Yahoo!ニュース

ハリケーン「イアン」フロリダ上陸へ とりわけ恐れられる理由

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
ハリケーン・イアンによる雨 (レーダー出典: NWS)

数か月前、アメリカの気象局は警告しました。

「今年、大西洋では、例年より多くのハリケーンが発生するだろう」

しかしこの夏、大西洋は非常に穏やかで、8月などは、ただの1つも熱帯低気圧が発生しない25年ぶりの珍事が起きました。

ところがです。9月になると気象局の見立て通り、ハリケーンが立て続けに4つ発生しました。その中の最新のハリケーンがイアン(Ian)です。

キューバの被害

イアンは27日(火)、カリブ海に浮かぶキューバを直撃しました。強風で家屋が倒壊、広い範囲で洪水も起きました。現在は、国全体に停電が起きています。

日本時間28日(水)夜、イアンは「カテゴリー4」の勢力です。中心気圧は942hPa、最大風速(1分平均)は69m/s、台風の強さでいえば、もっとも強い「猛烈な」勢力に相当します。

フロリダ州ではすでに10個近い竜巻が発生し、州南部のキーウェストでは過去100年間で3番目の高さの高潮が発生、浸水被害が起きています。

フロリダ上陸へ

イアンは勢力を維持しながら、日本時間29日(木)朝まで、フロリダ州西部のフォートマイヤーズ付近に上陸する見込みです。

国立ハリケーンセンター出典の予想進路図に筆者加筆
国立ハリケーンセンター出典の予想進路図に筆者加筆

このハリケーンでとりわけ恐れられているのが、巨大な高潮と大雨です。

高潮は津波のように、水が壁にように押し寄せてくる現象ですが、最大3.7メートルと予想されています。それに高波が加わりますから、海岸は洪水、浸食など大きな被害を受けることが予想されます。

さらにイアンは動きが遅いため、凄まじい降水量が予想されています。最大雨量は640ミリ、これは9月の月間平均降水量の3倍にも匹敵します。

高潮で川の水も逆流するうえ、雨で水かさも増すので、沿岸、内陸問わず、破壊的な洪水(catastrophic flooding)に襲われる可能性があるのです。

2004年チャーリーと比較

Wikipedia/Supportstorm出典のチャーリーの経路図に筆者加筆
Wikipedia/Supportstorm出典のチャーリーの経路図に筆者加筆

イアンの類似ハリケーンには、2004年8月のチャーリー(Charley)があります。

チャーリーは「カテゴリー4」で、州の中西部に上陸しました。死者は35人に上り、同国史上14番目の経済被害を出しています。恐ろしいことに今回のイアンは、チャーリーよりもサイズが大きいうえ、動きも遅く、雨の量も、高潮の高さも上回る恐れがあります。

フロリダ州は、まさに沖縄のようで、いつもは晴れて温暖な楽園ですが、国内随一のハリケーン常襲地帯です。アメリカに上陸する台風のうち、4割はフロリダ州を直撃するのです。その意味ではフロリダの人々は嵐には慣れっ子ともいえそうです。

しかしカテゴリー4以上の恐ろしく強いハリケーンがフロリダ州に上陸したことは、1950年以降で6例しかないと、Philip Klotzbach教授は言っています。

250万人に避難指示が出され、当局は「今すぐ逃げてください」と強く住民に呼び掛けています。

【追記(9/29)】

イアンはカテゴリー4でフロリダ州フォートマイヤーズ付近に上陸しました。上陸時の風速は67m/sで、同州に上陸したハリケーンとしては4位タイ、またアメリカ全土としては5位タイの強さとなりました。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

森さやかの最近の記事