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日本のマスコミ報道について -大震災・原発事故以降、受け手の見方は変わったか?(コメント その2)

小林恭子ジャーナリスト
「ミドルメディア」シンポジウム開催のお知らせ(チラシより)

大震災・原発事故以降のマスコミ報道について、色々な方からコメントをいただきました。「その2」では、ジャーナリスト&ブロガーの団藤保晴さん、科学ジャーナリスト、小出重幸さんの見方を紹介します。

ジャーナリスト 

団藤保晴さん

―マスコミ不信(もしあるとすれば)はいつごろ生まれた?

1997年の (「インターネットで読み解く! http://dandoweb.com/ )

第25回「インターネット検索とこのコラム」 (97/10/30)

新聞メディアと読者の現状を、当時の私はこんなふうに整理した。

「高度成長期に入るまでは、新聞がカバーしていた知のレベルは社会全体をほぼ覆っていた。技術革新の進展と裏腹の矛盾、歪みの集積は社会のあちこちに先鋭な問題意識を植え付け、新聞がふんわりと覆っていた知の膜を随所で突き破ってピークが林立するようになった。特定のことについて非常に詳しい読者が多数現れ、新聞報道は物足りない、間違っているとの批判がされている。

新聞の側はそれに対して真正面から応えるよりも、防御することに熱心になった。読者とのギャップはますます広がっている。なぜなら、知のピークはどんどん高くなり、ピークの数も増すばかりだから」

と書いています。これがマスコミ不信の出発点でしょう。

―大震災の前後で、国民のメディアに対する見方が大きく変わったという実感はありますか?

福島原発事故の在京メディアの報道ぶりが「大本営発表」だとネット市民には見えてしまいました。ネット上で日々、あれだけ呆れられたのに、メディアの反省は希薄です。

第282回「原発震災報道でマスメディア側の検証は拙劣」 (2011/10/15)

で検証した通りです。上記のような意識が高い少数者に批判される初期の不信現象から進んで多数の市民が見切ってしまったと言えるでしょう。

2011/3/12に大阪から書いた

第244回「福島第一原発は既に大きく壊れている可能性」 (2011/03/12)

ほどの実証性志向もメディア報道からは感じられませんでした。

***

科学ジャーナリスト

小出重幸さん

1)マスコミ不信(もしあるとすれば)はいつごろ生まれたと感じていらっしゃいますか?

第二次大戦の大政翼賛会報道時にもありました。常に一定程度、不信が存在するのが「自然」な姿だと思います。メディア問題の「主人公」は主権者たる読者ですので、マスコミの情報をいかに選別・料理して(自身の糧として)、活動や情報発信に役立てるか――ということが肝要だと思います。

一方で、報道で一番大切なのはFactsですね。これに疑義があるときは、まず、メディアに直接アクセスすることが必要で、メディアもこう した読者の真摯な批判、指弾によって、本来の姿を回復する、そうした性格の存在だと思います。「一律な不信」だけでは、何も産み出さないと思います。

2)大震災の前後で、大きく変わったという実感はありますか?

マスメディアの信頼は、大きく失墜しました。

3)もしそうである場合、何故だと思いますか?

大震災・津波・福島原発事故――この混乱の最大の特徴は、官邸、政府、原子力業界、科学者コミュニティーが、いずれも情報の適切な発信、 PublicへのCommunicationに失敗して、信頼を大きく損なった、ということです。合わせて、マスメディアもこの情報発信が適切にできず、これが不信が拡大する背景となりました。Authorityに頼っていた情報収集と記事の発信は、そのAuthorityがコケれば、マスメディアもコケル、というあんばいで、独自の取材の大切さ、電力業界やAuthorityとの距離を日ごろからきちんと取っておくことの重要さが、あらためて明白になりました。

一方で、Authorityを無視しては、報道はできません。特に核物質をあつかう原子力など専門的な取材対象では、ミリタリーも関わって くるだけに、ピンポイントの独自取材では「全貌」は明らかにできません。このバランスが難しいところですね。

今回の騒動を俯瞰すると、日本の大手新聞などのマスメディアは、Authorityから発信される情報がほとんど役立たなかった――という 結果をそのまま伝える形になり、それが批判につながりましたが、一方では、広大な被災地、各地の現状、政治、経済、国際社会の動き、生活、さ らにその間も続くスポーツ、文化活動など、「社会全体」を36ページに凝縮して発行する、という総合的な力は、結局、他のどのメディア(紙、 電波、ネット……)もできなかった――ということも事実だと思います。

WeblogやTwitter、そして自由報道協会などの活動は、特定の分野やテーマではすぐれた情報伝達ができたと思いますが、この世の 中の全体像や相場観をコンパクトに、しかも継続的に伝えたところは、結局ありませんでした。局地戦はできても、NHKニュースや、36ページ の新聞で伝える総合的な情報発信は、ジャーナリストをどれだけ大量に抱え、それが24時間体制で対応しているか、という力勝負の世界なのだと 思います。こうした側面を考慮せずに、局地戦だけで優劣を論じるのは、むなしい印象がありますね。

ミドルメディア・シンポジウム」の活動を1月から始めましたが、このミドルメディアとは、マスメディアが伝えきれない、きめ細かいコミュ ニケーションということで、これまで一部で使われてきた、ネットを使った小規模発信の試みとは、違った意味で使っています。特に、科学と社会 のはざまで起こるさまざまなコンフリクトが、近年増加しています。科学や技術の問題でありながら、科学者や技術者だけでは結論が出せない領域 を「トランスサイエンス」といいますが、この世界が主な対象になります。

次回シンポジウムは、4月14日で、「低線量放射線影響と地域コミュニティの復興」がテーマです。

(続く)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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