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9月1日に考える、自殺と子どもたちの逃げ道

平岩国泰新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)
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こちらは何のグラフでしょうか。

このグラフは

「18歳以下の日別自殺者数」です。

(内閣府「平成27年版自殺対策白書」より)

40年間のデータの集計です。

このレーダーのようなグラフで突出して高い日が「9月1日」です。

このことは昨年も話題になり、鎌倉市の図書館が下記のツイートを行い多くの人から賞賛を受けました。

同時に「9月1日」の問題が世間に広く知られました。

もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。

2015年8月26日 09:11

「不登校新聞」という媒体があります。

この新聞は「日本で唯一の不登校・ひきこもり専門紙」ということで、1998年に創刊されたそうです。

創刊のきっかけは下記の通りです。

1997年8月31日、2学期から学校に行くのをためらったと思われる子どもが焼身自殺。同時期に別の子が「学校が燃えれば学校に行かなくてすむと思った」という理由で学校を放火したという事件を受け、「学校に行くか死ぬかしかないという状況を変えたい」と願った市民らが新聞を創刊した。(不登校新聞HPより)

やはりきっかけとなったのは「9月1日」でした。

もう十何年も前からこの問題はあったのです。

文部科学省のデータ(学校基本調査)によると

小学校 2.6万人(前年度より2千人増加)中学校 9.7万人(前年度より2千人増加)の不登校の生徒がいます。

不登校の生徒が存在する学校の割合は、全小学校の47.8%・全中学校の85.5%となっています。

中学校では全生徒数の36人に1人が不登校という割合です。

「ほとんどの中学校に不登校の生徒がいて、1クラスに1人はいる」というような状況なのです。

不登校新聞の石井編集長に最近の状況をお聞きしました。

・不登校新聞は現在2,400部ほど発行、部数は継続して伸びている

・主な読者は不登校児童の保護者で2000年代に入って特に高校生・大学生の不登校生徒保護者の読者も増えてきた

・今まで1,000人を超える不登校経験者が紙面に登場、「1人じゃないんだ」と励まされた声が多い

・読者である保護者からは不登校に対するマニュアルやQ&Aを求められる(みんな対応に悩んでいる)

不登校の子どもたちもそして同時にその保護者も孤立している現状がうかがえます。

子どもたちの逃げ道はあるか?

私たちのアフタースクールは小学校内にある放課後の施設です。

放課後の準備のために、責任者などのスタッフは毎日午前中から出勤しております。

そうすると午前中に直接アフタースクールに登校する子がいます。

その子たちは学校は不登校気味にドロップアウトしかけているのですが、何となく楽しいアフタースクールに来るのです。

小学校の先生方とは相談し、「まずは家から出ることが大事」としていて、温かく見守ることにしています。

そのうちに授業に戻っていった子もいます。

ある女の子はクラスの輪にうまく入れず小学4年生で不登校になりました。

クラスのイベントに参加しなかったことが、その後も友達の輪に入れない大きなきっかけになってしまいました。

「小学校には行きたくないけど、アフタースクールでスポーツや遊びはしたい」ということでアフタースクールに直接登校するようになりました。

スタッフが準備をしている横で寝転んだり、時々話したりする程度ですが、それはそれで居心地が悪くはなさそうです。

この子は不登校になったと同時にお母さんと離れられなくなってしまいましたが、アフタースクールに来ている間だけはお母さんと離れることができています。

共に深く悩むお母さんにとっても私たちが相談相手となっています。

学校に戻ることを希望されていますので、無理のない範囲でこれからも少しずつ学校に戻っていくお手伝いをしたいと思っています。

夏休みが明けて学校に行きたくない子が命を絶ってしまう悲しい状況を考えると、「逃げ道の重要性」が思われます。

図書館もそうでしょうし、私たちのアフタースクールも困った子どもの逃げ道であり、言い換えるなら「セーフティネット」です。

色々と難しい状況にある子どもたちに「逃げずに頑張れ!」と言うか、「逃げ道もあるよ」と言えるか。

私たち大人も、短期決戦では「退路を絶って」という場面もあるでしょうが、日々頑張り続けるためには「逃げ道もある」という心の余裕を持ちながらの方が頑張り続けられるように思います。

