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エディーさん流の“ループ・プレー”でイングランド、シックスネーションズを連覇!

永田洋光スポーツライター
優勝を決めたスコットランド戦で大活躍のCTBジョナサン・ジョセフ(写真:ロイター/アフロ)

19年W杯の組み合わせ抽選がシックスネーションズの面白さを倍増させた!

日本のラグビーファンがサンウルブズのパフォーマンスに一喜一憂している間に、ヨーロッパでは、エディー・ジョーンズ率いるイングランドがスコットランドを61―21と破り、最終節を待たずにシックスネーションズ2年連続優勝を決めた。

これでイングランドはテストマッチ18連勝。ニュージーランド代表オールブラックスが持つ連勝最長記録に並び、18日(日本時間19日)のアイルランド戦に2年連続グランドスラム(全勝優勝)と、テストマッチ19連勝をかけて臨むことになった。

実はこの試合、スコットランドが勝てば、イングランド、アイルランド、ウェールズを破って「トリプルクラウン(=ホームユニオンと呼ばれる英国4協会同士の対戦を全勝すること)」を達成するところだったが、これまでチームを支えていたシャープなディフェンスが影を潜め、イングランドCTBジョナサン・ジョセフに走りまくられて大量失点。1990年以来となるトリプルクラウンを逃した。

一方のイングランドは、この間の快進撃で世界ランキングを2位まで上げ、5月10日に京都で行なわれる19年ラグビー・ワールドカップ日本大会の組み合わせ抽選の際に、トップ4を集めた「バンド1」にシードされることが決まった。

今季のシックスネーションズは、イタリアを除く5カ国が素晴らしいパフォーマンスで熱戦を繰り広げ、例年にもまして面白かったが、その背景には、各国ともに世界ランキングを上げてW杯の組み分けでバンド1に入ることを目指しているという事情があった。

W杯の組み合わせは、ランキング1位から4位の国がバンド1に所属。この4カ国をAからDの各組に振り分ける。バンド2(ランキング5位~8位)、バンド3(9位~12位)も同様に振り分けられるので、バンド1に入れば、とりあえずはニュージーランド(1位)、オーストラリア(3位)と同組にならずに済む。つまり、グループステージで、強豪国との対戦を1つ減らすことができるのだ。

シックスネーションズが白熱した所以である。

ちなみに、日本は現在11位でバンド3にシードされており、抽選日までに勝てばランキングが大きく上がるようなテストマッチが組まれていないため、どうあがいてもバンド1、バンド2の国と対戦しなければならない。目標のトップ8進出を果たすためには、そのどちらかを倒さなければならないのだ。

それを考えると、どの国がどのバンドに入るかは、決して他人事ではない。

しかも、バンドの全容は、スコットランド対イタリア(@エディンバラ 日本時間午後9時30分)、フランス対ウェールズ(@サンドニ 同11時45分)、アイルランド対イングランド(@ダブリン 19日午前2時)の順でキックオフを迎える最終節で確定する。

現在バンド1に属しているアイルランド(4位)は、イングランドに勝てば安泰だが、敗れれば、アウェーでウェールズが勝った場合にランキングポイントで逆転されてバンド2に転落。ウェールズがバンド1に昇格する。

さらにややこしいのが、スコットランドとフランスには、相手に16点差以上離されて敗れると現在9位のアルゼンチンにランキングで抜かれてバンド3に落ちる可能性があることだ(ウェールズは敗れてもバンド2に入ることが確定)。

バンド3に落ちるということは、たとえばニュージーランド、南アフリカ(7位=バンド2)と同じプールに入る可能性だって生じることになる。日本もそうだが、どの国もこういう「死のプール」には入りたくないから必死なのである。

……ということで、サンウルブズのパフォーマンスに気を揉みながら、シックスネーションズにも目を配らなければならない。今週末は、なんとも楽しみで忙しく、かつ寝不足必至の観戦三昧が待っているのだ。

イングランドのバックスと、W杯日本代表の共通項

それはさておき、イングランドについて言えば、エディーさんがヘッドコーチ(HC)となって以来、バックスのムーブに磨きがかかった。

イングランドは、これまで強力なFWを擁して厳しいコンタクトと堅いディフェンスでロースコアのゲームを戦う印象があったが、ループやパスの長短、深浅で“相手に触れられずに抜く”という戦い方を志向しつつあるのだ。

興味深いのは、開催国にもかかわらずトップ8に残れなかった15年W杯で10番を背負ったオーウェン・ファレルを、エディーさんが12番に固定し、10番に、ファレルほど派手さはないが素直なパスとゲームコントロールを見せるジョージ・フォードを入れたことだ。

これが、W杯で小野晃征を10番に、立川理道を12番に起用した采配とダブって見えるのだ。スコットランド戦で大活躍した13番のジョセフは、さしずめ、W杯のジャパンで言えばマレ・サウの役どころ。10番12番でパスのコースに変化をつけ、13番には両WTB、FBとともにランナーとしての役割を委ねるのが、エディーさん流のバックス理論なのである。

スコットランド戦では、開始直後にスコットランドのHOフレイザー・ブラウンが、相手を地面にたたきつけるようなスピアタックルでシンビンとなったこともあって、直後のジョセフのトライまで一切キックを使わずに攻めた。しかも、ボールを動かすときに、さまざまなランナーがデコイ(囮)として走り込むのでディフェンスの足が止まる。

エディーさんは、ジャパンのコーチ時代に「カンペイ」など日本の伝統的なサインプレーを「ループ・プレー」と呼び、積極的に使うことを選手たちに指示していたし、また自ら「こういうループ・プレーが好きだ」と公言していた。

その大好きなループ・プレーを、ジャパンよりもサイズが大きく、かつ能力と経験に秀でた選手たちにやらせているのだから、今のところは「してやったり」だろう。

もちろん、彼の目標は19年W杯での優勝だからまだまだ満足はしないだろうが、それでもイングランドのバックスプレーを見ていると、日本人が好み、技を磨いてきた「伝統工芸」(これは故・平尾誠二氏の言葉だ)が、今でも十分世界で通用することがわかる。

現在のジェイミー・ジョセフHCが、こうしたループ・プレーをどう活用するのか――もっと言えば、彼が推奨するキックでのアタックとどう共存させるのか――は、これから迎える春のテストマッチシリーズでの最大の注目ポイントだ。

ちなみに、先週の記事『連敗したサンウルブズ、田中、堀江抜きで南アフリカ遠征へ!』では、サンウルブズのキックの多さに苦言を呈したが、先週のチーターズ戦では無用なキックが影を潜め、ボールを動かし続けることで4トライを奪って、惜敗したものの今季初めて7点差以内負けのボーナスポイントを獲得した。

W杯のときのバックスに比べれば、まだパスのぎこちなさや、ボールにトップスピードで走り込んでいない点など改善すべきところも多いが、それでも日本的なラグビーは、やはりスーパーラグビーでも通用するのである。

17日(日本時間18日午前2時キックオフ)のブルズ戦でも、できる限りボールを動かして心に残るトライを挙げてもらいたい。

そして、19年にはどんな強豪国と同組になっても勝てるように、技に磨きをかけてもらいたい――そう心の底から願っている。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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