることができると思っています。

倉重:モリチさんは生まれつきではないのですか?

森本:生まれつきその傾向はあったと思います。祖母がまさに私のトレーナーでした。幼少期よりポジティブ思考の家庭の中で育った環境は大きいと思います。

更に、入社3~4年目ぐらいのときにある研修を受けました。そこで今言ったような理論を私の中でキャッチアップしたのですが、祖母が常に言っていたこととまさにシンクロしました。

倉重:おばあさまは何と言っていたのですか。

森本:「自分自身がなりたい姿をイメージして言語化しなさい」「それをずっと唱えなさい」と言っていました。イメージを潜在意識、つまり脳幹に刷り込んでいくためです。ポジティブマインドというのは結局刷り込み作業なのです。過去の経験の積み重ねが、今の自分の価値観やマインドセットにつながっています。過去自体を変えることはできませんが、意識を変えることができます。脳の奥にある脳幹に響かせて、思考や考え方・捉え方、マインドセット自体を刷りかえる必要性があるのです。

倉重:脳に刷り込むと。

森本:そうです。例えば「私は常に幸せだ」「みんなから愛されている」「感謝の気持ちでいっぱい」「私はいつも健康だ」など、自分が幸せだと思う状態を言語化して毎日唱えて、刷り込んでいます。その刷り込み作業を26歳ぐらいから今もなおずっとやってきました。

倉重:私も20歳ぐらいからしていました。例えば受験生時代であれば、「司法試験に受かった」とイメージして、過去形で唱えるのがポイントです。

森本:もう一つ付け加えると、寝る前が大事です。私は「1日24時間の1%を自分への投資時間」と決めています。1日の1%は15分です。その15分に、一日の中で楽しかったり、震えるほどに感動したり、泣きそうなぐらいうれしかったり、ポジティブな気持ちになった瞬間やワクワク体験を思いだしながら寝るようにしています。そうするとオキシトシンという幸せホルモンの分泌が普通に寝るときの何倍にもなるらしいのです。朝の目覚めも全然違います。日本人は「ああすればよかった」などと反省しながら寝る人が多いのですけれども。

倉重:そうするとダメな自分が定着してしまいますね。

森本:そうです。できるだけポジティブな気持ちで眠りにつくといいのです。

倉重:素晴らしいです。うちも最近娘に「できたことノート」を寝る前に書かせています。できたことを3つ書かせて寝るだけですが、叱られてばっかりだと悪いイメージが定着してしまって自信を失ってしまいますからね。

森本:私も、息子と一緒に寝ているときは、「今日一日で何かうれしいことあった?」という話を聞きながら寝るようにしていました。そうすると、寝ている間の幸せホルモンの分泌量が加速するのです。

■自ら変化を作り出す

倉重:そろそろ本題の変化対応力の話に入っていきたいと思います。先のことを予測しても仕方がないというお話が先ほどありましたが、変化に対して臨機応変に対応していくということですか。

森本:むしろ変化を自分でつくり出すということです。部署を異動する、職種を変える、管理職になる、地方転勤、海外赴任する。それから最近は会社の中で組織横断のプロジェクトがあるので、手を挙げて参加する。常に一緒にいる人の顔ぶれを変えるということでも良いのです。今はリモートワークでも、出社日があったとしたら、通勤経路を変えみるとか。

倉重:通勤経路を変えるのですか?

森本:人間は同じことを繰り返すほうが安心なのです。そのコンフォートゾーンを広げていくといいますか。通勤経路を変えたり、いつもなら選ばないような洋服を選んでみたり、お昼のメニューを見たときに少しチャレンジしたりするのです。いつもなら絶対に話し掛けないような同僚と話したり、絶対に読まないと思うような本やDVDを見たりすることもおすすめです。

倉重:最初はその程度のことでいいのですね。

森本:そういうことなのです。私は本屋さんへ月に1回行くようにしています。どうしても好きなコーナーへ直行してしまいがちなのですが、本屋さんの上から下の階までばーっと行ってみると、目に飛び込んでくるテーマが新鮮に映ります。「少し買ってみようか」と思ったりするのです。

倉重:Amazonで買い物しますと、自分が知っているジャンルばかり見てしまったり、AIにおすすめされたりしてしまいます。やはり偶然の出合いというのは、リアルの本屋さんにあるのですか。

森本:そうです。テーマが目に飛び込んでくるということは、気になっているということですから。そういう普段はしない行動を意識的にしてみることが大事だと思います。

倉重:モリチさんは以前のプレゼンでも、「強いものが勝つのではなく、変化に適応したものが勝ち残る」とおっしゃっていました。

森本:そうです。強いものや賢いものが残るのではありません。チャールズ・ダーウィンの進化論です。

倉重:まさに今求められている能力だと思います。変化対応力を高める方法はありますか?

