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石垣ハロウイン 海で拾ったプラゴミでオバケになろう 美しい島を未来に繋ぐためのアイデア続々

海南友子ドキュメンタリー映画監督
石垣で拾ったカラフルなブイとペットボトルキャップで作った飾り(撮影:海南友子)

 今年で4回目を迎える「石垣ハロウイン」は、石垣島の海岸に漂着した海洋プラで着飾るとびきりユニークなイベントだ。キャッチフレーズは、「拾ったゴミでオバケになろう!」 今年は10月26日(土)に石垣市の中心部にあるユーグレナモールで開催され、70人を超える子どもたちが参加した。漁具などの海プラを、帽子やベルトに見立てて着飾った子どもたちは、お土産屋さんやアパレル店などでキャンディーをもらいながらパレードをし、さらに歩きながら周辺のゴミ拾いまで行った。

帽子は漁業で使われていた海プラ。腰みのはブイで作った(撮影:柿本悠希)
帽子は漁業で使われていた海プラ。腰みのはブイで作った(撮影:柿本悠希)

 小学生の息子が参加した母親は「海プラで仮装というのがユニークで面白かったです。」参加したちびっこからは「意外に街にゴミがたくさんあるのがびっくりした」と声が上がった。パレード終わりには、毎朝、行列ができる人気のカフェ・クラッチコーヒーから「特製オバケドーナツ」が提供され、子供達は美味しそうに頬張っていた。

 このイベントを主催しているのが田中秀典さん。(通称ヒデさん) 「石垣島で1500日プラごみを拾い続ける男の奇跡 企業などのオファーが続々 海洋プラ解決の未来(1)」として、今年8月のYahoo!ニュースの拙記事にも掲載した。彼が仕掛けているのは「楽しみながら参加してもらう仕組みで、美しい石垣の海を未来に繋げること」だ。

 ヒデさんが石垣ハロウインを企画したのは、「渋谷のハロウインが、翌日にゴミだらけになるのを見聞きして、石垣でハロウインをするなら、ゴミを増やさないスタイルでできないかと思ったのがきっかけです」

ヒデさんは全身を青く塗り海坊主の仮装。拾った魚網と黒い浮き輪で着飾った。頭には、割れたまま流れ着いた容器にペットボトルなどを合体させた被り物。当日の朝、早起きして完成させた。(撮影:柿本悠希)
ヒデさんは全身を青く塗り海坊主の仮装。拾った魚網と黒い浮き輪で着飾った。頭には、割れたまま流れ着いた容器にペットボトルなどを合体させた被り物。当日の朝、早起きして完成させた。(撮影:柿本悠希)

◉ビーチで拾った宝物で仮装するのが石垣スタイル

 石垣ハロウインの1週間前、ヒデさんの呼びかけでハロウインの素材集めのビーチクリーンが行われた。普段はあらゆるゴミを拾うのだが、この日はあくまでも仮装の素材が目的だ。いつもなら拾うゴミには目もくれず、色が綺麗なものや、衣装に使えるおもしろい形のものだけを探した。ピンクやオレンジなどレアな色のペットボトルのキャプなどは競い合いで、我先にと拾っていた。スイカぐらいのサイズのオレンジ色のブイは、大きさも色もかぼちゃのオバケ「ジャック・オ・ランタン」によく似た雰囲気。真っ先に拾った人から、「めちゃくちゃいいの見つかった!」と声が上がる。ハロウインの実行委員のやよいさんは、「普段拾っているのはいわゆるゴミですが、仮装の素材を拾うとなると、急に宝探しの気分になるんです。」

ハロウインに使える宝物を探すために集まった石垣島の人びと。手前に並べたオレンジ色などのブイはまるでハロウインのカボチャみたいだ。(撮影:柿本悠希)
ハロウインに使える宝物を探すために集まった石垣島の人びと。手前に並べたオレンジ色などのブイはまるでハロウインのカボチャみたいだ。(撮影:柿本悠希)

この日も30分でたくさんの海ゴミを拾った。掛け声は「ナイスクリーン!」参加者が楽しそうな笑顔だったのが印象的だ。(撮影:柿本悠希)
この日も30分でたくさんの海ゴミを拾った。掛け声は「ナイスクリーン!」参加者が楽しそうな笑顔だったのが印象的だ。(撮影:柿本悠希)

◉観光客でも気軽に楽しく参加できる「石垣ナイスクリーン」 目印はピンク色の袋

 ハロウイン以外にもヒデさんが仕掛けている「楽しい活動」はいろいろある。その一つが、2024年から9月から始まった「ナイスクリーンプロジェクト」だ。観光客が気軽にビーチクリーンの活動に参加できる仕組みで、ピンク色のリーフレットが目印だ。なかにピンクの小さなゴミ袋が入っている。石垣の海で遊んだついでに、少しだけ海を綺麗にしてもらい、専用の回収ステーションにゴミを持ち込むシステムだ。参加するには島内のホテルやカフェに置かれているピンクの「ISHIGAKI ナイスクリーンプロジェクト」のリーフレットに封入されている専用ゴミ袋を使う必要がある。持ち込むと感謝状と、石垣島のデザイナー8名による素敵なオリジナルステッカーがもらえる。回収ステーションは10月31日現在で島内に10ヶ所にあり、西表島などに向かう石垣島の交通の要所である離島ターミナルをはじめ、持ち込みしやすい場所に置かれている。

