梨泰院事故現場近く たった一店舗だけ「夜も灯りを消さないパン屋」 その理由は?
29日夜に韓国ソウルの梨泰院で起きた圧死事故。150人以上が亡くなるという大惨事の後、韓国は5日までの「国家哀悼期間」に入っている。
国内では責任論が渦巻いている。管轄の龍山警察署の事故把握が発生から2時間後だった。この点を韓国警察の特別捜査本部が問題視。警察が警察を捜査するという事態が起きている。
また2日には尹錫悦大統領と旧知の関係とされる宗教家「天空師匠」ことイ・ビョンチョル氏がYouTubeで「またとない機会。事態を収拾し、存在をアピールすればいい」という主旨の発言を行い、主要メディアからも大批難を浴びた。
国内のイベントは軒並み中止。これについてトロット(韓国演歌)の若手人気歌手イ・チャヌォンが30日にステージ上で「今は国家哀悼期間なので歌を歌えません。すみません」と発言したところ、「哀悼期間のせいにした」と大炎上。自粛を国家が定めるべきか、自発的であるべきかという論争も巻き起こしている。
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では、現場付近はどうなっているのか。
厳粛なムードのなか死者への哀悼の意を表している。地下鉄4号線梨泰院駅の周辺周辺にはボランティアや市民が管理する献花場が設定された。繁華街の店は軒並み休業。そんな心境ではない、という点は想像がつく。
そんななか、現場近くのあるパン屋について「JTBC」「東亜日報」「韓国経済」などが報じている。
「事故現場すぐ近くで店を閉じないパン屋」
事故が起きた梨泰院駅1番出口から徒歩5分にある、大手パン屋チェーン「トゥレジュール」の梨泰院駅店だ。周囲が店先に臨時休業の貼り紙を掲示し、店の照明も切って休むなか、一店舗だけぽつりと灯りをつけている。
「JTBC」がこれを不思議に思い、店を取材した。
大手パン屋のフランチャイズ店を切り盛りするオ・ウニ店長が現れた。
「私達も哀悼する気持ちから(事故現場近隣の店は)クローズする方が正しいと思います」と切り出した。
そしてこう言葉を続けた。
「ただ、消防署の方々や警察の方々がどこかに入って休む場所がないじゃないですか。ここに来て、インターネットも使ってもらって、しばしコーヒーでも飲んで行ってください、と」
- 右がオ・ウニ店長
正式な営業ではない。事後処理を行う警察・消防のために灯りだけは消さず、夜の時間にもしばしの休みが取れるようにしてあるのだ。コーヒーや飲み物を無料で提供している。
きっかけは、事故があった夜の出来事だった。
「コーヒーをテイクアウトしていかれるお客さんが多かったんです。理由を聞くと『警察・消防の方々に渡す』と。お客さんが私費で買っていかれるのに、梨泰院で商売をする者の責任感から、私達が何かをしないわけには行かなかったんです」
オ店長はこう続けた。
「私達の店もあの事故の時にオープンしていましたが、悲鳴や泣き叫ぶ声が売り場にも聞こえてきました。また現場で多くの人達が救護に全力を尽くしていました。それを直接見たので、梨泰院で商売をする立場として私達も何かの助けになりたかったんです」
JTBCは「今、店を開けるのは収益面ではマイナスでは?」との質問を続けた。オ店長の答え。
「営業の損失や店の被害については考えたことがありません。まず最初に、営業をすること自体が道理に合わないという考えを持ち、そのうえで自分の持ち場で静かに哀悼の意を表する方法を考えてみたのですが、抑えきれない悲しみの前に自分たちの営業損失など考えている場合ではありませんでした。公務を務められる方々に少しでも私達の店で休んでいってほしいです」
現場で働くアルバイトの女性はこうも。
「私が完全に気持ちが分かるわけではないんですが、同じ年齢層のひとりとして思うところもあります。青春を楽しもうとそこに行っただけなのに、予測もできなかった事故の犠牲になった。その時の心情がどんなものだったのか。あまりにもつらいです。私も梨泰院で働きながら、119(消防署)の向かいにある場所で働いているんですが、できることはやらなくては、という思いでいます」
警察・消防のスタッフからは「ありがとうございます」と声をかけられたという。店主側は「私ができることは小さいのに、挨拶してくださってむしろ恥ずかしい思い」だという。
「韓国経済」はこの梨泰院の街を愛し、自ら判断した行動に対し称賛の意味を込め「驚くべきこと」と見出しで報じた。JTBCは「全てが厳しい時を過ごしているが、各自の場所で自分だけの方法で哀悼と慰めを分かち合っている」とレポートをまとめている。