えっ!遺言書に「お墓」の引き継ぎを書けるの?
田中昭一さん(仮名・85歳)は、来年で創業100年を迎える田中呉服店の4代目です。子どもは地元の市議会議員を務めている長男・一郎さん(仮名・55歳)と家業を継いで時期5代目の次男・二郎さん(仮名・52歳)の二人です。
昭一さんは、「来年の創業100周年に二郎に正式に5代目を継いでもらおう。それには私の遺産分けでもめないようにしておかなくてはいけないな」と考え自筆遺言を残しました。
それから3年後、昭一さんは亡くなりました。自筆遺言のおかげで遺産は滞りなく妻と二人の子どもに引き継がせることができました。しかし、お墓の引き継ぎの話になったときでした。一郎さんは「長男が引き継ぐのが当然だ!」と言えば、二郎さんは「5代目の俺が引き継ぐのが筋だろう!今までも当主が引き継いできたんだから」と真っ向対立。二人にとってお墓は家のシンボルであり地元の名士として仕事上でも譲れないものなのです。
お墓の引き継ぎをめぐって、二人の仲はすっかり険悪になってしまいました。このままだと裁判で決着をつけることになりそうです。
遺言にお墓の引き継ぎが書ける
民法は、家系図・位牌・仏壇仏具・神棚・十字架などの祭具、お墓・墓地といった祖先を祀る財産(これらを「祭祀財産」といいます)を承継する人(「祭祀主宰者」といいます)の順位を、一般の相続財産とは別にして次のように定めています(民法897条)。
第1順位:被相続人(亡くなった人)が指定した者
第2順位:被相続人が指定した者がいない場合は慣習にしたがって決める
第3順位:被相続人の指定がなく慣習が明らかでない場合は家庭裁判所が決める
祭祀財産を一般の相続財産とは別ルートで承継させるのは、祭祀財産が「家」や「姓」と密接に結びついた「特殊な性格」を帯びているからです。
このように、祭祀財産は被相続人が指定した者が第1順位で引き継ぎます。指定方法は特に決められていないので遺言でも当然できます。
お墓のことは忘れがち
昭一さんはせっかく遺言書を残したのにお墓の引き継ぎに関しては書いていませんでした。実は、昭一さんのようにお墓に関しては遺言書に残すのは一般的に忘れがちです。
お墓のことはこう書く
最後に祭祀主宰者を指定する遺言の文例をご紹介します。このように遺言書に書けば、お墓をはじめとする祭祀財産を、より確実に指定した人に引き継がせることができます。
第〇条 遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、次の者を指定する。
住 所
職 業
氏 名
生年月日
お墓の引き継ぎでもめてしまうと感情的にも根深いトラブルになるおそれがあります。もし、お墓をお持ちであれば、引き継がせようとお考えの方にお墓の引き継ぎに関して話して承諾を得た上で、遺言書にその方を祭祀主宰者として記載しておけば、お墓の引き継ぎでもめることはまずないでしょう。