週末や家族や友人というクッションがあるからこそ、毎日の仕事で戦い続けられるのではないでしょうか。

閉塞感だらけで世間の誰も味方してくれないように感じれば大人も子どもも追い込まれるのです。

9月1日だけで良いのか

ここでもう一つ思うのが警戒すべくは「9月1日」だけで良いのか、ということです。

多くの大人は、「9月1日が夏休み明けで8月31日に夏休みの宿題を追い込む!」というイメージがあると思います。

しかしながら、実は今この原則は必ずしも当てはまりません。

8月中に夏休みがあける学校が増えています。

参考までに東京23区で見ると、23区中下記の7区は8月中に小学校が始まっています。

<8月中に小学校が始まる区>

新宿区・江東区・目黒区・足立区・江戸川区(8/25〜)、豊島区(8/29〜)、渋谷区(8/30〜)

このように東京23区では3分の1が8月中に授業が再開されています。

そのようになってきた背景は、

・ゆとり教育からの揺り戻しで授業が増えたこと

・2期制(前期・後期)が一部導入されたこと

があります。

また北海道から東北にかけては、かねてから8月中に再開される学校が多いです。

また今年は熊本で、震災の遅れを取り戻すべく夏休みが短縮されたりもしました。

つまり警戒すべくは「9月1日」だけではありません。

実際に冒頭のグラフのデータによると自殺者の日別推移は(40年間累計数)、

8/28:61人 8/29:74人 8/30:62人 8/31:92人 9/1:131人 9/2:94人 9/3:82人 9/4:64人 9/5:77人

となっており、9/1前後も高い状況です。

残念ながら今年も実際に、8月19日に青森県の中学1年生の男子が、また8月25日にも同じ青森県の中学2年生女子が自殺と想像される事件のニュースが流れました。

象徴的に現れるのが「9月1日」なのですが、いつだって困っている子は存在していて、私たちは辛い状況にある子どもたちのセーフティネットをいつもどこかに用意してあげるべきです。

「9月1日」に対して、最も自殺の少ない日はいつでしょうか。

答えは「1月2日」21人です。

お正月前後は、外に出なくてよかったり、色々家族に支えられることもあり、年間で青少年の自殺が最も少ない時期になっています。

「多くの人で子どもたちを支える重要性」を感じる一方で、お正月にまで青少年が自殺している現状をなんとかしたいと思っています。

「9月1日」を前に、改めて社会全体で子どもを支え、セーフティネットを増やすことを考えていきたいと思います。

例えば、私たちのような放課後施設・学童保育が頑張れば午前中の子どもの居場所は作れると思います。

図書館や児童館もいいでしょう、塾も午前中は空いているし高齢者施設でも良いのかもしれません。

「どうぞいらっしゃい」と言ってくださる方々は掘り起こせばまだまだたくさんいると思います。

悩んでいるまた厳しい状況にいる子どもたちはどうかどうか歯を食いしばったり、妙なことを考えないで、心のセーフティネットとなる場所に行ってほしいと思います。

もしかしたらこれを読んでくださっている悩んでいる子へ

「遠く離れて、また見ず知らずの私たちかもしれませんが、悩んで苦しんでいる子どもたちを救いたいと思っている大人はたくさんいます。そして大人だって適当に逃げながら生きています。ですので、無理をしないでゆっくりやりましょう。皆さんのセーフティネットになる場所を増やしていけるように頑張りますからね」

新渡戸文化学園理事長/放課後NPOアフタースクール代表理事

1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員、2023年~教育長職務代理。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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