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「AIに落とされる?」就活にテクノロジー化の波が到来【碇邦生×倉重公太朗1/4】

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは、大分大学経済学部講師の合同会社ATDI代表、碇邦生さんです。2015年から人事系シンクタンクで主に採用と人事制度の実態調査を中心とした研究プロジェクトに従事。17年から大分大学経済学部経営システム学科で人的資源管理論の講師を務めています。国内外の採用や人材育成の事例に詳しい碇さんに、「コミュニティー採用」「新卒対応」「人材育成」という3つの軸でお話を伺いました。

<ポイント>

・現代の「採用」で起こっている一番大きな変化とは?

・「ほしい人材」の採用には、コミュニティーを利用する

・素晴らしい経営者と素晴らしい雇用主は別

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■採用・キャリア・人材育成を研究する

倉重:今回は大分大学の経済学部から、碇邦生さんに来ていただいています。よろしくお願いします。人事領域の発信もすごく多いですね。経済学部でありながら人事というのは、これは理由があるのですか?

碇:元々は経済学部という名前ですが、学問分野としては3つあります。

なぜ3つかあるかというと、大分大学の成り立ちとして、小樽商科と同じような戦前の商科高等学校から始まっているのです。

 大分師範学校が一緒になって、教育学部と経済学部が初めにできました。地方の大分、九州の経営人材、あとは経済を賄うための官僚のリーダーを育成するためにつくったのが、元々の成り立ちです。ですから「地元の経済界のリーダーを育てよう」というところが、ミッションになっています。

倉重:経済学部の中に代々人事領域を研究する部門があるのですね。碇さんは元々、リクルートグループにいらっしゃったのですよね?

碇:大学に来る前はリクルートにいました。そこでは主に採用と、上場企業の人事制度の実態調査、海外の人事関係の動向をレポートにまとめたりしていました。

倉重:元々アカデミックには、行きたいと思っていたのですか。

碇:あまり思っていませんでした。大学院に進学した理由は、外資企業に入った時に周りの人たちがみんなMBAを持っていて、自分のレベルの足りなさをひしひしと感じ、「レベルアップしなければいけない」と思ったのです。

 2年で辞めるつもりだったので、大学院にいる間、ビジネスプランコンテストに挑戦して優勝するなど、他のことばかりをしていたのです。そうしたら先生から「博士まで来ないか」と誘っていただけて、面白そうだと感じたので進みました。

倉重:世の中分からないものです。その後リクルートワークスから転職されて、大分大学で、現在研究されているのは、どのようなことですか。

碇:主に2つの軸を持って研究しています。

1つは地方から人を元気にさせることです。「新規事業開発はどのようにして生み出せるのだろうか」と考え、人材マネジメント面や心理学、組織行動論の学術知見を使って育成しています。

 もう1つは、リクルートの時からの延長線上で、採用・キャリア・人材育成です。どのように企業が人を採ってきて育成するのか。シニアのキャリア活動をどうするのか。人が入って活躍してトレーニングを積んで、最後に退職してもらうまでの一連の流れを見ながら、研究しています。

■採用のシーンに起こっている3つの変化

倉重:前職の業務もありますし、採用はご専門の1つでしょうね。

今回は「コミュニティー採用」と「新卒対応」「人材育成」という3点について伺いたいと思います。今採用の在り方はどのような感じで変化しているのですか?

碇:採用の在り方の変化でいくと、一番大きな変化はテクノロジー化です。採用のテクノロジー化はこれまでも何度かあるのですが、第3の波が来るだろうと思っています。

倉重:第1と第2の波があったのですか。

碇:第1は、まず求人広告のインターネット化です。世界的には95年から、日本だと96年から始まっていました。2つ目の変化は、面接のウェブ化です。世界的には結構早くて、2000年代初めぐらいからスタートしています。Skypeが出始めてからすぐですね。最初に取り入れたのは、大学の留学生などの面談試験です。

アメリカは広いので、違う州の人を呼ぼうと思ったら、違う国から呼ぶのと同じくらい大変なのです。

倉重:第3の波は何ですか?

