「雑談+相談」=ザッソウでイノベーションを起こせ!【倉貫義人×倉重公太朗】第4回
倉重:倉貫さんの本の中でも心理的安全性を高める9つの視点ということで、1チームの目標がはっきりしている。2適度に対話しやすい人数である。3強みを知り、認め合う。4強みだけではなくて、弱みも見せる。5プライベートのことも共有する。6情報がオープンになっている。それから、7判断基準と価値観を共有する。8リアクションの意識が揃っている。9肯定ファーストとノーということ。9つ挙げられているのですが、特に9番の肯定ファーストはそうなのですが、ノーとはっきり言うというのも大事だと。これはなるほどと思いました。
倉貫:これはよく日本人のチームで見るのですが、相談することは大事です、相談し合いましょうと言うと、大体、部下や若い人たちから相談を受けることになります。相談は大事だと思っているので、受けるのですが、受けてばかりいれば、自分の仕事に集中できなくなります。優しすぎるのです。「今は無理」と断ればいいと言うと、「断ると傷付くから」と言うのです。それはコンセンサスとして、忙しいときは「ノー」と言います、「ノー」と言うけれども、いつでも相談してきてということをチームで合意しておけば、傷付かないのです。
倉重:今は、ただ駄目な時間なだけですという話ですね。
倉貫:そうです。ですから、「ノー」という言うことが合意されていない中で、相談に行って、「嫌」と言われたら、次に相談しにくくなるのですが、これは「ノー」と言ってもいいチームなのだということのコンセンサスを取っておくということは、とても大事なことです。
倉重:相談を受ける側としても、こういうものははっきりさせることは大事だと思いました。
倉貫:言いやすくなりますから。
倉重:リーダーシップという意味で、やはり、これからのリーダーシップの在り方はどうあるべきかと悩んでいる管理職の方はたくさんいるのではないかと思います。やはり、それは先ほどの昭和のマネジメントのやり方、過去をまねして、より拡大再生産していくというのが通用しなくなってきて、どうすればいいかともがいている方々が非常に多いと思います。こういったザッソウがイノベーションに非常に効くという中で、ザッソウを実践するようなリーダーの在り方というのはどのように捉えていますか。
倉貫:これからのリーダー、マネージャの方がしていかないといけないと思っているのは、僕らもそうですが、いろいろな仕事があって、みんな同じ仕事をしない、それこそ一律でマネジメントしないということが起きたときに、やらなければならない仕事は人によって違うので、そのときにその人の強みをうまく生かす仕事をやってもらうべきだと思います。本人がやりたい仕事で、強みを生かす仕事にもしうまくアサインできたら、何が起きるかというと、圧倒的なパフォーマンスを出すはずなのです。本人が苦手だと思って、やりたくないと思っているのだけど、みんなやっているから同じようにやりなさいと言ったら、それはスポイルされてしまうし、本人も辞めてしまうかもしれないです。パフォーマンスを発揮できないということが分かるので、一律のマネジメントをしないということは、働いている人たちのことをよく知らないといけないのだと思います。
倉重:そこに好奇心がないといけないということですね。
倉貫:そうです。今までだと上が決めて、決めたKPIを下に渡して、ノルマだから順番にやりなさいと言って、そのノルマを達成しているかどうかを検査して、それをチェックしていくという仕事がマネジメントだったのかもしれないですけど、そうではなくて、本人たちがどういう仕事が得意で、どういう仕事をやりたいのか、どういう仕事が向いているのかということを本人たちから吸収して知っていくことが必要で、そのためには観察をして、当然雑談をしておきます。僕らはそれを1on1の中でやるのですが、1対1で上司と部下で話して、「お前、こういう仕事をしろ」と言うのはなくて、どんなことがしたいのか、今までどういう仕事をしてきて、何が自分は得意だと思ったのかをメンバーの側から話をしてもらえるようにしていくことが、マネージャにとってやらなければならないことだと思います。
倉重:もう聞くだけでもいいぐらいということですよね。
倉貫:そうですね。聞いておけば、何か仕事が見つかったときに、「これはあいつにとってチャンスではないか」という気付きが得られます。
倉重:ピンときますね。やはり、ここはヤフーさんですから、1on1を始められていますけれども、1on1をやらなければならないと聞いて、上司の方が部下を呼んでみたら、10分間の説教だったという。これでは何の意味もないわけです。
倉貫:それは1on1とは言わないです。ヤフーの人に怒られると思います。
倉重:それをまねしてしまう人がいるようです。
倉貫:説教部屋のことを1on1と。
倉重:間違った使い方をしている人もいるみたいです。話してもらうことに基本的な意味があるからということですね。何のためにやるのか、その人の状態や考えていること、関心などを把握するということが目的ではないですかということですね。
