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「消毒剤噴霧」「空間除菌」の効果は証明されておらず、人体に有害な可能性あり

忽那賢志感染症専門医
携帯型の空間除菌用品に関する注意喚起(消費者庁HPより)

緊急事態宣言が解除され「新しい生活様式」に基づいた感染対策が奨励されています。

新型コロナウイルス感染症は新しい感染症であり、これまでの感染対策の常識が通用しない(発症前から感染性がある、など)部分があるため、みんなが模索しながら感染対策を進めているところです。

しかし、そんな弱みにつけ込んでか、本当に善意でやっているのか分かりませんが、消毒薬を噴霧する機器を飲食店や学校・美容院に置くようにすすめる訪問販売・通信販売があるようで、医療機関にも営業に来ているようです。

居酒屋チェーン店でも、入店前に次亜塩素酸水を浴びる謎の装置をくぐることを求められるお店もあるようです。

除菌と消臭効果を謳っている「じあくぐりん」(サニタイズ社)https://www.kichiri.co.jp/wp-content/uploads/2020/05/20051422222.pdfより
除菌と消臭効果を謳っている「じあくぐりん」(サニタイズ社)https://www.kichiri.co.jp/wp-content/uploads/2020/05/20051422222.pdfより

これは居酒屋チェーン店が悪いわけではなく、根拠なく謎の装置で除菌できると喧伝して商売をしている業者が悪いと言わざるを得ません。

さらには!筆者の友人のご家族が美容院で買わされたという次亜塩素酸水スプレーには、このようなチラシが付属していたそうです。

次亜塩素酸水スプレーに付属していたチラシ(筆者の友人提供)
次亜塩素酸水スプレーに付属していたチラシ(筆者の友人提供)

ちょっと見にくいかもしれませんが「次亜塩素酸水の使い方」として様々な間違った使い方が紹介されています。

ニキビやアトピーにって・・・かゆみ止めってことなんでしょうか。

それよりも空間除菌に飽き足らず、口の除菌・・・しまいには目の除菌まで!

危険ですので絶対にやめてください!

そもそも消毒薬を空気中に噴霧して使うことはありません。使用目的は「物の表面」の消毒です。空気中に噴霧すると人が吸い込む可能性があり危険です。

業者は「次亜塩素酸水は次亜塩素酸ナトリウムと違って安全です!食品にも使えるくらいですから!」というセールスをしているようですが、食品に使った場合も食べる前には残留しないように除去しないといけません。口に入れることを前提に使われるものではありません。

ということで、ついに経済産業省が「『次亜塩素酸水』の空間噴霧について(ファクトシート)」を発表しました!

「次亜塩素酸水」の空間噴霧について(ファクトシート)

「次亜塩素酸水」等の販売実態について(ファクトシート)

ぜひ内容をご一読いただければと思いますが、清々しいほどにぶった切ってくれています。

大事な部分を引用します。

「次亜塩素酸水」の空間噴霧について(ファクトシート)

・現時点において、「次亜塩素酸水」の新型コロナウイルスへの有効性は確認されていない

・消毒剤を人体に噴霧することは、いかなる状況であっても推奨されない。これは、肉体的にも精神的にも有害である可能性があり、感染者の飛沫や接触によるウイルス感染力を低下させることにはならない(WHO)

・消毒剤噴霧は、空気や表面の除染のためには不十分な方法であり、一般衛生管理には推奨されない(CDC)

・人がいる状態で空間・空気に対して消毒を行うべきではない(中国国家衛生健康委員会)

・消毒液噴霧による人体への安全性については、確立された評価方法が存在していない

「次亜塩素酸水」等の販売実態について(ファクトシート)

・液体の販売にあたって、製法(電気分解、混和等)や原料が明記されていないものが多い。

・液体の販売にあたって、製造日及び使用可能期間、使用可能期間中における次亜塩素酸濃度の低減について明記していないものが多い

・食品添加物であることを根拠として、人体への安全性を謳っているものがある。

・有人空間での「次亜塩素酸」等の噴霧によるウイルス対策が、公式に認められていると誤認させるような表示を行う例がある

というわけで、次亜塩素酸水を噴霧するのは効果も不明ですし有害な可能性があり、現時点では推奨されません。

ましてや口や目の消毒には使わないようにしましょう。

このファクトシートにも健康被害と思われる報告について記載があります。

○職場ではコロナ関連で、次亜塩素酸を噴霧している。目が痛く、腫れてきたのに、商品には健 康被害の注意書きがない。(2020 年 03 月 16 日)

○コロナウイルス対策で加湿器に別売りで作成した次亜塩素酸水を使用し噴霧したことにより呼

吸困難になりそうになった。(2020 年 03 月 25 日)

ついでに言うと、空間除菌を謳っている商品は全て過大広告です。

携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について

空間除菌グッズへの注意喚起(消費者庁)
空間除菌グッズへの注意喚起(消費者庁)

行政指導の対象となった事例の概要表示の例

・身につけるだけで、空間のウイルスを除去

・身につけるだけで1m2の空間除菌

・携帯することで、オフィスや会議室などで除菌・消臭できます

・通勤時の予防として、除菌・消臭いたします

・電車やバスの中、各種施設の中などで、空間に浮遊するウイルス・菌・臭いを除去します

身につける系の空間除菌だけでなく、置いておく系の空間除菌グッズも除菌効果は証明されていません。

ましてや新型コロナウイルスに対する有効性は完全に不明です。

二酸化塩素による除菌をうたった商品-部屋等で使う据置タイプについて-

もし本当に効果があるのであれば、病院をはじめ全国どこにでもこれらの空間除菌グッズが即座に配備され、日本国内から新型コロナが排除されているはずですが、そうなっていないということはそういうことです。

世の中、そんなに都合のいい感染対策はなく、手洗いや咳エチケット、3密を避けるといった基本的な感染対策を行うしかありません。

悪徳業者や過大広告に騙されることなく「新しい生活様式」における適切な感染対策を行っていきましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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