碇:第3の波がAIの活用です。

1番と2番の変化によって応募がしやすくなったので、たくさん人が来るようになってしまいました。そうすると、人事が仕事に追われて忙しくなってしまうのです。本当に効率を上げるのであれば、1つの応募にドンピシャの人が1人だけ来てくれるのが理想的です。

 どのようにして理想に近づけるのかと言ったら、スクリーニングをAIにしてもらって、絶対あり得ない人たちを落としてもらうことです。世界的にはそういう方向に変わっていっています。

倉重:確かにソフトバンクなども、AIを使ってエントリーシートを見ています。通す場合はAIで、落とす場合は人もチェックしているようです。

碇:あれも結構難しいようです。研究調査をしていると、落とされる時はAIのほうが精神的なダメージは少ないらしいです。ただ、倫理的には人が見て落としたほうがいいので、その辺のバランスによるのでしょう。世界的には人ではなくAIで落とすほうが主流になっている感じがします。

倉重:就活サイトなどによって大量申し込みができるようになったため、何千、何万というエントリーが来てしまっています。見るだけで精いっぱいだし、「学歴で取りあえず切ってしまおう」という本末転倒な感じになってしまっています。

碇:フランスなどは思いっきり学歴で切ってしまうので、そのような意味では日本は比較的優しいのです。

倉重: 選考手法として、AI以外にもより採用企業にマッチするような採用手法が広がっているのですか?

碇:一昔前だと適正検査は、SPIと玉手箱ぐらいしかなかったのですが、今は増えています。テクノロジーを使うことができて、判断ツールがすごく増えているので、いろいろな側面から人を測定し、評価ができます。

 海外で増えているのは「ワークサンプリング」と言われる、実際の仕事と似たような状況を作り出すことです。例えばコンサルティング会社だと、実際に近しい案件を1つポンと渡して、「今から1時間あげるので提案書を作ってください」とオーダーします。1時間で作ったものを30分ぐらいかけて資料でプレゼンしてもらって、その人がきちんと提案できるのかを見抜きます。

倉重:碇さんのnoteにも書いてありましたが、ヨーロッパなどでは、インターンで実際のワークに近いことをしてもらって評価される面があるのですか?

碇:新卒だとそうです。採用力がある会社は「新卒採用はインターンシップ以外しません」と、言い切っているところも多いのです。

倉重:その分、ヨーロッパにおける学生時代のインターンシップは、ブラック労働ではないかという指摘もあるようですが、日本の場合はどうしたらいいのでしょうか。「インターンは選考に使いません」と言っているところが、ほとんどではないですか。

碇:例えば、グローバル化の進んでいる大手メーカーでは、インターンシップの参加者から、いい人に声を掛けて最初からキャリアを変える動きもでています。欧米での海外現地法人やM&Aで一緒になった海外企業では既に行っていることなので、世界的に見れば当たり前のコースです。グローバル企業は、そうなっていくのではないかと思います。

倉重:ジョブ型採用のような感じに近いですね。一人ひとりに時間をかけて、より業務に近いことをしてもらうスクリーニングは、かなり見極めは高くなっていくと思います。

■「ほしい人材」を採用するために人事がすべきこと

倉重:マッチしそうな母集団をどのように集めるかという問題があります。

碇:学術のほうではかなり前から言われているのですが、母集団は作らなくなると思います。

そもそも母集団をつくるには理由が2つあるのです。

一番伝統的な考え方は、「育成できないから、母集団をつくる」というものです。要は誰が入っても育成できる自信があれば、誰を採用しても構いません。採用と育成はトレードオフなので、育成をその分頑張ればいいのです。でも、育成だけではカバーできないから、多くの応募者を集めて、そこから選考します。

倉重:とはいえ、誰を採ってもいいわけではありませんよね。

碇:「育成できないところ」だけを見るのです。そこを見抜くためには「2ステップを踏もう」と言っています。

1つ目のステップは求人の段階で、「欲しい人材しか来ないようなもの」を作ります。

例えば、お酒屋さんでビジネスをやろうと思う時に、お酒を大々的に広告に出すと、お酒が好きな人しか来ません。

「お酒が苦手でも、マーケティングができる人が欲しい」というときは、あえてお酒を全面に出さないことで、「お酒は飲めないけど、自分のマーケティングの専門性は食のビジネスだと活かせそうだな」という人が引っかかってきます。広告の出し方一つでも、誰が応募してくるかコントロールできます。

 自分たちが欲しい人たちだけを誘引するようにメッセージをだすことを「シグナリング」といいます。

倉重:どのような人が欲しいのか逆算して、求人の伝え方を考えるのですね。

倉重:2つ目のステップは何ですか?