倉貫:そうです。雑談が上手な上司の方は1on1をしながら、相手の思いをくみ取ればいいのですが、どうやっていいのか分からないというときのために、僕らはYWTというフレームワークを用意しています。1on1で部下と話をするときに、いわゆる会社からの落とし込みではなくて、本人からどう聞き出すかといったときに、1やったこと、2分かったこと、3次にやることという3つの観点で聞きます。
倉重:YWTですね。
倉貫:やったことは、本人が半年なり3カ月なり、1~2週間なり、やったことは事実なので報告してもらって、大事なことはそこから自分は何を学んだか、何が分かったのかということです。やったことを続けていっても、1がずっと1のままなので成長しないのですが、そこから何か学びを得たので、1.1になるのか、次の仕事が見つかるのかというところは、上司でなくてやった人間にしか分からないです。そこで分かったことを言語化してもらいます。言語化してもらいさえすれば、それが本人にとっての成長の糧にはなるし、上司にとってはそれがすごくいいインプットになるので、では、一緒に次にどのようなことをしていこうかと考えられます。
倉重:振り返りと言っても何をどう振り返ったらいいのか分からないという人もいますので、そういう方はこのフレームワークに当てはめてみると、一歩進めるのではないかということですね。やはり、リーダーの姿勢としては本人がYWTをやるなりして、どうしたらよかったか、次はもっとこうしようと内発的に気付いてもらうと。それを引き出すのがリーダーの在り方ということですね。
倉貫:そうですね。これももう仕事の種類として、手を動かかすだけで生産性が出るという仕事ではなくなってきたときに、どうしたら一番生産性が上がるのか。アメとムチでいい仕事をするかというと、さすがにアメとムチではいい仕事はなかなか難しいです。クリエイティブな仕事で自分に置き換えて考えたときに、どういうときにいい仕事をしたかと思うと、本人が自分で本当にいい仕事をしたいと思ったときにしか、いい仕事はできないです。いいプログラムを書きたいのはなぜかと言われたら、ボーナスが出るからではなくて、自分がいいプログラムを書かないと許せないからいいプログラムを書くのです。この案件をやったらお給料がたくさん出るからやるというよりも、お客さんが喜ぶ顔が見たくてやるというようなことです。
倉重:まさに内発的動機です。
倉貫:そうです。そのほうが、生産性が高まるだろうと考えます。
倉重:そういうのを引き出すのにどうすればいいかということで、リーダーに求められるパーソナリティと、パーソナリティといっても別に生来持っていたものではなくて、努力次第でいくらでも変えられるという部分かと思うのですが、5つ挙げられています。好奇心が旺盛なことと、ギブ・アンド・ギブすること、軽やかに受け止めること、それから、フランクさと敬意を併せ持つこと、共感と肯定と挙げられています。軽やかに受け止めるというのは、なるほどと思いました。
倉貫:相談する側は結構、重い気持ちで相談することがやはり多いです。これは本当に大丈夫かと思って投げかけに来ます。重い相談を受ける側、特に上司や先輩側が重く受け止めたら、一緒に重くなってしまいます。
倉重:2人で、「まじか、それは大変だな」と言って。
倉貫:こういうことに実はチャレンジしたいのです。難しいと思うけれども、チャンレジしたいですと不安なときに、「確かに難しい」と言った瞬間に、相談してきた側はやはり難しいのかと、チャレンジしにくくなります。軽く、「いいのではないですか。楽勝でしょう」と言うことで、実は相談した側はそれを言ってもらうことで、軽やかにしてもらうことでチャレンジしやすくなるのです。
倉重:押してほしいという場合もありますね。
倉貫:というのが実は、スタンスとしては結構大事なポイントなのかなという感じがしています。
倉重:ギブ・アンド・ギブというのは本当にそうだと思いました。ギブ・アンド・テイクというか情報交換をしましょうというのは、私がすごく嫌いな言葉なので、そうだと思いました。そこまでいい情報を得られた試しがないです。
倉貫:本当にそうです。情報交換しましょうと言った側は、何も持ってこないで取りにくるケースだけが多いです。
倉重:部下に対しては、まずこちらから与えてやるという姿勢でいいですか。
倉貫:そうです。それでいいです。
倉重:あとはやはり、フランクだけでは駄目ということですね。
倉貫:そうです。難しいところではあるのですが、慇懃(いんぎん)無礼な関係性は本当によくないです。
倉重:そういうことですか。横暴な。
倉貫:もっとカジュアルな関係性はいいのですが、カジュアルな関係性が許されるのは、なぜかというと、根底にリスペクトがあるからです。リスペクトがないカジュアルさというのは、ただの嫌なやつです。
倉重:でも、倉貫さんも社長なわけです。でも、社内的にはいじられたりはしているのですか。
