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初の長編が劇場公開。映画『距ててて』加藤紗希監督インタビュー

秋吉健太編集者

脚本・豊島晴香と監督・加藤紗希、二人の俳優による創作ユニット『点と』。

映画学校で出会った二人がユニットを組み映画を制作、二作目にして初の長編映画作品となる『距(へだ)ててて』が第43回「ぴあフィルムフェスティバル」で観客賞を受賞、第22回TAMA NEW WAVEコンペティション部門、第15回田辺・弁慶映画祭に入選を果たし、いよいよ5月14日(土)より東京・中野にある「ポレポレ東中野」にて劇場公開される。今回、監督の加藤紗希さんに話を聞くことができた。

『距ててて』のワンシーン。左が脚本を担当した豊島晴香、右が監督の加藤紗希。映画学校で出会った二人は『点と』というユニットを組んで創作活動を行っている
『距ててて』のワンシーン。左が脚本を担当した豊島晴香、右が監督の加藤紗希。映画学校で出会った二人は『点と』というユニットを組んで創作活動を行っている

18歳で名古屋から上京、ダンスの振り付けや舞台で活動してきた加藤さん。ある仕事を通して「映画をやりたい」と思うようになった彼女は東京・渋谷にある映画美学校に入学、そこで演技や映画づくりのこと以外にも多くのことを学んだのだそう。

「やっぱり“出会い”が一番大きかったと思います。創作ユニットの『点と』を一緒にやることになった豊島晴香さんと出会ったのもここだし、映画に出演していただいている人たちも全員学校の同期だったので、単純に『仲間ができた』っていうことがすごい大きくて」

「全編通して地味ミュージカルでやりたかった」という加藤さん。『距ててて』第一章「ホーム」は特に音楽を奏でるシーンが印象的
「全編通して地味ミュージカルでやりたかった」という加藤さん。『距ててて』第一章「ホーム」は特に音楽を奏でるシーンが印象的

「私は高校を卒業して東京に出てきて、フリーでダンスの仕事とかお芝居に出るという活動をしていたので、同期って言える人たちがどこにもいなかったんです。映画の学校では、演技や撮影、編集はもちろん、俳優の権利とか危機管理の授業もあるんですね。そういうことを学んだ後に最後にみんなで一緒に公演をやるんですが、在学中の半年間でぎゅっと一緒に映画作りを経験した人達っていうのは、やっぱり何かちょっと他の人とは違う安心感があります。何か共通言語が得られてる感じで」

加藤さんが監督として映画を撮るのは今回が二作目。第一作目ながら第41回「ぴあフィルムフェスティバル コンペティション部門」にも選ばれた映画『泥濘(ぬかる)む』は約25分の短編映画。二作目となる『距ててて』は自身初となる長編映画だ。

「長回しで撮影した」という会話劇、第二章「かわいい人」
「長回しで撮影した」という会話劇、第二章「かわいい人」

「『距ててて』は四章に分かれていて、一つずつでも見られるような独立した話なんですね」

78分からなる今作は「ホーム」「かわいい人」「湯気」「誤算か憧れ」といった4つの物語で構成されている。

共通の知人と一緒に一軒家で共同生活をしている写真家の志望のアコ(加藤さん)とフリーターのサン(豊島晴香)。二人の前に現れてくるさまざまな登場人物たちとの日常を丁寧に描いている。

『距ててて』監督の加藤紗希さん
『距ててて』監督の加藤紗希さん

「地味ミュージカルをやりたかった」と加藤さん。

「第一章は”生活にある音楽”っていうのを描きたくて。それから二章目は”会話劇”、三章目は”ホラーファンタジー”、最後は”地味SF”です(笑)。短編だとリアリティなのかファンタジーなのか、振り切って現実世界ではありえないようなことをアイデアひとつでできるっていうのが短編の良さだと思うんですけど、長編はやっぱり時間をかけて進んでいくので、リアリティは保ちつつも、その映画でしかできない表現に挑戦してみたかったんです」

