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「対北制裁」でロシアは拒否権を行使したのに棄権に回った中国を金正恩政権はどうみているのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
訪中した金正恩総書記と握手を交わす習近平主席(朝鮮中央通信)

 国連安保理対北制裁委員会の専門家パネルが今月4月30日をもって閉鎖されることになった。

 国連安保理は毎年3月に専門家パネルの任期延長を採決してきたが、今年は北朝鮮と親密な関係にある安保理常任理事国のロシアが拒否権を発動し、専門家パネルの活動の延長を認めなかった。

 専門家パネルは安保理の対北朝鮮制裁委員会を補助し、制裁違反の疑いのある事例を調査する任務を帯びており、これまで年に2回、その調査結果を発表してきた。今年も3月20日に昨年7月29日から今年1月26日までの調査報告をまとめていた。その分量は実に615枚に上っていた。

 中身をみると、今回の報告書では初めて、ロシアによる制裁違反の疑いが明記されていた。

 ―衛星写真を分析した結果、ロシアの2隻の貨物船が昨年コンテナを積んで北朝鮮の羅津港とロシアのウラジオストクのドゥナイ港を行き来し、ウクライナ戦争に使われる北朝鮮製武器を輸送している疑いがある。

 ー衛星写真はコンテナの中は明らかにすることはできないが、コンテナがウクライナと国境を接している場所に弾薬を移送しているとの会員国の報告がある。ロシアの将校がウクライナ戦争で使用する北朝鮮の弾薬をSNSに上げた事実を会員国が報告している。

 ー西側のメディア報道によると、ウクライナの軍人らがロシアから奪ったものと推定される北朝鮮製多連装ロケットシステム(MLRS)をロシアが攻撃に使用したことが捕捉されている。

 ―(北朝鮮の対露武器輸出については)ある会員国が提供した情報に基づき疑惑を記述しただけで制裁委員会の次元では「制裁違反」との最終結論を下せないでいる。安保常任理事国のロシアが(北朝鮮との)武器取引を否定しているからだ。

 ロシアにとって制裁委員会の専門家パネルが目の上のたん瘤になっていることは明らかだ。今後も北朝鮮から武器の供与を秘密裏に受けるにはこうした監視機構を取っ払う必要があったことは疑う余地もない。専門家パネルの延長に拒否権を発動することは十分に予想されていたことだ。

 意外なのはロシアと並んで北朝鮮の後ろ盾となっている中国がロシアに同調せず、棄権に回ったことだ。

 中国は国連では常にロシアと行動を共にしてきた。

 北朝鮮が2019年からミサイルの発射を再開させ、この5年間にICBMを含め100発近く弾道ミサイルを発射し、その都度、欧米諸国が中心となって国連安保理を開き、北朝鮮を非難、懲罰しようと試みたが、中国はロシアと歩調を合わせ反対し、そうした動きを阻止してきた。

 そうした経緯からして、今回、中国もロシアと共に拒否権を発動するかと思いきや、棄権を選択していた。棄権とは意思表示をしない、即ち、反対でも賛成でもないという立場だが、この中国の姿勢を北朝鮮はどう受け止めているのかが気にかかる。

 中朝、又は中露朝で「ロシアは拒否、中国は棄権」で事前に意思の疎通が図られているならば問題はない。ロシアとは異なり欧米と関係を維持している中国の苦しい立場を理解しているならば、北朝鮮も棄権も止むを得なしと受け止めていることであろう。

 しかし、事前協議、若しくは了解なく、中国が棄権に回ったならば、また、北朝鮮が棄権を「背信行為」と受け止めたならば、今後の中朝関係に隙間風が吹くかもしれない。

 北朝鮮は2017年まで国連安保理の北朝鮮制裁に同調していた中国を「自尊心もなく、我が共和国の核と大陸間弾道弾ミサイルの発射にむやみに言いがかりをつけ、米国の制裁騒動に加わっている」と辛らつに批判していた。中国を「米国のかかし」とまで言い放ったこともあった。

 その後、2018年6月の米朝首脳会談を前に中国が金正恩(キム・ジョンウン)総書記を中国に招き、翌2019年には習近平主席が訪朝したことで関係が修復されたものの北朝鮮にとっての最重要国は中国からロシアにとって代わっていることは中国も薄々気づいている筈である。

 実際に、今年の新年の賀状の交換で真っ先に名前が挙げられていたのはこれまでとは違い、習主席ではなく、ロシアのプーチン大統領であった。

 今年は中朝国交樹立75周年の年(10月6日)である。金総書記は2018年以来、訪中していない。2018年の年は3月、5月、そして6月と立て続けに中国を訪れ、習主席と会談していた。

 中国は今月21日に訪中した党政治局員でもない金成男(キム・ソンナム)党国際部長を劉建超党対外連絡部長、党序列4位の王滬寧人民政治協商会議全国委員会主席、党序列5位の蔡奇党書記処書記、王毅中共中央外事事業委員会弁公室主任らが相次いで会うなど、歓待していたが、双方の報道の中に「金正恩訪中話」は出てないようだ。

 プーチン大統領が近々訪朝すると伝えられているだけに中国としても金総書記を北京に呼び、引き付けておきたいところだが、今回の「棄権」で金総書記がつむじを曲げるようなことがあれば、金訪中は見送られるかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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