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「常勝」鹿島アントラーズはレアル・マドリーに迫れるのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
ジーコの常勝スピリットを受け継ぐ小笠原満男(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

12月8日、横浜。クラブワールドカップ開幕戦で、「Jリーグ王者」鹿島アントラーズはオセアニア王者のオークランド・シティを2-1としぶとく打ち破っている。

鹿島はJリーグ終盤の連戦の疲れか、判断が鈍く動きに精彩を欠き、先制を許す。しかし後半、相手に疲れが見えてきたところを見逃さず、右サイドを中心に何度も崩して同点に追いつくと、一方的な展開に。最後は後半途中に投入されたエース、金崎夢生がヘディングで逆転弾を放り込んだ。これぞ、「常勝・鹿島」と言われる隙のなさか。

鹿島がJリーグ王者の称号を得たのが、チャンピオンシップ決勝だった。浦和レッズと2戦合計2-2も、アウエーゴールにより、逆転で勝利した。年間勝ち点1位の浦和こそがJリーグ王者に値する、という意見は真っ当で、目先の利益に目が眩んだ大会運営の問題が噴出した形になったが、王者を決めるチャンピオンシップで鹿島が勝者になった事実は正当に讃えられるべきだろう。劣勢の中で勝利を諦めない不屈さは、感嘆すべきものがあった。

「勝者のメンタリティ」

それは鹿島が歴史の中で培ってきたアイデンティティだ。

J王者として参加するクラブW杯、鹿島は「武名」を世界で高められるのか?

ジーコというスピリット

91年春、ジーコがJSL2部にいた住友金属工業蹴球団に入部したことが、「鹿島のはじまり」といっても過言ではない。それまでは、工場で働く社員たちがボールを蹴るアマチュアクラブだった。わずか3年半のプレーだったが、Jリーグが開幕するといきなり覇権を争い、一人前のプロクラブへ変貌。「神様」とさえ呼ばれる伝説的ブラジル人選手、ジーコの意志が血と肉と骨とスピリットを住金に与え、常勝アントラーズが生まれた。

鹿島の鈴木満強化部長はプロとして戦うための環境づくりに奔走する中、神様の洗礼を受けている。緊張で朝4時に目覚めてしまい、ストレスから十二指腸に潰瘍ができたほどだった。

「なぜゴールネットが緑なんだ?」。ジーコが怖い顔で言う。

「ナイロン製で丈夫なので」。おずおずと答える。

「パッとゴールを見たとき、選手は白いネットのほうがプレーのイメージがしやすい」

「そういうもんでしょうか」

納得できずにいると、豪雨の落雷のようなすさまじさで、ジーコが早口で捲し立てる。

「そもそも試合で緑のネットを使うか? 観客は白いネットにシュートが突き刺さり、ふわっとする瞬間を愉しみに来ている。それも知らないのか!」

鈴木強化部長は当時の様子をこう振り返っている。

「ジーコは、"プロのクラブとして勝つためになにをすべきか"の意識づけを考えていました。住金はプロクラブに変わる必要があったんです。『プロは地域やファンのためにも、勝ち負けにこだわれ』と繰り返し言っていました」

ジーコは負けることを忌み嫌った。遠征試合で負けて戻るバスでのことだ。座席後方から笑い声がしたとき、最前列に座っていたジーコが怒り心頭に発して声を荒げた。

「お前ら、負けてなにをへらへらしている!」 

噛みつきそうな勢いで駆け寄ると、顔を紅潮させて言った。バス内はお通夜のように黙り込んだ。以来、敗戦後のバスで無駄口を叩く者はいなくなった。

ジーコによって、鹿島は発足したJリーグでいきなり熾烈な優勝争いを演じている。勝者のみが正義。その厳格さが選手を鍛えてきた。バーの下に当たったボールが、ラインの中に入るか、外に出るのか。くじを引くような運命を、つかみ取れるようになっていった。その結果が、Jリーグ史上最多となる8回目のリーグ優勝だ。

勝者の流儀=マドリディスモ

クラブW杯で優勝候補筆頭と見られる欧州王者レアル・マドリーにも、ジーコに相当する"創始者"がいた。

「アルフレッド・ディ・ステファノこそが、マドリディスモ(マドリーの勝者のDNA)を創造した主だ」

80年代から90年代にマドリーのスター選手として活躍したミチェルは語っている。

ディ・ステファノが1953年に入団するまで、実はマドリーは平凡な首都のクラブだった。平凡というのは、タイトルにほとんど恵まれていないという意味である。ディ・ステファノの入団によって勝利を重ね、やがて敵を畏怖させるような神々しさを放つようになった。ディ・ステファノ時代だけで8度のリーガエスパニョーラ優勝、5年連続のチャンピオンズカップ優勝を達成。ちなみに現行のチャンピオンズリーグになってからは、連覇をしたチームすら存在しない。ディ・ステファノを旗手にしたマドリーがいかに無敵を誇ったか――。その凄みが伝わるだろう。

マドリーは今や最多11度の欧州制覇を達成している。勝利の精神は崇高なものになった。多くの選手が、白いユニフォームに袖を通すことを夢見るほどだ。

「マドリディスモを胸に戦うことで、選手は自分以上の存在にしてもらえる。宗教じみている?そう言われたら、その通りかもね。それほどにクラブそのものが、神格的存在なんだ。選手はマドリディスモという方舟に乗せてもらえる。そして、力を与えてもらえるんだ」

ミチェルは言うが、マドリディスモとは信心であって、感覚的なものであり、目にすることはできない。しかしそれを胸に戦い、勝利をつかみ取った選手は実感できるという。勝者の歴史がまた強く脈を打つことになるのだ。

鹿島はマドリーに太刀打ちできる戦力はない。勝ち目は薄いだろう。しかしジーコ以来、培ってきた勝者のメンタリティが、彼らを負け犬に貶めることはない。怯まずに戦い続ければ、ほんのわずかでも隙が生まれることを心得ている。

鹿島がマドリーと戦うためには、決勝進出が条件。準々決勝でアフリカ王者マメロディ・サンダウンズ、準決勝で南米王者アトレティコ・ナシオナルを下す必要がある。その道は険しい。しかしジーコの意志を継ぐ者なら、どんな手段を使っても、勝利するために諦めることなく戦えるはずだ。

「クラブは家族」

ジーコは一丸となって戦うことを、常勝の信条としている。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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