日本国内でサル痘の報告が急増 同じく増加している梅毒の皮疹とはどう違う?
2023年に入り、日本国内におけるサル痘の報告が増加しています。
また日本では梅毒の流行も深刻になっています。
どちらも皮疹が特徴であると言われていますが、サル痘と梅毒はどう違うのでしょうか。
日本国内でサル痘の報告が増加
日本では2023年に入り新たに診断されるサル痘患者が増加しています。
これまでに63例のサル痘の患者が報告されていますが、その大半が2023年になってから報告されています。
海外では減少しているのとは対照的に、日本国内では増加が懸念される状況です。
またサル痘と同様に性行為に関連して広がる梅毒も日本国内で流行しています。
梅毒は2010年頃までは年間数百例の報告数でしたが、2010年代以降は増加の一途をたどっており、2022年は12,964例と感染症法の施行以来初めて年間1万例を超えました。
2021年から比べると約5,000例の増加となっており、著しく増えていることが分かります。
いずれの疾患も皮疹が特徴と言われていますが、サル痘と梅毒の症状はどのように違うのでしょうか?
サル痘と梅毒の皮疹はどう違う?
サル痘は、古典的には発熱、頭痛、リンパ節の腫れなど先行する症状が数日持続してから皮疹が出現するとされています。
皮疹は顔面から出現して、全身へと拡大し、全身の皮疹がある一時点においてすべて同一段階の状態で、赤い発疹から水ぶくれ、そしてかさぶたになっていくというのが典型的とされます。
しかし、現在のサル痘の流行では、これまでに知られていた特徴と異なる症状も報告されています。
発熱、頭痛、リンパ節の腫れなど先行する症状がない症例も半数ほどあり、また皮疹の状態もそれぞれの部位で進み具合が異なる事例が報告されており、皮疹も特定の部位のみでみられることがあり、中でも肛門や生殖器の頻度が最も多く、体幹・四肢、顔、手のひら・足の裏などでもみられることがあります。
これまでの報告とは異なり、口の中の粘膜や直腸にも病変がみられることも特徴の一つです。
サル痘の皮疹は水疱という水ぶくれが見られることが特徴です。
通常赤い発疹から水疱になり、さらに水疱から、中に膿がたまる膿疱になり、それが破れてかさぶたになります。
これまでは水ぶくれの時期、かさぶたになった時期など様々な時期の皮疹が混在するのが水痘の特徴であり、サル痘や天然痘では全身の皮疹が均一に進行していくのが特徴とされていましたが、今回の流行ではサル痘でも様々な時期の皮疹が混在することがあるようです。
ただし、皮疹の部位が生殖器に多い、というのは今回の流行におけるサル痘の大きな特徴となります。
一方、梅毒は感染からおよそ1ヶ月後に感染した部位に潰瘍が現れます。
生殖器同士の接触により感染することが多いため、陰部に潰瘍が出現することが多いですが、口に現れることもあります。
この時期を一期梅毒と呼びます。
写真は口唇に現れた一期梅毒の潰瘍病変です。
この潰瘍病変に梅毒スピロヘータが存在するため、生殖器同士の接触だけでなく、オーラルセックス、キスなどによっても感染することがあります。
この一期梅毒の時期を放置しておくと、感染から1〜3ヶ月後に二期梅毒へと進展します。
二期梅毒は皮疹(皮膚のぶつぶつ)が手のひらや足の裏を含めて全身に出現したり、発熱、だるさなどが現れます。
典型的には、梅毒の皮疹は紅斑と呼ばれる赤い発疹です。
しかし、私も経験がありますが稀に梅毒の皮疹として水疱や膿疱がみられることがあります。
以上のことから、
・サル痘では生殖器に水ぶくれなどの皮疹が出やすい、梅毒では潰瘍が出ることがある。
・サル痘の皮疹は「赤い発疹→水疱→膿疱→かさぶた」と変化していく、梅毒では赤い発疹のままのことが多い
という違いがあります。
また疫学的には、サル痘は現時点ではほとんどが男性患者ですが、梅毒は男女ともに感染者が報告されています。また現時点では梅毒の方が感染者数は圧倒的に多い状況です。
どちらの感染症であっても医師の診断が必要ですので、疑わしい皮疹が出現したら病院を受診するようにしましょう。
また梅毒は無症状のこともありますので、特に複数のパートナーがいる方は定期的な検査が勧められます。
※サル痘は英語で"Monkeypox"と呼ばれていましたが、差別や偏見を助長する可能性があることから2022年11月に"Mpox"という名称に変更されました。これに合わせて日本国内でも「M痘」と呼ばれることがありますが、厚生労働省は現在も「サル痘」の名称を用いていることから本稿もこれに合わせてサル痘と記載しています。