「ホラーファンタジー」の第三章「湯気」
「ホラーファンタジー」の第三章「湯気」

「美味しくて温かいものをみんなで食べる」

映画美学校で出会った仲間たちと一緒に制作した『距ててて』。撮影の間はどのような現場だったのだろう。

「私がものすごく大事にしていたのが『美味しくて温かいものをみんなで食べる』ということでした。やっぱり撮影現場に入っちゃうとお弁当っていうのが多いんですよね。それだと美味しいけれど冷たいじゃないですか。なので私たちの現場は必ず温かいご飯を用意していました。俳優の人に作ってもらったりとかで、豚汁やカレーを食べたり。俳優、スタッフ、一緒に温かい食事をとりながら作品を作るということをみんなで共有したくて」

第四章「誤算か憧れ」は、加藤さん曰く「地味SF」
第四章「誤算か憧れ」は、加藤さん曰く「地味SF」

5月14日(土)より劇場公開

加藤さんにとって監督として二作目であり、初の長編映画である『距ててて』。5月14日(土)から東京・中野にある「ポレポレ東中野」にて劇場公開がスタートする。

「不思議な感じです。前作の短編が『ぴあフィルムフェスティバル』で入選したので、今度は長編作品でも入選したいって思っていたんです。他の映画祭でも入選できたらいいなということも思ってましたし、いずれは劇場公開もできたらいいなと思っていたんですけど、こんなに早く劇場公開が叶うなんて正直思っていなかったですね」

これまでダンサーや振り付けを担当するなど、自分でも舞台を主宰をしていた加藤さんに舞台と映画の違いについて訊ねてみた。

「舞台の場合だと、会場を予約して自分達で人を集めたり出来たら上演できるんですね。でも映画の場合は『観ていただく場所』を作るのが難しいんですよね。自主上映みたいなのをやってるイベントスペースとかもあるとは思うんですけど、劇場公開って劇場の人が『うちでやりましょう』と言ってくれないとできないことだから、舞台をやるよりもかなりハードルが高いことだと思うんです。今回、まずそこまで行けたっていうのが嬉しいです」

上映期間中、連続9日間のアフタートークも開催

5月14日(土)〜5月21日(土)の9日間、いろんなゲストを招いてアフタートークも開催される。

「初日に舞台挨拶をして、それから9日間連続で映画監督やミュージシャンといったいろんなゲストをお招きしてトークイベントも行います。そちらの方も楽しんでいただけたらと思います」

【映画『距ててて』アフタートーク】
連日20:30〜ポレポレ東中野にて上映後開催予定
5月14日(土):初日舞台挨拶/加藤紗希(監督・出演)・豊島晴香(脚本・出演)・釜口恵太・神田朱未・髙羽快・湯川紋子(出演)
5月15日(日):五十嵐耕平(映画監督)
5月16日(月):三浦康嗣(音楽家/□□□)
5月17日(火):玉田真也(劇作家/演出家/映画監督/玉田企画主宰)
5月18日(水):星野概念(精神科医など)
5月19日(木):はましゃか(文筆業/クリエイター)
5月20日(金):高橋洋(映画監督/脚本家)
5月21日(土):野本梢(映画監督)
5月22日(日):星野智幸(小説家)
5月23日(月):近藤良平(振付家/ダンサー/コンドルズ主宰)


『距ててて』
5月14日(土)よりポレポレ東中野にてロードショー
出演:加藤紗希・豊島晴香・釜口恵太・神田朱未・髙羽快・本荘澪・湯川紋子
撮影:河本洋介
録音・音響:三村一馬
照明:西野正浩
音楽:スカンク/SKANK
製作:点と
脚本:豊島晴香
監督:加藤紗希
2021年/日本/カラー/78分

<そのほか公開予定>
2022年7月16日(土)〜長野/上田映劇にて上映
2022年8月 福島県/Kuramoto・いわきPITにて上映


ポレポレ東中野
住所/東京都中野区東中野4丁目4−1 ポレポレ東中野 坐ビル地下

編集者

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」「九州ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポットなどユーザーニーズを意識した情報を、それらの合わせ持つストーリーと共にお届けします。

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