碇:2つ目は選抜です。できるだけ自分たちが「育てられないところ」を中心に、選抜の項目の内容方法をデザインしていきます。

 そうすると、面接で普通に聞くこと以外の選抜方法が取られてきます。すごく大変なので、AIなどで負担を減らしたり、そもそも母集団をつくらないようにしたり変えていくことです。

碇:その後の選抜で重点的に育成できないところを評価する面接項目を作ります。宇宙飛行士ではわざとエマージェンシーシートのようなものを渡して、トラブルを起こすのです。

 面接の最中などに疑似的に火災を発生させたりして、どう対応するのか見ます。あとはスペースシャトルが爆発した事故の遺族の方と会わせて、その時の反応を見てみたりします。「危機的状況で彼はきちんと冷静に判断できるか、対応できるか」を確認するのです。

倉重:危機対応能力のある人を採用したい場合はそうするのですね。

碇:日本では三幸製菓さんが頑張っています。新潟に会社があるのですが「そもそも新潟に行くのが嫌です」という人が内定に残ることが結構あるのです。

倉重:「なぜ応募したんだ」という感じですね(笑)。

碇:総合商社でも、海外に行きたくないのに求人に申し込む人がいます。手当たり次第に食品関係の会社に応募して、新潟の会社から内定をもらっても東京の会社に入ってしまうということが多々あります。

そこで新潟採用枠を作ったり、「ハッピーパウダーをどうしたいか」というふうに商品を軸にしたりして採用しています。「そもそもうちに来たい人しか、申し込まない」という形にするのです。

倉重:わざと自分の会社にしか通用しないような課題や論文を書かせるような会社もあります。コピペで提出できないですからね。そのようにスクリーニングすることで、いかにミスマッチを減らすかは大事ですね。

■「ほしい人材」を採用するために会社がやるべきこと

倉重:1つ目のシグナリングは、「このような人に来てほしい」という発信をするという話でした。求人広告を出すだけではなく、コミュニティーをつくる話になっていくのですか?

碇:そもそもなぜ母集団が必要かといったら、誰がふさわしい人か分からないから、全員見たいのです。これが母集団を作る2つ目の理由です。

昔は全ての大学にリクルーターを送り込んで、大学の前で良さそうな人がいないか探すという人海戦術をしていました。

あらかじめ誰が欲しいのか分かるのであれば、彼らが生息しているところに行けばいいのです。人事の人たちは自分たちが欲しい人たちが誰なのかを知り、コミュニティーがあるところに自分から出向いていくことが必要です。

倉重:例えば、どのようなコミュニティーが考えられますか。

碇:ポピュラーな例として、エンジニアはGitHubを使います。GitHubでプロジェクトをあげている人で、「このプロジェクトがいいね」と評判になっている人がいます。

 この人とつながっておき、行動を追って行きます。プロジェクトが一段落して「次にどうしようか」と探している時が、一番声を掛ける時のベストのタイミングなのです。

この時に「うちに来てくれませんか」と声を掛けると、チーム丸ごと来てくれたりします。

倉重:確かにGitHubは、エンジニアとして何をしてきたのかがデジタルで可視化されていて追いやすいですよね。日本の場合だと、一般的な新卒に関してはどのようなアプローチが考えられますか。

碇:日本で最近多いのは、ツイッターです。ツイッターで発信していて「私はこの人のファンになった」という人にアプローチをして、一緒に働いてくれませんかというケースは、非常に増えています。

倉重:「○○採用担当」のようなアカウントは増えていますか?

