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パワハラ上司3つのタイプとは おびえないで相談しよう

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
画像はイメージ(写真:アフロ)

この数年、パワハラで体調を崩す方の相談が多いという実感があります。では職場でパワハラについて予防対策をしていないのかというと決してそうではないのです。パワハラ防止に努めているにもかかわらずハラスメントが相変わらず続いているのは一体なぜなのか考えてみました。

パワハラを受けても我慢が一般的?

厚労省の平成28年度の調査によると、過去3年間にパワハラを受けたという相談を従業員から受けた企業は36.3%、過去3年間にパワハラを受けたことがあると答えた従業員は32.5%でした。しかし、パワハラを受けた人の40.9%がパワハラを受けても何もしなかった、12.9%が退職したということです。つまりパワハラを受けても泣き寝入り状態あるいは退職に至っていることは大きな問題といえます。

安心して相談できるのか?

なぜ我慢してしまうのか、その要因の一つはどこに・誰に相談していいか分からないということが挙げられます。というのは厚労省の調査でパワハラを受けたとき社内の相談窓口が明確化していると答えた人は36.2%にとどまります。また相談窓口があることは知っていてもそこで安心して相談ができると答えた人は41.9%にすぎません。相談しても逆に自分の立場が危うくなってしまうのではないか、という怖れでパワハラを見聞きしても相談を控えることもパワハラを放置させてしまう要因になっているといえるでしょう。ハラスメント防止のためにはまず、相談窓口をはっきりさせ、安心して話せる場だというメッセージを伝える仕組みを作っておくことが職場に求められます。

パワハラを繰り返す管理職3つのパターン

パワハラをする管理職はなぜか何度も同じことを繰り返している傾向があります。パワハラで体調を崩した方から「自分の前にも何人か同じような目にあい退職した人がいる」という声を聞くことがあります。

(1)ハイスペックタイプ

実際に何度も社内の内部監査で注意を受けたにもかかわらず全く変化がないという管理職も結構な割合で存在します。仕事ができると評価されている管理職に多いタイプで、自分がやってきた仕事のやり方が唯一の成功の条件という信念がありほかのやり方で仕事しようとするのを許せないという場合などです。営業職でこうした傾向を持つパワハラ上司がいます。ほかのやり方をしようとしたり結果が出せなかったりすると人格否定発言などをするものです。

(2)不安八つ当たりタイプ

自分が雇用不安を抱えていたり上からの締め付けで心理的に追い詰められていたりすると、部下に八つ当たりをする場合があります。ごく些細なことで自分の思い通りにいかないとかっとして感情的な発言をして部下に当たります。自分の部署の残業時間について上から厳しく指摘された管理職が、人手不足のため夜残って仕事をしていた部下に向かって「何を考えて仕事してるんだ、仕事の進め方も分からないのか」と書類を投げつけた、などというケースがあります。上から悪く思われたくないという気持ちが強い管理職は上には平身低頭し、その抑圧した気持ちのうっぷんを部下に向けます。自分の心のコントロールができない上司は部下にとり大迷惑です。

(3)嫉妬タイプ

自分の実力に自信がなくなり部下にあたる上司もいます。かつては業績を上げて管理職になったものの時代の変化で今は実力に自信がない、管理職だから優秀な部下に任せて業績を上げてもらえばいいのですがかつては自分も業績を上げた身。優秀な若手の部下に対する嫉妬から何かとケチをつけて仕事をやりにくくするタイプです。研究職やアートの業界でみかけることがあります。

パワハラの連鎖

パワハラをする管理職は自分もパワハラを受けて仕事してきたという意識があります。パワハラの連鎖というのでしょうか。「自分はこれくらいのことをされて平気でやってきた。だからこのくらいはパワハラには当たらない」「昔はこんなことはパワハラではなかった。この程度のことが乗り切れなくてどうする」というタイプです。スポーツで問題化するしごきやしつけと称する暴力に通じる心理ともいえるでしょう。ある企業でこんなことがあったそうです。「自分は営業で、上司を車の助手席に乗せて運転し赤信号で止まったら、いきなり上司に『おまえ何でこんなとこに止まるんだ』と殴られた。訳が分からなったが、止まったところは助手席が日なたで暑かったからだった」。この程度は問題ないと思ってきた管理職もいるのです。

パワハラ上司を怖がらない

パワハラを受けた方はご自分の仕事パフォーマンスに自信がなくなったり自己肯定感が失われたりするものですが、実はパワハラをする管理職のほうに多くの問題があることに気がつきおびえないでほしいと思います。いじめやハラスメントは自分の心の不安を隠したり自分のやり方だけを正当化したりするためであることもしばしばです。おびえずに社内の相談窓口に相談しパワハラ上司の問題点を改善するスタートをしていただきたいものです。

また企業にとって、パワハラは社内の雰囲気を悪化させ業績を低下させることになります。普段から風通しのいい職場ではハラスメントは起こりません。上に対してものが言えないという構造の企業には問題が起こりやすいといえます。まずハラスメントその他必要な支援の窓口をはっきりさせ安心して相談できる場があることを社内に周知させていただきたいと思います。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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