倉貫:いじられるかどうかは分からないですけれども。
倉重:扱いが軽いということですか。
倉貫:扱いは軽いです。
倉重:社長の意見を全然聞いてくれないと。
倉貫:そうですね。普通にコミュニケーションをしているという感じです。
倉重:なるほど。そのようににあえて意識してやっているのですか。
倉貫:どうでしょう。そういうカルチャーの会社にしてしまったがゆえに、そうなってしまったということです。
倉重:社長の意見が通らない会社になってしまったのですね。
倉貫:そうですね。全然、ちやほやされないです。
倉重:それは、多分、最初からそれは求めていないでしょう。やはり、何か成果物を出してきたときに、いけていないところから言うのではなくて、まずは、よくやってくれたというところから入ると。あとは、こういった雑談というのはそもそも業務時間に余裕がないとできないですよね。今は働き方改革と言われて、上限労働時間の規制がすごく厳しくなっているので、本当に余裕がないわけです。でも、タスクは変わらないから、急いで効率化してやらなくてはという中で、雑談などしていられないというご意見もあるかと思うのですが、いかがですか。
倉貫:実は、僕らがやっているのは、効率化の先に雑談があるという話です。効率化が全くできていないところで、ただ、だらだらと雑談をしてもそれでイノベーションが起きるかというと、それはただの生産性低下の原因になるだけです。まずは効率化をしましょうということを僕は考えています。
倉重:本の中でもまずはアナログ分析だと書かれています。IT系の社長がこういうことをおっしゃるのかと思いました。
倉貫:何でもITを入れたら解決するわけではなくて、生産性を上げたいといったときには、まず業務の流れを見ないといけないです。
倉重:無駄なものはないかと。
倉貫:よく大きなシステムを入れたら全部解決すると思われるのですが、そのようなことはなくて、いわゆるボトルネック、重くなっている部分、遅くなっている部分というのは、会社の中でまずは1カ所だと思うのです。ボトルネックを解消すると何が起きるかというと、次にまた別のところがボトルネックになります。それをまた解消すると、次のところがボトルネックになります。順番に重いところが出てくるので、それを順番に解消していくことが大事なのです。一気に置き換えて解消するということは、あり得ないです。
倉重:ましてやシステムを入れたらという話ではないということですね。
倉貫:であれば、どこが一番のボトルネックなのかといったときに、業務をやっている人たちが、自分たちの業務をアナログ的に分析して、どんな流れで仕事が流れているのかというところから理解していないと、手の付けどころが分かりません。
倉重:まず何をやっているかということを手書きで書いてみるということですね。
倉貫:おっしゃるとおりです。
倉重:そこからでいいということですね。井上総合印刷株式会社さんの話はしても大丈夫ですか。
倉貫:大丈夫です。
倉重:ここで業務改善をされたという話があると思うので、ぜひお願いします。
倉貫:九州の印刷会社さんで、印刷会社というと、なかなか忙しくて、印刷機を回している時間が売り上げにつながるので、どうしても残業が長くなってしまう業態になってしまっていて、ただ、やはり働いている人たちを何とか幸せにしてあげたいし、働きやすい環境を作りたいという社長の思いがあって、ソニックガーデンにご相談いただきました。社長はITのシステムを入れたいとご相談いただいていました。
倉重:ITが全部解決すると最初は思っていたのですね。
倉貫:そう思っていらっしゃったのですが、そうではないですと、僕が今お話したようなことを言って、まずはご自身で社内のことをしっかり分析して、本当に一番ボトルネックで解決しなければいけないところを見付けてからやりましょうと言って、帰っていただきました。そしたら、しばらくしてから、ノート何冊かで、全部手書きで分析してこられました。ここまでやったら、ここは本当に大事なので、ここからやりましょうというところから、僕らはITのお手伝いをさせてもらって、改善をして、そこが良くなったら、また別のところをやってというのをずっと改善していった結果、ITと業務改善を融合することによって、今、確か15時に終業するということです。
倉重:15時ですか。早いですね。
倉貫:だから、もう働き方改革どころではないぐらいの改革が起きました。
倉重:しかも、最初はシステムのご相談にきて、本来売り上げを上げたいのであれば、とりあえず、入れますかと言ってやってしまう会社もないとは言えないかと思いますが、それをまずは手書きで整理されたらと返したのですか。
倉貫:そうです。
倉重:コンサルのようですね。
倉貫:僕らのお仕事は、納品のない受託開発というのですが、納品して終わりのシステム開発をしていないです。
倉重:1件幾らなどではないと。