碇:増えています。一番効果的なのは社長です。例えば、とある大手ECサイトを創業する時に、ツイッターで知り合った人に声を掛けて、人事の責任者になってもらったという話をしていました。

私も今年会社をつくりましたが、その時に手伝ってもらった1人は、SNSで知り合ったメンバーです。たまたまSNSを見ていて面白いと思っていたら、大学の後輩でした。

 「会社をつくるので手伝ってくれないか」と話をしてみたら「面白い、一緒にやりましょう」という返事がもらえたのです。正式なメンバーとしてジョインはしていないのですが、アドバイスなどで提携してもらうという協力関係を作っています。

倉重:よく企業が採用に関してツイッターを見たりするというのは、学生も分かっているので、表アカウントで意識高い系の発信をしてみたり、ボランティアをしてみたりするのです。最近は裏アカまで調べるサービスもあるようです。

そのようなものではなく、お互い本音で交流ができて、価値観が合う人がいいなと思った中から採用する感じですか。

碇:何度かやりとりをして、「この人なら大丈夫だ」と思えるところまで信頼関係を作らなければいけません。私も声を掛けた時、2回ぐらいオンラインで勉強会を一緒にしています。だから彼は平気だろうと、声を掛けました。

倉重:普段からいろいろなツイートをしたり、コメントをし合ったり常に絡んでいないとできませんね。

碇:オンライン上で自分の個人ブランドを立てることは、非常に大事です。

倉重:社長が採用に使いたいからと、最近YouTubeやTikTokをしているベンチャーもありますね。やはり社長の名が売れていると入りたい人が増えるのでしょうか?

碇:これは学術的にも言われています。「エンプロイヤー・ブランディング」と言うのですが、雇用主としてブランドが立っていることは非常に大事です。会社でもいいのですが、一番いいのは経営者です。

 素晴らしい経営者はたくさん世の中のメディアに出てきますが、この人たちが果たしていい雇用者かどうかは分かりません。例えばアマゾンはすごくいい会社で、創業者も非常に有名ですが、労働環境としてはあまりいいニュースが流れていません。

倉重:労働組合ができたりしました。

碇:Uberなどもそうですが、素晴らしい経営者と素晴らしい雇用主は別です。例えばザッポスの創業者のトニー・シェイは、経営者としても素晴らしいですが、雇用者としてのブランドのほうが立っています。

 あとは、ブラジルのセムコ・パートナーズ社のリカルド・セムラーもそうです。同社はグローバルに活躍しているすごい企業ではなく、ブラジルのローカル企業ですが雇用主としてのブランドが世界で評価されています。

倉重:雇用主として良いことを伝えるためには、どのようなことを発信すべきですか?

碇:一番ベターなのは、賞を取ることです。「働きがいのある会社ランキング」は、世界レベルだと、ほとんど日本の会社は入っていません。日本の会社は、国内だけの閉じている賞だけしかとっていないのです。

倉重:世界的な認証をとっている日本会社はあるのですか?

碇:日本だと、一時期スイスにあるJTの子会社のJTIや、富士通のイギリス法人だけが取っていたこともありました。

倉重:まだ少ないから、それを狙えたらすごく価値がありますね。

碇:母集団形成の難易度は業界によっても異なってきて、建築や小売、飲食、宿泊業は応募がなかなか集まりません。「たくさん人を採らなければいけない」という業界の会社さんは、こういったランキングに入っていると人が大勢来ます。誰もがブラック企業には入りたくありませんが、賞をとっていると「あそこは違うのだ」と思ってもらえます。

倉重:碇さんには企業の「働きがい」について認証する団体などをぜひ運営してほしいと思います。アカデミックの人がしたほうが権威はあります。

(つづく)

対談協力:碇 邦生(いかり くにお)

大分大学経済学部講師 合同会社ATDI代表 

2006年立命館アジア太平洋大学を卒業後、民間企業を経て神戸大学大学院経営学研究科へ進学し、ビジネスにおけるアイデア創出に関する研究を日本とインドネシアにて行う。

15年からリクルートワークス研究所で主に採用と人事制度の実態調査を中心とした研究プロジェクトに従事。

17年から大分大学経済学部経営システム学科で人的資源管理論の講師を務める。

22年に経営学の知見を社会実装することを目的として合同会社ATDIを創業し、教職に就く傍ら、大学発シンクタンクの代表も務める。

現在は、新規事業開発や組織変革をけん引するリーダーの行動特性や認知能力の測定と能力開発を主なテーマとして研究している。

また、起業家精神育成を軸としたコミュニティを学内だけではなく、学外でも展開している。日経新聞電子版COMEMOのキーオピニオンリーダー。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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