カヤックなどのサービスをするマリンショップ・ジェリーフィッシュに設置された回収ステーション。外国人のお客様の持ち込みも多い。(撮影:縄文企画)
カヤックなどのサービスをするマリンショップ・ジェリーフィッシュに設置された回収ステーション。外国人のお客様の持ち込みも多い。(撮影:縄文企画)

石垣在住の人気デザイナーやショップオーナーがデザインした特製ステッカー。ピンクのゴミ袋を一袋で、一枚ゲットできる。8枚コンプリートすると別のお楽しみがもらえる予定だ。(撮影:縄文企画)
石垣在住の人気デザイナーやショップオーナーがデザインした特製ステッカー。ピンクのゴミ袋を一袋で、一枚ゲットできる。8枚コンプリートすると別のお楽しみがもらえる予定だ。(撮影:縄文企画)

◉石垣市の助成金で実現 目標は年間120万人の観光客の1%の参加

 ヒデさんは2020年から1500日以上連続して、石垣の海で海洋プラを拾っているが、拾っても拾っても翌日には新しいゴミが来てしまうことに悩んでいた。より多くの人にこの事実を知ってもらうことが、解決につながると考え、一人で100個を拾うより、100人が一つずつ拾う機会を作りたいと考えていた。1年以上前からこのプロジェクトを考えていたが、資金の問題もあり踏み出せずにいた。

 しかし、今年、石垣市の「第2回石垣市市民まちづくりプラン助成金交付事業」に選定され予算の目処が立ったことで実現に漕ぎつけた。助成金交付事業を担当した石垣市役所の企画政策課の遠藤孝典課長補佐は、「たくさんの応募がありましたが、石垣の市民の代表で構成される選定委員会で厳正な審議を経て、本プロジェクトが選出されました。観光客の方にも参加していただき、石垣の綺麗な海やサンゴを守ることにつながることを期待しています。」

 石垣市役所の環境課の上野哲男課長は、「海洋ゴミは、石垣島を含めて八重山諸島全体で年間800トンあります。毎年ボランティアが集めてくれますが、実際には全体の9割は処分できていない。ヒデさんのような活動が広がって「自分にはこれができる」と多くの方に参加してもらえたら意義がある。沖縄県の2023年の調査では、海ごみの発生元は、中国、韓国、ベトナムなどの東南アジアからが多く、他国のゴミを沖縄の自治体が負担して処分している状態です。地方自治体だけでは解決できず、国レベルでの交渉も必要となります。一方で、日本のペットボトルなども海に流れ着くため、観光客にも街中にゴミを捨てないように呼びかけたい。」

 「ISHIGAKI ナイスクリーンプロジェクト」でヒデさんが目指しているのは観光客の1%が参加してくれることだ。「石垣にきて綺麗な海で遊んで、楽しんだお返しにちょっとゴミを拾って帰るのが当たり前になったら嬉しい。」

 人口5万人の石垣に訪れる観光客は、年間およそ120万人。1パーセントが参加しても1.2万人となるため島にとっては大きなインパクトになる。回収ステーションのゴミの一部は、ヒデさんが手がけるアップサイクル事業で別の商品に生まれ変わる予定だ。

 深刻さを増す海洋プラ汚染。2024年11月には国連環境計画の国際会議が韓国・釜山で行われ、国際的な海洋プラの規制について話し合われる予定だ。2050年には海で暮らす魚の容量より、海洋プラの容量が多くなると言われている中で、残された時間はあまり多くない。世界有数の透明度を誇る石垣の海。美しい海を未来に繋げるためには、地元の方たちだけでなく、観光客も参加して、根本的な解決には何が必要かを皆で考え実行する必要がある。 

ドキュメンタリー映画監督

71年東京生まれ。19歳で是枝裕和のドキュメンタリーに出演し映像の世界へ。NHKを経て独立。07年『川べりのふたり』がサンダンス映画祭で受賞。世界を3周しながら気候変動に揺れる島々を描いた『ビューティフルアイランズ』(EP:是枝裕和)が釜山国際映画祭アジア映画基金賞受賞、日米公開。12年『いわさきちひろ〜27歳の旅立ち』(EP:山田洋次)。3.11後の出産をめぐるセルフドキュメンタリー『抱く{HUG}』(15) 。2022年フルブライト財団のジャーナリスト助成で米国コロンビア大学に専門研究員留学。10代でアジアを放浪。ライフワークは環境問題。趣味はダイビングと歌舞伎。一児の母。京都在住。

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