倉貫:作りたいものを作って、作ったら、あとは使えるか使えないかはあなた次第ですというのが従来のシステム開発だとしたら、システムというのはやはり使い始めてからが本番だし、使っているユーザーがどれだけ使いやすく改善されていくかというところが一番大事で、納品して終わるビジネスだとお客さんの満足を高められないです。われわれも、たくさん作るだけのビジネスになるのは嫌だから、納品をすることはやめて、ずっとお付き合いすることを前提に商売をやっていこうというのが、僕らの納品のない受託開発です。
倉重:月額定額ということですね。
倉貫:月額定額の顧問スタイルでエンジニアリングを提供していくというやり方をするのですが、そうすることを考えたら、簡単に作って終わりというよりも、本当にお客さんにうまくいっていただいたほうがいいので。
倉重:関係性が続きますからね。
倉貫:なので、簡単にお仕事も、作ってほしいから作りますというものではないです。
倉重:弁護士と全く一緒だと思います。毎月の顧問料をいただいて、日々の相談をやってということで、案件があればそれはそれでというような。そういった、そもそもゆとりを生むために、業務改革をやった上で、業務量を調整し、できた余裕の部分をザッソウにあてることによって、その先へ、まさに働き方改革その先への部分がザッソウによって実現できるのではないかということですね。これは、ザッソウは採用にも使えると書いてあって、なるほどと思いました。実際、ソニックガーデンさんでもやられているのですか。
倉貫:そうです。僕らの場合、採用の面接では、中途採用などで応募がきたときに最初に私が面接をします。テレビ会議で面接をさせてもらって、よくある履歴書などは提出してもらわないです。なので、履歴書は見たことがないです。
倉重:そうなのですか。
倉貫:入社するときに履歴書は見ないです。前職も聞かないし、住んでいるところも聞かないです。
倉重:住んでいるところも聞かないのですか。
倉貫:どこに住んでいてもいいからです。何も聞かなくて、その代わり、その人がプログラマーとして腕があるのかどうか。
倉重:その一点だと。
倉貫:あとはもういい人柄かどうかです。そこを確認するのに面接で決まった質問をすることはないですか。それは、もう面接で聞く必要がないと思っています。
倉重:なぜ当社を受けられたのですかというような。
倉貫:あなたの強みはなんですかというような。これは事前に作文で書いてもらえばいいと思っていて、僕はプログラムと作文は事前に提出してもらいます。
倉重:テンプレは終わらせておくのですね。
倉貫:そうすると、面接のときに何を話すかというと、もう雑談するしかないのです。
倉重:どんな話から入るのですか。
倉貫:取っ掛かりが必要なので、大体その人の自己紹介をしてもらいます。自己紹介の3分ぐらいで大体採用がほぼ決まります。
倉重:そうなのですか。
倉貫:やはり、上手な人と、全然入る気がないだろうというところから来ている人がいます。
倉重:そういう人がいるのですか。
倉貫:あります。
倉重:入る気がないのに面接に来るのですか。
倉貫:そこはでも入る気はあるのですが。
倉重:もう少しちゃんと調べてきなさいという。
倉貫:やはり僕らはコンサルティングをしますので、きちんと説明する能力は求められます。少なくとも自己紹介をしてもらって、その人の人生の中で、面白いキーワードが出てくるではないですか。
倉重:それは誰でもありますね。
倉貫:僕は好奇心があるから、そこを深掘りしていきます。それだけで1時間ぐらいは簡単にたちます。
倉重:どんな人ですかというようなところから、どんどん広げるのですね。
倉貫:そうですね。
倉重:それによって一緒に雑談できる相手かどうかというところで見ているということですか。
倉貫:そうですね。それも話をしていて、全然話が盛り上がらなかったら、この先やばいとなるでしょう。
倉重:そうなりますね。あとは思考のスピードや、そもそもの言語感覚、言葉のセンスなどで大体分かりますね。今日は、非常にやりやすいと今、思っています。
倉貫:ありがとうございます。
対談協力:倉貫 義人(くらぬき よしひと)
株式会社ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長。「心はプログラマ、仕事は経営者」をモットーに、ソニックガーデンの掲げるビジョン達成のための経営に取り組んでいる。
略歴
1974年京都生まれ。1999年立命館大学大学院を卒業し、TIS(旧 東洋情報システム)に入社。2003年に同社の基盤技術センターの立ち上げに参画。2005年に社内SNS「SKIP」の開発と社内展開、その後オープンソース化を行う。2009年にSKIP事業を専門で行う社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げる。2011年にTIS株式会社からのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンの創業を行う。