緊急事態宣言による買い占めの防ぎ方:マスコミとSNSと私たち:心理学からのアプローチ
■都は緊急事態宣言で買い占めの過熱を危惧
緊急事態宣言が出される見込みが強まってきました。
東京都は、緊急事態宣言で買い占めの過熱を危惧しています。
<都幹部「東京はまん延期」 緊急事態宣言秒読み、買い占め過熱に危惧も:4/6毎日新聞Y!>
■買い占め、買いだめ、異常なパニック買いが起こる心理
パニックは、不安と希望のはざまから生まれます。もしも全員が死ぬとなったら、何もできません。全員が助かる場合は、焦る必要はありません。
このままでは死ぬ(大変なことが起こる)→助かる方法はある→全員が助かるわけではない→早い者勝ちである。
このような状況で、パニックは発生します。
パニック発生には、きっかけがあります。パニック映画では、大声で叫んで最初に走り出す人が登場します。人々が不安がって浮き足たっているときに、このようにパニックのきっかけを作る人がでると、みんながその人と共に走り出してしまうわけです。
そうなると、落ち着いて逃げれば多くの人が助かったのに、パニックのせいで犠牲者が増えることになってしまいます。
買い物パニック、異常な大量買いをする人は、不安の高い情報強者です。不安があり、情報にすばやくアクセスし、迅速に行動できて、お金もあるので、大量買いができます。
店を何軒も回って、大量に購入します。
この様子を直接見たり、SNSや報道で見た人たちが、続いて大量買いを始めます。多くの人が大量買いを始めると、人は多くの人がしていることは正しいことだと感じて、自分も同じように大量買いを始めます(同調行動)。
スーパーの棚は、空っぽになっていきます。その様子がまた拡散されます。品切れが続いてしまうと、偉い人たちが「商品は十分にあります」と言っても、空っぽの棚の映像の方がインパクトがありますので、人々の不安はさらに高まります。
こうなると、買い急ぎなどしたくない人も、生活防衛上の買い物を始めることになってしまいます。
そして、最後に取り残された弱者や、今本当に必要な人たちが、呆然と空の棚を眺め、涙を流すことになってしまうのです。
■マスコミ報道、SNS
マスコミ報道は、重要です。「買い占めが起こる、起こる」、といった報道は、買い占め行動を促してしまいます。
「買い占めが起こる可能性はあるが、みなさん冷静に。買い占めはやめましょう」でしょう。
でも、ただやめろと言われても困りますから、「商品は十分にある」「流通は止まらない」「パリやニューヨークのようにはならない」という報道を繰り返すことでしょう。
空っぽの棚の様子を必要以上に報道する、商品がみるみる無くなっていく動画を繰り返し報道する、これらは買い占め行動を加速させます。
不安を高めるようなBGM、恐怖を感じるような書体も、悪影響を与えます。
報道もワイドショーも、もちろんウソはつけません。番組として正しい数字や、公式見解を報道します。局アナも同様です。しかし、コメンテーターがあおることがあります。
また、よくあるパターンですが、不安の強い人が選ばれて街頭インタビューに登場します。「心配で、心配で、たくさん買ってしまいました」といった街頭インタビューをさんざん放送して、そのあとで、正しいグラフを見せたり、政府の見解を示しても、視聴者は街頭インタビューに影響されます。
大地震の後も、避難所の中で一番余震に怯えている人のところへ、インタビュアーが行列を作って順番を待っている様子なども起きていました。
異常なことやパニックは絵になり、視聴率が取れるのでしょうが、必要以上に異常なパニックを強調して報道するのは、新たなパニックを生むことにつながります。
通常通りの買い物風景、落ち着いている人の街頭インタビューの紹介などが適切です。これまでの災害報道などを見ると、NHKなどは比較的落ち着いた報道をしているように思えます。
これは、SNSで個人が情報発信をする場合も、基本的には同様だと思います。
■パニック買いを防ごう
買い物パニックを防ぐ最も効果的な方法は、商品を山積みして見せることです。これは、オイルショックのときも、先日のトイレットペーパー騒ぎの時も同様でした。
政府と業界が協力し、商品は十分にあることを示すことが大切です。
<トイレットペーパー不足問題は収束へ:「一人10点まで」でパニック買い抑制か>
山積みとまではいかなくても、官民協力の上で、いつも以上の商品を流通させることは大切でしょう。
ただし、いつも商品山積み方法が使えるわけではありません。そこで、一人当たりの個数制限などを早めに出す方法もあるでしょう。
しかしこの方法は、やり方を間違えると、品不足のイメージをかえって高めてしまうこともあるので、要注意です。
人は数が少なく手に入りにくい者に魅力を感じて、必死になって手に入れようとしたくなります(希少性の効果)、また禁止されるとかえってしたくなることもあります(心理的反発、リアクタンス)。
本当は、厳しい制限や、怖そうな注意書きではなく、おだやかな協力要請で済めば一番良いと思います。
たとえば、おだやかな館内放送で、みんなが笑顔で協力してくれれば、それに越したことはないでしょう。
もしも、ごく少数の人がマナーを守れなくても、あるいは特別の事情のある人が大量に買わないといけないとしても、みんなが引きずられるような、パニックのきっかけにならなければ良いわけです。
心理学の研究によると、一度大量買いを始めてしまうと、次の機会にも大量買いしたくなってしまいます。そうしないと、不安が収まらないからです。
結果的に、何年分もの大量の商品が自宅に山と積まれることになります。こんなことは、誰にとっても良いことではありません。
必要以上の大量買いは、この非常時には、社会的迷惑行為です。みんながその意識を持てると、自分自身の大量買いへの遠慮が働きますし、そのみんなの雰囲気のなかで、大量買いがしにくくなるでしょう。雰囲気、空気は、大切です。
ただし、迷惑行為をする人をみんなで責めればよいわけではありません。大量買いする人の動機の多くは、家族愛です。
みんなが非難しあうようなギスギスした雰囲気は、疑心暗鬼と不安を高め、パニック的な行動のもととなります。
互いに助け合いましょう。奪い合えば不足するものでも、分け合えば足りるものです。
迷惑行為には、叱責よりも感謝が有効という研究もあります。
「トイレを汚すお前は最低だ」「トイレを汚すな!」ではなく、「いつもトイレをきれいに使っていただき、ありがとうございます」という方が、効果的なことも多いのです。
狭い国土に多くの人が住む日本。でも、通勤ラッシュの駅でも、渋谷の交差点でも、すごい人数が集まるコンサートや、コミケ(例年50万人があつまるコミックマーケット)でも、私たちはいつも秩序正しく行動しています。
国際的なスポーツ試合でも、日本のサポーターたちの態度は、しばしば称賛されます。災害時も、諸外国のような暴動、強奪など、ほとんど起きません。
新型コロナウイルスで、日本は非常事態宣言をしようとしています。でも、この非常事態も私たちは冷静に乗り越えていくでしょう。
買い占めはやめましょう。ただ、「いつも通り」も難しいかもしれません。せめてある程度の「買い置き」にしましょう。いつもより、一つ二つ多めに買う程度なら、店も対応できるでしょう。
買い占めなどせず、混乱前に少しずつ買い置きが増やせるのが、本当の情報強者です。店にあるものをすべて買いあさり、次の人が泣くようなことは、やめましょう。
非常時の中、一生懸命に病院や生産流通の現場で働いて、遅くにスーパーに来たら、何もない。そんな事態を起こしてはなりません。