海洋投棄の問題と国を批判する若者 フィヨルドへ廃棄物を捨てることをノルウェー裁判所が支持
ノルウェーの複数の環境団体は、フォルデ・フィヨルドへの採掘廃棄物の堆積許可において、国相手に裁判を起こしていた。
フィヨルド=海を「処分場」とすることに対しては、環境派が強い反発をしており、この争いは2008年から続いている。ノルウェーの歴史上で大規模な環境紛争のひとつでもある。
2022年に環境団体らが国を提訴し、裁判はオスロ地方裁判所で2023年9月18日から10月4日まで行われた。
反対の意見は国外でも広まり、2016年には世界自然保護連合の53カ国が鉱山廃棄物の海洋投棄を止める決議を支持した。この時に反対票を投じたのはノルウェーとトルコだけだった。
オスロ地方裁判所が国側の主張を支持したことは、環境派にとっては衝撃的な通告となった。加えて、訴訟に費やした約300万ノルウェークローネに加えて、140万ノルウェークローネの訴訟費用を国に支払わなければならないことは、「予想外だった」と衝撃を与えた。
環境側の主張は、「フィヨルドの広範囲の汚染が認可され、環境への影響が過小評価されている」ことだったが、「採掘会社ノルディック・マイニング社に付与されたライセンスは無効になるべき」という主張は裁判所に受け入れられなかった。
採掘会社は「操業許可は健全かつ合法的な根拠に基づいて付与された」と判決を喜んだ。国は最大1億7000万トンの掘削廃棄物の投棄を許可した。
「鉱山廃棄物の海洋(フィヨルド)投棄」はイメージしにくいかもしれないが、下の環境団体の動画を見ると想像がしやすい(音声はノルウェー語だが、動画を見るるだけでも理解できる)。
法的な紆余曲折が続いたノルウェーで、今回の裁判の結果は今後の海洋投棄の問題に影響を与えることになるだろう。
国を提訴した環境団体らの中心団体のひとつとなったのは、ノルウェー最大級の若者の団体「自然と青年」(Natur og Ungdom)だ。
リーダーであるギーティス・ブレジャヴィチョスさん(23)は、今回の結果に落胆はしても、闘い続ける希望は失っていなかった。
人類を相手に、負けるのは常に環境
「気候と環境はそもそも勝利することに慣れていません。だからこそ、これほど自然や気候破壊が深刻化している」
今回の記者会見でもそうだが、ブレジャヴィチョスさんや関係者が「環境」「気候」を人と同じように「主語」で話しているのが筆者には印象的だった。最近の取材で、フィンランド元大統領も「地球」を「女性」として語っていた。
敗訴しても、闘う意欲は失われない
活動家としてモチベーションは失わないが、「怒りと戸惑いを感じるからこそ、その解消の助けになるのは活動し続けること」だ。ブレジャヴィチョスさんは取材でそう話した。
国際的にはノルウェーは「良い国」「環境・気候対策の最先端を行く国」という印象を抱かれていることに違和感を感じているという。
「まるで自分たちはフィヨルドと山と共にあるかのように宣伝しているけれど、実際はそうではない。自然保護においても気候排出量対策においても、ノルウェーは最悪だし、偽善的だと感じています」
また北欧他国のスウェーデンやデンマークと比較して、自然保護のための裁判費用がノルウェーは格段に高いことにも警報を鳴らした。
それでも国を批判・提訴することにためらうことは、今後もないという。
「物事を変えるための唯一の方法は、挑戦し続けることですから。今回の裁判の結果で私が恐れを抱くことはありません。むしろ全身の一歩だと考えています」