「党幹部を殺すヤクザ」北朝鮮で大暴れ…金正恩も警戒
北朝鮮の社会安全省(警察庁)が、増加する一方の凶悪犯罪との「全面戦争」を宣言したとの話は本欄で既報のとおりだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えたもので、社会安全省は3月27日、「人民の生命と安全が深刻に侵害されている現実を絶対に黙過できない」とする布告文を発したという。
同省は近年、こうした布告を繰り返し出している。例えば2021年4月、「全国各地で殺人と強盗、強姦など凶悪犯罪がはびこっており、社会的不安を醸成している」「一部の前科者とヤクザ者が良からぬ考えから党幹部や行政幹部、安全・保衛要員を襲撃して殺人行為に至った」などとして、治安強化を指示する命令文を各地方に伝達した。
また、昨年2月にも、全国の道安全局(県警本部)、市や郡の安全部(警察署)に「集団による暴行、窃盗、強盗が憂慮すべきほど起きている」とし、社会的混乱を招き、民心を不安にさせる犯罪行為に対して取り締まりと処罰を強化せよとの指示文を下した。
(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界】28歳で頂点に立った伝説の男)
同省がこうして繰り返し警告を発する裏には、金正恩総書記の意向があると見てまず間違いない。
北朝鮮では1990年代の大飢饉「苦難の行軍」に際しても犯罪が増加し、当局は公開処刑などの厳罰で治安回復に臨んだ。深刻な食糧難が伝えられる昨今においても、当時と似たような状況になっているのかもしれない。
その一方で気になるのは、「ヤクザ者」や「集団(の犯罪)」といった言葉だ。
実は、国際社会による制裁が続く中、経済難の深刻さが増す北朝鮮で「ヤクザ勢力」が台頭しているとの話は、以前から伝えられていた。
RFAは4年ほど前、平安北道(ピョンアンブクト)の消息筋らの話として、「新義州(シニジュ)で数十万ドルの資金を元手に高利貸しをしている業者は、すべて暴力団と手を握っている。暴力団は返済の滞った債務者に対し、あらゆる暴力と脅迫を行使している」と伝えた。
消息筋によれば、資金難に陥った会社などが「トンジュ(金主=新興富裕層)から高利のカネを借りて新たな商売に挑戦しているのだが、トンジュは毎月元金の5%〜10%に達する利子の支払いを求めている。支払いが滞った債務者に対しては、暴力団を動員して強制的に取り立てている」という。
また別の消息筋によれば、このような取り立てを行った場合、暴力団は回収した額の30%を報酬として受け取る。そのため、暴力団は「数十万ドルの資金を高利貸しで運用しているトンジュ数人から回収を請け負うだけで、十分な資金を確保することができる」とのことだ。
ではいったい、保安署(警察署)などの司法機関は何をしているのか。
「暴力団はこうして稼いだカネで司法機関の幹部を買収している。そうして地域内の利権を握り、好き勝手に暴力を振るっているのだ」(消息筋)
つまりは警察と暴力団がグルになっているというわけだ。これでは、庶民は何も頼りにすることができない。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
社会安全省が言及した「ヤクザ者が良からぬ考えから党幹部や行政幹部、安全・保衛要員を襲撃」しているとの話も、もしかしたら利権がらみの話なのかもしれない。