森本:やはり変化の機会をどれだけ自分の中でつくり出せるかということです。あとは、先ほど言ったコンフォートゾーンをあえて飛び出すこと。「心地いい」と思ったら、成長が止まっているという話なので、危険信号です。

倉重:今モリチさんもリラックスされていますね。

森本:これは危ないですね。一定の緊張感がやはり必要なのです。年がら年中緊張している必要はありませんが、そういう機会を持つことはとても大事だと思います。

倉重:それは自分で意識してみようということですよね。

森本:例えばキャリアビジョンも、多くの方は、今まで経験してきたことの延長線でいこうとします。これまでの経験を再現することにリスクはありませんが、同じことを繰り返しているだけでは成長に繋がりません。成長カーブをぐっと上げるためには、非連続に変化を求める必要があります。

倉重:それは必ずしも転職という形に限られないですよね。

森本:そうです。最近私が言っていることを表現してくれている作品がありました。『半沢直樹』です。みんなに「出向の機会があったら喜んで行きなさい」と言っています。

倉重:出向は環境がとても変わりますからね。

森本:特に日本の出向は、会社の規模が少し小さくなったり、使える予算が限られたり、優秀な人が本社にいて、出向先には本社より能力が劣る社員が多いというネガティブなイメージを持つ方がいます。けれども、そういう環境で腐るのではなく、いかに価値を出せるかという動きが重要になります。

「リクルートの人は優秀だ」と言われますし、実際すごくモチベーションも高い社員が多い組織です。しかし彼らをマネジメントすることはそんなに難しくありません。モチベーションが高い人たちは、「この方向に向かう」というビジョンさえ示せば、みんな勝手に走ってくれるからです。彼らのインセンティブになるようなニンジンをぶら下げたり、場合によっては、すぐ横について伴走しながらペースアップしたりダウンしたりと、ケアしなくても自走してくれます。

ところが、そうではない組織、どこにモチベーションのスイッチがあるのか見えないようなメンバーたちの組織マネジメントは、とても骨が折れます。

倉重:モチベーションが低下している人に一回出向に出てもらって、違う見方を身につけて戻ってきてもらうのもありですよね。

森本:腐らずにやる気スイッチを見つけてあげて、その組織を活性化し直すことは、ものすごい経験値になります。

倉重:これは偶然ですけれども、私も同じことができないかと考えていました。出向はどの範囲でできるか、法律的に不明確な部分があるのです。銀行などは取引先が多いですから人事交流もできますが、小さい会社が出向させられる場所は多くありません。それを法律改正したり、厚生労働省が認可したりする形で自由化して、リクルートなどが仲介すれば、出向がとても増えると思います。転職と違って雇用元の社員という立場を失わずに違う仕事ができるので最高ですよね。そういう「レンタル移籍制度」を作りたいと思います。

森本:とてもアグリーです。

倉重:いろいろなところに働き掛けています。ベンチャー企業で始めている会社があるのですが、適法かどうかが微妙なのです。ぜひ厚労省がお墨付きを与えてほしいと思っています。

森本:それはぜひ実現してほしいです。

(つづく)

対談協力:森本千賀子(もりもと ちかこ)

1970年生まれ。獨協大学外国語学部英語学科卒。

1993年リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。転職エージェントとして、大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援サポート全般を手がけ、主に経営幹部・管理職クラスを求めるさまざまな企業ニーズに応じて人材コーディネートに携わる。約3万名超の転職希望者と接点を持ち、約2000名超の転職に携わる。

約1000名を超える経営者のよき相談役として公私を通じてリレーションを深める。累計売上実績は歴代トップ。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、全社MVP/グッドプラクティス賞/新規事業提案優秀賞など受賞歴は30回超。

プライベートでは家族との時間を大事にする「妻」「母」の顔 も持ち、「ビジネスパーソン」としての充実も含め“トライアングルハッピー=パラレルキャリア”を大事にする。

2017年3月には株式会社morich設立、代表取締役として就任。

転職・中途採用支援ではカバーしきれない企業の課題解決に向けたソリューションを提案し、エグゼクティブ層の採用支援、外部パートナー企業とのアライアンス推進などのミッションを遂行し、活動領域も広げている。

また、ソーシャルインベストメントパートナーズ(SIP)理事、放課後NPOアフタースクール理事、その他社外取締役や顧問など「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現。

3rd Placeとして外部ミッションにも積極的に推進するなど、多方面に活躍の場を広げている。

本業(転職エージェント)を軸にオールラウンダーエージェントとしてTV、雑誌、新聞など各メディアを賑わしその傍ら全国の経営者や人事、自治体、教育機関など講演・セミナーで日々登壇している現代のスーパーウーマン。現在、2男の母。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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