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円安メリットを活かせるか 中小企業の「越境EC」に注目

山口健太ITジャーナリスト
米国アマゾンの「JAPAN STORE」(Webサイトより、筆者撮影)

10月15日、岸田首相が「円安メリットを活かす企業を支援する」と語ったことが報じられ、トレンド入りするなど話題になっています。その分野の1つとして注目されるのが、Eコマースで日本の商品を海外に販売する「越境EC」です。

eBayやアマゾンが越境ECを支援

岸田首相の発言は、10月3日の所信表明演説で語った「円安メリットを活かした経済構造の強靱(きょうじん)化を進める」を踏まえたものと思われます。

これを受け、Twitterでは「円安メリット」がトレンド入りしました。その中には「円安に苦しむ会社も支援してほしい」といった反応が多いのですが、文脈としては「工場の国内回帰」や「輸出拡大」を狙ったものといえそうです。

日本の商品を海外に販売する場合、急激な円安によって日本の商品は大幅に安く見えていることになります。海外に販売拠点がない中小企業でも、越境ECを使えばこの円安メリットを活かせる可能性があるわけです。

米国の大手ECサイト「eBay」は、日本からの越境ECについて、2022年4-6月期には円安の影響で高額商品の売上が拡大し、腕時計、ブランドバッグ、カメラなどが伸びているといいます。

eBayの日本法人は日本からの越境ECを支援しており、10月からは新規登録した販売者向けに手数料無料のキャンペーンを実施しています。

世界各国にECサイトを展開するアマゾンも越境ECに注目しており、10月12・13日に開催した「Amazon ECサミット 2022」においても、テーマの1つになっています。

アマゾンジャパンとJETRO(日本貿易振興機構)は共同で、日本の事業者が米国のAmazon.comで商品を販売できる「JAPAN STOREプログラム」を展開しています。

越境ECが大きく伸びるきっかけになったのが、コロナ禍です。海外との行き来が困難になったことで、2021年に海外向けにECを活用する日本企業の割合は42.1%に急増したといいます。

コロナ禍で越境ECを活用する日本企業が急増(アマゾンのイベント動画より)
コロナ禍で越境ECを活用する日本企業が急増(アマゾンのイベント動画より)

米国のEC市場は5年で倍増するペースでまだ伸び続けています。その成長市場において、個人向けや法人向けに商品を販売していくのがJAPAN STOREの狙いとしています。

これまでの状況について、JETROは「2021年11月のローンチ後、日本の多くの中堅・中小企業が参加している。6割が地方企業であり、日本各地から北米市場にダイレクトに挑戦している」(JETRO 理事の曽根一朗氏)と語っています。

実際にAmazon.comのページを見てみると、KitchenやHome、Grocery、Fashionといったカテゴリーがあり、日本のお茶やお菓子、食器などが並んでいます。アマゾンで売られているほかの商品と同じように買い物できるようです。

米アマゾンのサイト内に設けられた「JAPAN STORE」(Webサイトより)
米アマゾンのサイト内に設けられた「JAPAN STORE」(Webサイトより)

日本のお菓子やお茶などの商品が並んでいる(Webサイトより)
日本のお菓子やお茶などの商品が並んでいる(Webサイトより)

とはいえ、日本から米国向けに商品を売ることは容易ではありません。言語や税関、物流といった点だけでなく、さまざまなハードルがあるようです。

たとえば、JAPAN STOREに参加したヘッドフォンカバー「mimimamo」の会社は、米国では「抗菌加工」といった表示に法規制があることが分かり、JETROに専門機関を紹介してもらうことで対応したといいます。

今後の展開として、アマゾンとJETROはJAPAN STOREを英国とオーストラリアに拡大することを発表。英語圏で所得水準が高く、ビジネスインフラも整っていることから有望な市場とみているようです。

急すぎる円安の是正効果にも期待

1ドル=148円を超える円安により、商品やサービスの値上げなどが続いていますが、これは日本に埋もれている優れた商品を世界に販売する、またとないチャンスといえます。

ただ、実際に海外に進出するには多くのハードルがあり、円安メリットを活かせるはずなのに活かせていない中小企業がまだまだ存在していると考えられることから、支援が重要といえそうです。

急すぎる円安を是正する効果としても、外貨を稼ぐビジネスには期待したいところです。訪日客の入国解禁によるインバウンド需要とともに、越境ECの盛り上がりにも注目です。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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