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中年ゲーマーにも優しい「ドラクエウォーク」三つの魅力 「ポケモンGO」研究し親切設計

河村鳴紘サブカル専門ライター
「ドラゴンクエストウォーク」のロゴ=スクウェア・エニックス提供

 「ドラクエ」の愛称で知られるスクウェア・エニックスの人気ゲーム「ドラゴンクエスト」の新作スマートフォン用ゲーム「ドラゴンクエストウォーク」のサービスが12日から始まり、ダウンロード数が早くも500万を突破する人気となっています。これまでの「ドラクエ」シリーズをほぼプレーし、「ポケモンGO」を遊んだ経験を踏まえ、「ウォーク」を実際に遊んで感じた三つの魅力、そして課題に触れてみます。

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 私はこれまで、「ドラクエ」シリーズの“生みの親”の堀井雄二さんの取材をしたことが何度かありました。そこで感じたのは、堀井さんが初心者目線でゲーム作りに取り組んでいることでした。普通のゲームクリエーターは、斬新で画期的なアイデアを盛り込んで勝負する傾向にありますが、堀井さんは、そのアイデアが初心者に理解しづらいと判断すれば見送るすごさがありました。その取捨選択の的確さが「ドラクエ」シリーズを大ヒットさせたわけですが、その堀井さんが「ウォーク」の発表会で自ら登場し、「ポケモンGO」に影響を受けたことを素直に認めながらも、それ以上のゲームを作ってみせるという意欲を見せていましたから、「ウォーク」がどんなゲームになるか注目していました。

 「ウォーク」で感じた一つ目の魅力は、無課金のプレーヤーでも楽しく遊べることでしょう。ベータテストでは賛否両論あったのですが、実際にプレーしてみると、レアアイテムをコンプリートするようなこだわりがなければ、課金をしないとゲームに行き詰まることはなさそうです。丁寧に「推奨レベル」なるものが表示されていますし、戦闘も手動・自動を自在に切り替えられ、「ガンガンいこうぜ」などの「さくせん」も健在。装備なども面倒なら自動で設定できます。戦闘とアイテム収集を自動化したシステム「ウォークモード」も“歩きスマホ”の防止になるだけでなく、相当使えるというのが率直な感想です。

 二つ目の魅力は、1回に歩く距離の長さを短くし、プレーヤーのハードルを低くしていることです。「ウォーク」は位置情報ゲームなので、歩くことが必須です。ゲームのメインコンテンツ「クエスト」では、プレーヤーが都度目標場所を設定するわけですが、距離は最短150メートル程度、長くても500メートル程度のようです。「ポケモンGO」を遊んだとき、目的の一つはポケモンのタマゴをふ化させることでしたが、そのためには最低2キロは歩いていましたから、かなり違いますね。

 またメインのクエスト以外にも、サブで初代ドラクエのストーリーを追体験できる「ストーリークエスト」なども用意されています。初代ドラクエをやった人は懐かしいでしょうし、知らない人はドラクエのストーリーを知るきっかけになります。コンテンツのボリュームアップ、ファンの掘り起こしも兼ねた仕掛けですね。

 三つ目の魅力は、「ポケモンGO」で指摘され続けている“地域格差”の問題が、「ウォーク」では改善されていることです。「ポケモンGO」は地方でプレーすると、都会に比べてアイテムを取得する「ポケストップ」などが少ない上に、モンスターの出現率や質も悪く、改善は進めているもののプレーヤーの議論になっています。「ウォーク」に関しては、モンスターも地方であってもしっかり出現します。ゲームを進める上で困ることは、少なくとも現段階では感じません。

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 つまり「ウォーク」の魅力は、“先輩”の「ポケモンGO」を研究、その弱点の解消に努めながら、手軽さを追求していることです。堀井さんの手掛けるゲームは、徹底的な初心者目線の追求にあることは最初に触れましたが、「ウォーク」でも徹底されています。初心者ゲーマーはもちろん、私のような日常的に運動不足に悩み、ものぐさな中年ゲーマーでも、無理をせずに遊べる優しい仕様なのです。

 もちろん課題はあるでしょう。やり込みたいと思える要素が少ない、課金しないと強いアイテムが取れないという意見もありますね。

 ただそもそも、「ドラクエ」シリーズの“哲学”は、「誰でも理解でき、努力すれば確実に強くなって、エンディングにたどり着ける」という、ゲーム弱者の視点で作られています。無料のスマホゲームの場合、優先されるのは課金ユーザーに対してであって、一生懸命遊んでも無課金であれば、後回しにされるのは仕方ないところでしょう。また課金要素があまりにも薄いと、そもそもビジネスとして成立しません。ビジネスモデルの構築、課金のさじ加減は腕の見せどころで、失敗すればファンが離れるだけのことです。それは他のスマホゲームも抱える“宿命”と言えます。

 残念なのは「ドラゴンクエスト」が日本での圧倒的な知名度とは反比例して、欧米では今一つなので、世界展開が望みづらく、「ポケモンGO」のようなビッグビジネスにならないことでしょうか。発表時にもスクウェア・エニックスが「海外展開は今のところ考えてない」とコメントしています。ただしビジネスモデルは「ポケモンGO」の方が上でも、遊ぶプレーヤーへの配慮があるという意味では当然ながら“後発組”の「ウォーク」が上というのが率直な印象ですね。そして、位置情報ゲームで得たノウハウが、今後のゲームに生かされることを期待しながら、私も「ウォーク」を楽しみたいと思います。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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